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古川さん達のライブが始まった。
やっぱりというか当然というか、私がライブの告知をした時よりも顕花高校の生徒の数が多い……んだと思う。同年代だから多分そう、でも私服だから正直分かんない。
顔? わかる訳ないでしょうが、私に別クラスの生徒の顔が!!
「……やっぱり上手いねー古川さん達」
「そっ、そうですね……」
どういう訳か犬鳴さんにぬいぐるみみたいに抱きしめられながら、古川さん達のライブを見ていた。
曲名が歌詞に少し思うところというか、なんかあきらか転生者狙い撃ちな感じがするのが少し気になるけど……確かに、上手い方ではあると思う。
ギター、ベース、ドラム……うん、年齢を考えればかなり上手いと思う。曲調もキャッチャーで盛り上がりやすいし、現に顕花高校から来たであろう若い子達からのウケはかなり良さそうな感じ。
歌詞もキャッチャーだね。やり直して夢を叶える、か。……これ今の古川さんの人生について書いた歌詞かな。
犬鳴さんが私を抱きしめる力が少し強くなった。
「結構肩に力入ってるように見えるけど、お嬢大丈夫かな……」
「わっ、私達がいますから……だい、大丈夫ですよ」
「おおー、言うねぇ永井さん」
私の頭をぐりぐりと撫でまわす犬鳴さん。犬鳴さんは私と違って明るい表情の方が似合ってるね、うん。
まあ私は犬鳴さんとは違って、高橋さんの事を全然心配していない。古川さんのライブ、えっと……名前、なんだったか……古川さん達のバンドは確かにかなり上手い。実際、かなりの青春時間を費やしてるんだろうなというのは聞いて取れる。
「……そっ、それにここは、ほっホームみたいなもの、ですから」
ただそれ以上に、高橋さんはここで何度もライブをしたという実績があり、そしてファンも着実に増えているという成功体験。そして私達だ。古川さん達に比べて肩の力を抜いて演奏できるし、なにより私達のファンがちゃんと見に来ている。勝敗の判定がよく分からないけど勝ったなガハハ。
……なんかこのライブが終わったら告白するって言ってたのが懸念点だけど。無駄に背負いすぎてなきゃいいんだけど。
「……なんか寂しい」
「あっ、うえあっ?」
なんか抱きしめる力強くなったんだけどなんで!? 寂しいって……あー、そういえば確かに、バンド始めてから高橋さんと一緒にいる時間無くなったのか。
そう考えたら私が高橋さん奪ったみたいで申し訳なくなってきたな? やりたいって言いだしたのは高橋さんだけども。
「こっ、今度あそ、遊びに誘ってみたらどうですか? こと、断ること、ない、無いと思いますから……」
「……そうする」
犬鳴さんに体重を預けながらそう言ったら、やっぱ抱きしめてきた。私の事ぬいぐるみだと思ってないか犬鳴さん? 身長的には私の方が高いんだぞ犬鳴さん!! 猫背だから身長高いって思われること全く無いけど!!
まあいいや。今は抱きしめられながら古川さん達のライブに集中しよう。
といっても正直コメントに困るんだよねぇ。何というか歌詞がキラキラしすぎてて……評価とかする前にメンタルにダメージがががが。
うぅっ、青春系ソングとか恋愛ソングはすんごいデバフ。死ぬ。これ、毒です。うえっってなる。
こちとら前世の記憶と今世の待遇(実の親に殺しにかかられるくらい愛されてなかった)でメンタルゴミクソなのよ! 輝けない、輝けないよこんなんじゃ……。
とメンタルにダメージ受けながら古川さん達の曲を聴いていると、ふらふらとこちらにやってくる二人の姿……。
「あっ、永井さんのメンバーの人達」
「みちるーん……」
「私達には……私達には明るすぎる……」
はくりちゃんとりんさん、なんでそんなゾンビみたいな足取りで抱き枕状態にされてる私の方に……。
いや、わかる。わかるよ2人とも……こうも違う世界を歌われたらそうなるよ。しかも顕花高校っぽい生徒見る限り歌詞に共感してるっぽいのがこう、疎外感をね……。
「こんくらいの歌詞普通じゃないですかね?」
「そっ、そうですか……? そうですか?」
「これが光の側の人間……!!」
「……あれ? みちるんも同じ学園だから同じ属性の筈なのに……」
いやそんな目で見ないではくりちゃん……違うのよ、私確かに同じ生息域に属してるけど属性は全く違うのよ……。
驚いたよね、陰キャ(顕花高校内では暗めだなって評価されるくらいでそう呼ばれることはない)が普通に挨拶してたり、夢語ったりしてるもんね。それも希望に満ち溢れたキラッキラした感じの。
私? そのグループに境遇話して「今は幸せですね」って言ったらガチでドン引きされたよ。
その後寝る前にそのことを思い出して泣いたよ。
「……ところで、みちるはなんで抱きしめられてるの?」
「な、成り行きで……」
「成り行きでならなくない? まあいいけど」
説明したってきっと理解してくれないからそう言うしか無いのよ。だって私もなんで抱きしめられてるのか理解してないもん。よく考えたら本当に何故抱きしめられてるんだ私……? 別に不便してないからされるがままにされてるけども。
「……ところで、お二人から見たら古川さんの技術ってどうでか?」
「えっ? 急だねぇ……うーん、りんはどう思う?」
「普通」
はくりちゃんに投げたパスをすんごい無慈悲に一刀両断した。あーあー犬鳴さんもぽかーんとしてるじゃん。
正直それはちょっと思ったけど、でも学生レベルだったら普通に上手い方だからねりんさん! 感覚麻痺してるからね!?
はくりちゃんも、その言葉を否定せず曖昧に笑って受け流してる……ああ、そっか。そういやうちのハコ、レベルが高い方だった……。
そうだよね、初めてのライブで全く失敗しなかったし、トラも引っ張りだこだもんね二人とも。
でもね、犬鳴さんの表情がその評価に対する反応の全てだよ。唖然としてるもん。ぽかーんとしてるもん。
「……なんというか、お姉さまって凄いところに放り込まれたんですねー」
「いや、じゅっ充分凄いと思いますよ……たかっ、高橋さんも……」
犬鳴さん……なんか感慨深げに言ってるけど、ロックバンドだから要求される技術がお嬢様向きじゃないってだけで、バイオリンでコンクール受賞してるっての凄い事だからね?
いやでも、どうなんだ? 私、顕花高校のバイオリニストの数とか入賞した数とか知らないから何とも言えんぞ……?
とかなんとか考えてるうちに、古川さん達の演奏が終わった。うん、良い曲だったよ。メンタルダメージ喰らってしまってたけど。
……前の方であの人たちのライブを見ていた高橋さんの表情は、どうも私が理解できるようなものではなかった。




