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 さて、どうしよう……。


 食べ放題店、満腹殿。二千円という学生にしてはそこそこの値段がするが食べ放題店として見たらかなり格安なこのお店は、いつもの飲み食いとは違って学生の打ち上げをするにはもってこいなお店。焼肉と寿司とステーキとそのほか色々なバイキングがあるからね。闇鍋ならぬ闇食べ放題といったところか……!!


 何より我々バンドマン──というより不良としては、未成年が酒を飲んでも見ないふりしてくれるし、全席喫煙席なので未成年でも問題なく煙草を吸える。

 いや問題しかないんだけどね、未成年が吸うのは!! でもまあ未成年も酒や煙草普通にやるからね、うちのバンドは……。


 ビールをジョッキに告いで飲んでを繰り返すはくりちゃん、肉の主食(おかず?)に煙草を吸うりんさん。……周りの視線がちょっと痛いけど、誰も触れたくないので無視してくれている。治安が悪いところでよかったぁー!! よかったと言っていいんだろうかこれは。


 さて、それで私は……


「みちるーん! 食べてないねー!! あっははっ、その状態じゃ無理だねえ!!」

「はくり、飲みすぎ。……みちる、大丈夫?」

「だっ、大丈夫です。はい」


 さっきから私の胸で泣いてる高橋さんを慰めて全然食べられてません。この人声を出さずに泣くんだなあ、なんて思いながら背中を撫でてます。ああ、なんか服に涙が沁みていく感じがする。


 ……私達が盗み聞きしていた、高橋さんの告白。……古川さんを支えたいから、という理由でフラれてしまった。

 で、盗み聞きした私達の存在もバレてしまい……こうなったという訳よ。体重はかけてきてないけど、がっつり抱き着かれてて動けない……。

 岡村さんは別のバンドとの打ち上げとかでいないし、どういう訳かりんさんとはくりちゃんの方には行かないしで……私が慰めるしかなくなってる。この一番恋愛と無縁な私が!!


「……盗み聞きしたんですから、受け入れてくださいまし」


 目元を真っ赤に腫らして、涙声でそんなこと言われたら突っぱねることもできず……盗み聞きしていた罪悪感もあってで、受け入れざるを得なくなってしまっている……。

 小食だから食べ放題で食べられない状態になってるってのも、まあ気にはならないし私の分の支払いは高橋さんが持つって言ってくれたけどさあ……。


「私が……私が好きでしたのに。あの女よりも、私の方が好きですのに……どうして、どうしてなんですの……?」

「フラれた痛みはお酒で流すに限るよー? 飲んじゃおうひとみん!!」

「未成年ですわ……」


 当たり前のように飲酒を進めるはくりちゃんの誘いを、当たり前のように断る高橋さん。もうこのやり取り三度目……というか本当ナチュラルにお酒飲むなあ。

 ……不味い。前世の時の記憶が……酒を飲んでいた時の記憶が蘇ってきやがった……。当時所属していたバンド、クロコダイルのメンバーと一緒に飲み明かしたなあ。そんで潰れて気が付いたら全く知らないところで終電の電車降りて……今となっては懐かしい、良い思い出だ。


 ……後、他のバンドメンバーが、彼氏が寝取られたとかなんとかで愚痴を聞いてたら酒が進んで……なんてこともあったねえ。昔っからなんでかよく人生相談というか、こういう状況に陥りやすかったのは何だったんだろう。私が一番相談に乗ってほしかったのにね!!


「……というか、私達には来ないのは何故? 来てほしくはないけど」

「私らにわき目も触れずに一直線だったよねー、ちょっと寂しいぞーひとみんー」


 私の胸の中で静かに泣いていた高橋さんが、真っ赤な目で二人に振り返って言った。


「……だって、煙草臭いんですもの」


 その言葉に二人の動きがピタリと止まった。……また私の胸の中で泣き始めた高橋さんの言葉に、私は何のフォローもかけてやることができない……。

 前世も今世も吸う人に囲まれて育ってきてるから私は気にしたことないから分からなかったけど、高橋さんからしたら臭いものなのか……臭いって言うよね、私にはわかんないけど。


「……今更辞められないから、諦めるか」

「そうだねー」


 そこで我慢ではなく諦める方向にいくのが喫煙者だよね、わかるわかる。でもそんな即座に吸うのはどうかと思うよりんさん。そしてはくりちゃんも吸い始めちゃったよ。

 今未成年しかいないとは思えないなあ、ここ……。


 りんさんとはくりちゃんが、お互いに加えている煙草を一本のマッチに近付けて火をつけて、換気扇の方に口から出たものを吸い込ませる。

 私はその様子を高橋さんを慰めながら眺めるしかない。二人に食べさせてもらう、という方法も一瞬考え着いたんだけど、高橋さんの服を汚しかねないから断念した。でも流石にちょっとお腹空いてきたな……。


「……みちる、なんか取ってこようか?」

「あっ、じゃあナムルお願いします」

「お肉じゃないんだねえそこ……」


 この状況じゃお肉なんて食べられないからねはくりちゃん。高橋さんの服に付いちゃうからね。

 ……にしても、長い。フラれてそんなに泣くものなんだろうか。付き合えなかった、で即興味ない枠組みに入れてそれでおしまいなんじゃないの? って思うんだけど……まあ恋愛観はひとそれぞれだから何も言うまい。


 りんさんに、取ってきてもらった三色野菜のナムルを食べさせてもらう。やっぱ顔がいいなありんさん、火傷跡がコンプレックスらしいけど全然気にならない。イケメンに分類される顔の人にあーんしてもらうってこれ何らかのお金発生しない?


「みちる」

「ふふぁい?」

「……ひとみ、見て」


 私に抱き着いてる高橋さん? それがどうし……


 ね、寝てる……。泣き疲れたのか、真夏に外に出た時みたいにシャツがぐっしょり濡れてる中、高橋さんが私を完全に抱えて寝てる。

 ……完全に抱えて寝てる!? ちょっ、どうしよう。動けないぞこれ!? 高橋さんにがっつりロックされてる!?


「ずっと頑張ってきて、その結果がこれだもんね。寝ちゃうくらい泣いちゃうのも仕方ないよ」

「そっ、それはそうなんですが、それはそうなんですが……!!」


 りんさん、優しいまなざしで高橋さんの頭撫でてる場合じゃないから今! 私脱出不可能なってるから!!

 どっどうしよう……ご飯食べられないのはいつもの事だからいいんだけど、食べ放題ってのは制限時間がある訳で、その時間まで起きなかったら……延滞金とか支払わないといけない? そうなったら、折角黒字になった収益が赤字に……はならないにしても、不要な出費を発生させてしまう!


 どうにかしないと、どうにか……どう、にか……。


「……あの、りんさん」

「なに?」

「はくりちゃん、よっ酔いつぶれてます……」


 はくりちゃん、ビールジョッキを掴んだ手の指に煙草を挟んで、机に突っ伏して幸せそうに寝てる……。まるで絵に描いたようなダメ人間……!!

 りんさんがはくりちゃんの手から煙草を抜き取って、体を揺らす。これ大丈夫かな、ちゃんと起きてくれるんだろうか。


 これ、ずっと同じ体勢を撮り続けるという結構体が痛くなる状態を維持しながら、二人が起きるのを待つしかないんだろうなあ……。

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