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……私達が全力を出し切ったライブの感想を聞いた時、なんとなく理解した。ああ、永井さんに気を遣われているんだな、と感じた。
別に、その評価が気に食わない訳じゃない。むしろ……だろうな、という納得の方が勝っていた。
……私が、永井さん達のバンド、ゾディアック・クラスタを始めて見た時。見たのはあの時だけだったけど……あの時に比べて私達の腕も上がった筈。だけど、やっぱり追いつけてない。あの頃のゾディアック・クラスタにさえも。
「わかってはいたけど、やっぱりショックだねぇ……」
「んなもん分かり切ってたこったろ」
健司がタコスロールを齧りながら、落ち込んでる私に呆れたように言う。
そういやこのライブハウス、上のタコス専門店と提携してるんだったっけ……でも頼んでるのあんた一人だよ健司? いや美味しそうだけどね? 実際美味しいんだろうけどね、このハコ入る前に店内軽く見た感じ賑わってたし。
「ちょっと頂戴」
「半分頂戴」
「あっ僕も僕も」
手つかずの奴を貰って、私も食べてあの五人組の出番を待つ。
素手で割って、伸一の淳に渡す。残ったのは無残に半分に割られたタコスロール……健司ごめん、本当ごめん。だからそんなさ、おもちゃ取り上げられた犬みたいな目をしなくても……。
まあ一度手を付けた手前食べるんだけどね。おっ、美味しい……ピリ辛サルサソースと甘苦いヨーグルトソースが肉の旨味とマッチしてる……流石タコス専門店系列バンドハウス。
「俺の……俺のタコスロール……」
「美味しいねこれ、流石健司食いしん坊が目を付けるだけはあるね。……帰り上の店で食べて帰らない?」
「賛成。もっと食べたい」
「タコロール……」
結構グルメだからね健司。だから味に関しては保障されてるんだけど……いや本当美味しいこれ。しかも食べやすいし、食べる時に音が鳴らないからライブの邪魔もしない。ライブハウスでタコスロールは始めて見たけど結構良いねこれ。
なんて、取られてしょぼくれてる健司の横で食べながら、演奏しているバンドが舞台裏にハケていくのを眺めていた。
最初は私達の直後に出るつもりだったらしいけど、初のライブで緊張してた私達の為に色々話したいからと態々二つ開けてくれたゾディアック・クラスタ。……他のバンドマンより準備がテキパキと進んでるのは気のせいかな。
いや、高橋さんはともかく他のメンバーはサポートの依頼でそこらじゅうのバンドから引っ張りだこなんだっけ。噂によると毎日のように他のバンドで演奏してるらしいから、踏んだ経験でいえばそこらの古参バンドマンより豊富らしい。高橋さんは……そもそも手順を覚えない訳が無いよね、ゲームでも真面目に授業受けて好成績だったし。
……ゲーム内だと誰に指導されることなく、演奏ステータスがかなり伸びてる状態のこのメンバー相手に見劣りしない演奏技術を持っていた彼女だ。それが永井みちるというギターの化け物のような人に指導されたらどうなるか。
初めてここに来た時の演奏も十分凄かったけど、恐らくそれ以上に上達しているだろうなあ。……永井さんをうちの軽音部に入れて、教えてもらった方がよかったかもしれないなあ。
なんて昔を懐かしんでいると、もう準備が終わったみたいで高橋さんがマイクを手に取った。
『皆さん、私達はゾディアック・クラスタ……皆さんの一年、十二か月全部を私達の音楽で埋め尽くすのが目標です。……でしたわよね、谷野さん?』
『そこで私に振らないで、それははくりの役目だから』
『えぇっ!? いやいやいや、リーダーはみちるんだし!!』
『うえっ!? わっ、私ですか!? そそそ、おか、MCは岡村さんのがむい、向いてるんじゃ……』
『サポートにやらせないでよ、ねえ高橋さん』
『なんで皆さんでたらい回ししあってますの!?』
高橋さんのツッコミで、クスクスと笑い声が漏れ出た。
いやずるいじゃん、あの真剣な表情からその表情はズルじゃん……!! MCもなんか上手くなってない? しかも全員巻き込んで……。
『こうなったら音楽で汚名返上を……コホンッ! とにかく……聞いてくださいませ。イモータルな君と僕』
イモータル……不死? と疑問に思った瞬間、永井さんの激しい早弾きから始まった。
ロックを自称してるっぽいけどやっぱどっちかというとメタルだよねこれ……永井さんのギターに負けないような、むしろさらに煽るようなダブルタイムのリズム。深みを増すベースライン。……やっぱこれロックじゃなくてメタルじゃない!?
そして激しい曲調をピリッと締めるキーボードのメロディが、ただ激しいだけの曲という印象から一転ある種の神秘さを醸し出している。
基本的に、とにかく技法を要求されるのがメタルの特徴って認識がある。まあ永井さん達はロックを自称してるけど……。
というかこのテンポについていけてるの凄いなあ高橋さん。こんな激しさのみを摘出したような曲なのに……彼女の演奏が、声がノイズになっていない。ちゃんと存在感がある、ギターボーカルとして全体を引き立てている。
下手をすれば……ううん、ほぼ確実に、私達よりレベルは上だろう。
だって、演奏が始まってから私達は、ステージで歌う高橋さんを、ギターをかき鳴らす永井さんを見上げて、私は目を逸らせないでいるんだもん。
「すっげぇ……」
「……言葉が、出ない」
「あれ、まだ初めて一年も経ってないんだよね……?」
そう。原作でもこの世界でも、高橋ひとみは入学するまでギターを触ったことが無かった。それでもゲーム内で強敵として立ちふさがり、そして彼女が歌った曲は人気を博したもの。
それが、ちゃんとした人に師事されるだけで、こうも凄まじい速さで上達するとは……いや永井さんがちゃんとした人かどうかっていうとちょっと微妙だけど。
でも、そうか。高橋さんが音楽に、ライブに特化したらこうなるんだ。ここまで引きずり込まれるんだ。
「……ずるいなあ」
自然と、言葉がこぼれ出た自分に驚いた。
努力はしている。それは知っている。
それでも普通は、たった一年費やしてもここまで磨き上げる事なんてできない。
だから嫉妬してしまう。前世も含めた努力の結晶が、一年にも満たないあの子に追いつけていないことに。
羨ましい。妬ましい。……いつか超えてやる。音楽の腕で。高橋ひとみ、だけでも超えてやる。
永井さんは無理です何あの化け物。
やがて演奏が終わり、先ほどまでの激しさから一転、ハコ内が静まり返る。
……そして爆発したように歓声が、私達の時よりも大きい拍手が鳴り響いた。
普段こういった曲を聞かない同級生も、このハコの常連であろう客もみんな。ゾディアック・クラスタを讃えている。
……本当に凄い曲を聞いたら、こうなるんだ。勝てないなあ、永井さんは。
『それでは次……行って大丈夫、ですわね?』
『私達は大丈夫だけど……』
『すっごいバテてるけど大丈夫ひとみん?』
やっぱりついていくの大変なんだ……他のみんなは汗をかいてないのに、高橋ひとみだけあの一曲ですっごい汗をかいている。
ついていけるだけでも凄いんだけどね。
『大丈夫ですわ! ……ふう。それでは次の曲、行きますわよ』
息を整え、真っすぐ私達の方──というより、健司の方を見つめながら、高橋さんは、次に演奏する曲名を告げた。
『──ベゴニア』




