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ライブ終わったらどろっどろとした復讐劇に参加しないといけないんだよなあ……と少し憂鬱になりながら私は、右手に高橋さん左手にりんさんという状態でステージ上でかき鳴らされるメロディに耳を傾けながら、今日初めて学園外でライブをする古川さん達の方を横目見る。
古川さんは……多分転生前はバンドマンだったんだろうな、これから演奏するというのにそこまで目立った緊張は見られない。逆に男達の方が少しガチガチになってるように見られた。
まあ未成年で、しかも初めてのライブ……そりゃ緊張するよね。まだ顕花高校の生徒の姿も見受けられない、大人ばかりな状況だし。
なんというか、ゲームのキャラがこうして年相応な面を見せているのはこう……にっこりほっこりするね。まあ私原作やった事ないんだけど。
「……普通、人が集まってからプレッシャーで吐くものじゃない?」
「ひっ、人がいっぱいになると……ぎゃぎゃっ、逆に覚悟が決まるといい、言いますか……」
「そういうものなんですの?」
そういうもんなんだよ。特に社会というどぶの荒波にもまれた人間は。いや主語がでかいなこれは、私だけかもしれんなこれは。
でもさ、全くの未経験で資料もろくに渡されてない状態で営業に出されて全く説明できず怒鳴られまくるって経験したらね……なんというか、いる時は覚悟を決める事が出来るようになるのよ。いない時にマジで嫌だって吐いちゃうけど、ね!! 駄目じゃねえか。
目だけを動かして周りの客の服装を確認。バンギャ、バンギャ、そしてバンギャ。よし、まだ大丈夫、
……私が開店してからまだ吐いてないのは、顕花高校の生徒の姿が見えないってのも大きい……んだと思う。多分。
私のファンの方とか、ごく少数なら……ギリなんとかなるけど、そうじゃないからね。古川さんところのファンってなると、もう殆どが顕花高校の生徒。
つまり、普段は目立たないけどよく一人でトイレに行ってる姿は目にする少しおかしな人間(オブラートに包んだ表現)にも、自然と注目が集まってしまう……!!
他人は自分が思ってるほど自分に興味が無いって? それはステージに立たない者の言い分だよ!! 嫌でも注目されるもん!! だって私、ギターは上手いから!! ギターだけは! 上手いから!!
捕らぬ狸の皮算用ならぬ見られぬミュージシャンの賞賛算用を脳内でしていると、後ろから誰かが抱き着いてきた。
いや私にこんなことする人は一人しかいないんだけどさ。
「みちるんとひとみんのお友達、かなり緊張してるっぽいねー」
でも距離が近いよはくりちゃん、りんさんと私の間に顔をねじ込んでいうんじゃないよ。あっあっ良い匂い……これお金取られる奴じゃない? 大丈夫?
「鑑賞してらっしゃる方達も、学園ではまず見かけないような方ばかりですもの。流石に緊張の一つくらいしますわよ」
「いやー、若いっていいねぇー。私らもああいう風な状態なってた時期が……あったっけ?」
「無かった」
はくりちゃんとりんさん、初めてのライブの時でも特に緊張したりしなかったんだ……凄いな? 私でも初ライブの時はすっごい緊張したのに。というか二人とも十分若いと思うよ。演奏技術はプロ顔負けだけど。
まあでも確かに、あの三人を見ていると昔の私を思い出すね。前世の私の、数少ない良かった記憶。良い青春の思い出の記憶……こういうのに浸ると前世に戻りたくなっちゃう気の迷いが発生するんだよねぇ。実際は全く戻りたくないのに。本っ当に戻りたくないのに。
ああもうなんでさあ、良かった記憶思い出そうとしたら芋づる式に嫌な記憶も思い出しちゃう訳!? 良い記憶は良い記憶で思い出したいのに!!
よし他の事考えて塗り替えよう忘れよう……忘れる? 忘れると言えば……。
「あっ、そういえば……」
「どうしたの、みちる」
「わっ、私達が演奏すっ、する順番って……すけ、スケジュール……古川さんところのと、じゅっ順番どうなってましたっけ……?」
そう、色々重なってすっかり忘れてたけど、今日は古川さんとことのバンドと対決……といっても勝敗を決める方法が全く決まってないので主観でこう、良い感じにどちらが上手かったか勝敗決めるしかないんだけど。……演奏する順番、どうなってんだっけ。そういった手続きやってる間はずっと吐いてたから分かんないんだよね。
「Pitohuiの二番目くらい後に入れさせてもらったよー」
「あの子達は初めてのライブ、終わったら色々と話せた方が安心すると思うから」
はくりちゃんとりんさんが私の頭を撫でながら、私の質問に答えてくれた。
私と高橋さんのワガママだっていうのに、快く聞いてくれる二人めっちゃくちゃ優しい……順序とかスタッフへのやり取りとか全部任せてしまってるもん。いつもありがとうございます。
と聞いている間に演奏が終わった。これの次の次、くらいからPitohui……えっと、多分だけど話の流れ的に古川さんとこのバンドののライブが始まる。
……私、今初めて古川さんとこのバンド名知ったよ。そんな名前だったんだ、あのバンド……。
「……相変わらず甘やかされてるねぇ永井さんは」
トラを終えた岡村さんが、タオルで汗を拭きながら苦笑いでそう言ってきた。
私は即座に振り返り、頭を下げる。癖になってるんだ、頭を下げるの。
「おっ、お疲れ様です。その、えっと……今日もよろしくお願い致します!」
「いや、確かにサポートっていうビジネスな関係だけどさあ……もっと気楽でいいよ気楽で」
「そうそう、こういう感じでいいんだよーみちるん!」
「……やっぱ今の距離感のままでお願い」
抱き着こうとするはくりちゃんを右手で抑えながら、呆れたようにそう言う岡村さん。
プライベート空間というか、距離感って大事だからね……はくりちゃん、不満をこっちにぶつけないではくりちゃん……すっごい抱きしめるの好きだねはくりちゃん!?
「……でさ、君達は最後の練習というか、確認しなくていいの?」
「喉を温存させる為には、あまりしない方が良い」
りんさんが、拳を握り締めて中谷さんを見つめている高橋さんを見てそう言った。
高橋さんの喉……? 別に私みたいに四六時中吐いて痛めてるって訳でもなさそうなのに? うぅん、思い出せない。普段との高橋さんとの違い……駄目だ色んなことが起き過ぎて……ノイズが、ノイズが邪魔をするぅ……!!
「元々激しい曲調のを演奏するつもりだからってのもあるんだけど、リハでもすっごい気合い入れて声張ってたからねー。流石にライブ開始前に潰しかねないのはちょっと……」
「えっ、そうでした?」
「みちる……もっと周りを見た方が良い……」
「永井さんって本っ当に他人に興味ないよね」
りんさんと岡村さんにジト目で睨まれながらそう言われた。
ううん、言い返せない……いや違うのよ、多分普段なら気付けたのよ。色々と問題事が起こったから、店長さんにバイトとかライブとかやってる場合じゃなくないってくらいの問題起こったから……そういう目で見るのは堪忍して……。




