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 ……結局、時間になるまでりんさんにナムルとか塩キャベツとかあーんしてもらうだけで終わったなあ。いや私が食べたいものが何かってのを選ぶとね、どうしてもこう、食べやすいものになっちゃうのよ。だって仕方ないじゃん、もたれるのよ! 胃が!! 普段ろくにご飯胃袋に収まってないから!!


「それでは皆様、おやすみなさいませ」


 眠っている高橋さんを、お付きの……えっと、いつも私を送り迎えしてくれる人に引き渡し、帰っていく高橋さん……こんなところに高級車って違和感凄かったね、凄い写真撮られてたねあの車……。

 

「いやあー、食べた食べたー。……みちるんは大丈夫? 食べたりなくない? というか食べ足りないでしょあれは」

「あっ、いえ、大丈夫です。普段はもっ、もっと少ない量をたべ、食べてますので……」

「草食動物に餌付けしてるみたいだった」

「ちょっとりんー!?」


 私に食べさせてた感想があんまりにもあんまりだったのに、はくりちゃんがりんさんにチョップをする。

 確かに中盤以降明らかに楽しんでたねりんさん。次から次へと運んで来てて、りんさんが食べる分より私に食べさせた分のが多かったんじゃないかな。


 迷惑じゃないならよかった……動物扱いは別にいいよ、うん。前世の母親からされたこと考えたら……鞭でこう、バシッとされまくったからね。動物扱いってのはこういうことを言う。

 ぶっちゃけもう痛くないならそれでいいようになってきつつあるのがかなり不味い傾向な気がするんだよなあ私。


 ……むしろ、りんさんの方は大丈夫なんだろうか。お腹空いてるんじゃないかな。


「あのっ、こっこの後カフェにいきっ、行きますか? りんさん、あん、あんまり食べて無さそうでしたし……」

「大丈夫、ちゃんと腹八分は食べたから」


 自分のお腹をぽんぽんと叩いてそうアピールするりんさん。いつの間に!? いや考えてみたら合間合間に肉食べてたわ。肉食べて煙草吸って私に野菜食べさせてってやってたわ。

 ……この人、私を主食に肉食べてた……? いや主食は煙草か。食べるじゃなくて吸うだけど。


 もう時間も遅いし、りんさんがちゃんと食べたってんなら今日はもう解散かなー……なんて、街の光で月以外何も見えない夜の空を眺める。

 まだもう少しこの時間を大切にしたい。……もう少しだけ二人と一緒にいてもいいかな。なんて……ギター弾けない私に居場所なんてねぇよ。


「あっ」

「ん、どしたんみちるん」

「きっ、綺麗な満月……」


 ふとおもむろに空を見上げてみたら、まるでお饅頭のように丸い月が、街の明かりに負けないくらいらんらんと輝いていた。

 星空が見えなくなっても、月はこうして見える。……星座の集まり《ゾディアック・クラスタ》からしたらどうなんだろうか。


「……饅頭食べたくなってきた」

「りん、あんだけ食べてまだ食べ足りないの?」

「甘いものは別腹」


 なんとなく、普段全然量を食べない私もわかるかも……? なんて思いながら二人の会話を聞いていると、私の隣で、カチッという音と紙に火が付く音が聞こえた。

 まあ、食後だもんね。私もちょっと久しぶりに吸いたくなってきたけど……流石にね。吸うにしても、やることがあるからそれが終わってからだなあ。


 私が風上にいるので、煙草の煙がこちらに流れてくる事は無い。私は全く気にしてないけど、二人はそうやって静かに気遣ってくれている。

 たまにそれが、とても嬉しく感じる。


 りんさんが煙で輪っかを作って遊んでいると、その隣で吸っていたはくりちゃんが、火先が真っ赤に燃える煙草を咥えながらひょこりと顔を出した。


「次のライブもだけどさ……練習とか、今後の予定どうする?」

「多分明後日に新曲作れると思うから、ひとみのスケジュールが良ければそれの練習したいね」


 新曲、新曲かあ……楽しみだなあ。りんさんが作った曲に私の歌詞が載るのか、私が作った曲にりんさんの歌詞が載るのか。はたまた他の誰かの歌詞に曲が載るのか。

 何にせよ、新しい曲を演奏できる。練習して既存曲の完成度を研ぎ澄ませるのもいいんだけど、新しいものに挑戦するのもまた楽しいからね。


「たっ、高橋さん……上達してきてますし、すっ少しレベル上げても、いっいいかもしれませんね」

「……みちるレベルの上達?」

「あっいえ、一般レベルです、いっ一般レベル……」


 りんさんに懐疑的な目を向けられたのでそこは焦って否定した。流石に私レベルの腕に挑戦するのは……驕りでもなんでもなく、今の高橋さんの練習量では、まだしばらくは無理だからそこまでのレベルは要求しないよ。


 私くらいの練習量をやらせるってなると……習い事も全部こなして勉強もするってなると、もうほぼ確実に過労死するレベルだからね。流石に私にもそのくらいの自覚はあるよ。


「……確かにひとみん、すっごく上手くなったよね」

「うん。みちるが教えるの上手いってのもあるんだろうけど、ひとみがひたむきに練習してたからだね」

「えっ、えへへ……」


 りんさんが私の頭を撫でながらそう褒めてくれて、ふふっ嬉しい……頭撫でられるのって気持ちいいなあ。子供の頃は全然そういうことされてこなかったから……褒められた事も無かったな親に。

 なんか、やる気がすっごい湧いてくる。ただギターを弾きたいってよりも、みんなと一緒にてっぺんを目指したいって気持ちが強くなってきている感じがした。


「よっ、よーし……それじゃあ明日から、がんっ頑張りま──」

「みちるん、スマホ鳴ってるよ」

「光ってるね、すっごい」


 スマホ? なんでこんな明日から頑張ろうって時に鳴るのかな。

 ……無視してもいいけど、高橋さんからのメールだったら悪いし一応確認しておこう。


「……あっ、足立山さん?」


 明日明後日の楽しい予定を計画していると、不意にスマホが震えた。

 タップしてYARNを開くと、足立山さんからメッセージが届いてる。……こんな時間に? 帰りに何か買ってきてほしいのかな、と開いてみると……。


「あっ、その、えっ……急に……?」

「なになに、どったのみちるん?」

「……何か予定入ってた?」

「は、入ってたといいますか、入っちゃったといいますか……」


 ううっ、もう予定決めちゃってたのにごめんなさい。私も不本意なんです、すっごく不本意なんですが……ただ避けては通れない案件が入ってしまった……!!


 メッセージにはたった一言、明日明後日予定ある。……足立山さんは基本、こんな簡素なものは送ってこない。ってことは……ライブ後に復讐のお手伝いかあ。

 正直気が進まない、気が進まないけど……古川さん巻き込んだし高橋さんにも迷惑かけたしで、やり返さないと我慢ならないって気持ちもある。あるんだけど……あるんだけど……!!


 予定が詰まり過ぎてる!!!!

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