84
帰りの車内、足立山さんの車の助手席に座りながら帰る私は……ぼんやりと窓から景色を眺めていた。
しずるお嬢様、お姉さま? に復讐を持ち掛けられた。私としてはそんなことするよりギターを弾いていたいものなんだけど、今後邪魔されることを考えると確かに手を打たなきゃいけない案件ではある……。
ちらり、と車を運転してくれている足立山さんを見る。
最初持ち掛けられた時こそ少し否定的だった足立山さんすらも、復讐として永井家を潰す事に賛同するくらいの事をやらかしていた。
……まさかお姉さまの彼氏さんが殺されてしまっていたとはなあ。流石金持ち、やる事半端ないわ。
「……お嬢」
「はっ、はい?」
「……うちは、しずるお嬢様の復讐に協力したいって気持ちっす。あの子が殺されたってのも、お嬢に対してしでかしたことも……正直、許す事は出来ないっす」
足立山さん……正直、話を聞いている分だと警察に通報した方が良いのでは? と思ったんだけど、どうもそうもいかないっぽいんだよね。
とはいえ私達の事を、自分の事のように怒ってくれている。本当、優しい人だなあ足立山さん。別に仕事と関係ないのに私の事置いてくれてるし。本当なんで?
にしても復讐、復讐かあ……。
「でも、しずるお嬢様も言ってたように……乗り気じゃないなら、しなくてもいいっすよ。やっぱ危ないっすし」
「……でっ、でも、まわっ周りを巻き込みかねないですよね?」
そう、私自身は正直、たまに殺しに来るくらいならぶっちゃけ前世と変わらないから良いんだけど……高橋さんや古川さん、友達を巻き込んでしまう事、これだけがネックなんだよね。
私はどうでもいいのよ、私は。ギター以外価値のない人間だから。ただみんなは違う。私のような腐った人間と違い、夢と希望に満ち溢れている。……だから、巻き込みたくはない。
でもこれ復讐って行動するとそれはそれで、だよねぇ……絶対周りに報復するよね。人間って、自分に対する害はある程度我慢できるけど自分の周りに対する害はメンタルダメージ大きく負っちゃうものなんだよね。私も一応その口。
つまり、復讐するのもしないのも、どちらにせよ友達に被害が及んでしまう訳で……
これは……どうすればいいんだ?
「……ねえ、お嬢」
「はっ、はい……?」
「逃げちゃうのもありかもしれないっすね。お嬢と私で」
「……はい?」
車を運転しながら、さも当然のように……明日一緒に買い物でも行こうかってくらいの気軽さで、足立山さんがそう提案してきた。
逃げちゃう……逃避行、ってこと!? いやいやいや足立山さん、なんでそんな……普段と同じ表情でそんな提案が出ちゃうのよ!?
「あっ、あのっ、それは……いっ、家とか、どうするんですか!? 買ったんですよね!?」
「立地良いから賃貸物件として貸し出したりで有効活用できるっすよ? 割とありだと思うんすけどね」
足立山さんが笑顔でそう言った。私を安心させるための表情、という訳ではない気がする。
というか、そんな簡単に割り切れるものじゃないでしょ。あの家は足立山さんが拘って建てた理想の家、そう簡単に手放せるものじゃない。
足立山さんと一緒に、というか連れられて住み始めたから、私はよく知っている。足立山さんがあの家にどんな思いを抱いているのかを。
「……本気、ですか……?」
「そりゃ家よりお嬢の方が大切っすからね」
こともなげに、当然のように、足立山さんはそう言ってくれた。
足立山さんはこんな事を冗談で言う人じゃない。
あの家を捨ててもいい、それも私の為に。足立山さんは巻き込まれてないのに、私と一緒に逃げる必要はないのに。当たり前のようにそう選択してくれる。そう本気で言ってくれている。
家族からも向けられたことのない無償の愛、それが妙にくすぐったくて……嬉しい、んだろうか。私は。こんな気持ちになったのは初めてだから、自分の心がよく分かってない。
でも、悪い感じではないかな。
……なのに、私の欲望だけを叶えるのは、足立山さんからの好意に何も返さないのは、不義理ってものだよなあ。
それに、なにより──気に入らない。
「……私、やります」
私の宣言に、足立山さんが急ブレーキをかけたので首ががくんってなった。痛いよ足立山さん! がくんってなったよ!!
「あっ、申し訳ないっす……!!」
「いえ、だいっ、大丈夫ですので……!!」
どこもかしこも肉が無くて骨ばかりだからそれなりのダメージは受けたけど……足をぐねった時に比べたら全然痛くはない……かなあ。
にしてもそんな驚かなくてもいいじゃん足立山さん!! 気を取り直して道路の端っこで車を止めた足立山さんの表情は……ううん、嬉しさを感じられてない様子。むしろ、罪悪感……? なんで……?
「……お嬢、無理しなくてもいいんすよ? そりゃ話に乗ってくれたらうちも嬉しいっすけど……でも、うちへの義理だけで、お嬢が手を汚してほしくはないっす」
足立山さんは私の頭を撫でてくれた。頭がポカポカする。
……別に、家からの命令で私を置いてくれている訳では無い、ごくつぶしの私を、足立山さんはこうやって優しくしてくれる。
無償の愛は落ち着かないから何か返したいけど、今足立山さんが求めているのは私の自分意思だ。だから、私が自分で考えて、自分で答えないと。
「あっ、いえ、大丈夫です。あのっ……足立山さんの為ってのもありますけど、ちゃっちゃんと、わたし、私がやり返したいから……ってのも、あっありますから」
「……それなら、いいんすけど……でも、なんで急にやる気になったんすか? あんま興味なさそうでしたっすよね? しずるお嬢様──お嬢のお姉ちゃんの為、って訳でもなさそうっすし……自分がされても、あんま気にしないタイプっすし」
「あ、あはは……その、ですね……」
足立山さんからの視線を合わないように目を逸らす。よくお分かりで…………正直、今日初めて認識した人が大怪我を負わされたからって、可哀想とはちょっとは思うけど、だからといってその人の為に動こうなんてのは全く思わない。
私への被害も、正直どうでもいい。今こうしてギターを弾けるし、そこまで嫌がらせの頻度があるという訳でもないし。
そう、私だけの被害であれば……
「……友達を巻き込んだのが、ゆっ許せないんです」
古川さんに怪我をさせてしまった。命の危険にさらした。
私だけを狙って、私だけを殺すのなら……まあ、受け入れられる。でもこればっかりはちょっと、許す事が出来そうにない。
そう答えたら、足立山さんは目を丸くしていた。そして目じりに涙を溜めながら、私に思いっきり抱き着いてきた。
「お嬢~~~~っ!!」
「わぷっ、足立山さん……?」
「うっ嬉しいっす、うち嬉しいっすよ~~~~!! お嬢が、お嬢が友達の為に……!! そんなに想える友達が出来るなんて……よかった、本当によかったっす……!!」
大げさじゃないかなー……なんて思いながら、足立山さんからの抱擁にされるがままになってる。
そりゃ足立山さん、もはや私の親以上にちゃんと親してる(というか今の私の親と全くかかわりが無い)所あるけど……でも大げさだよ足立山さん。
だって、普通誰だってムカつくでしょ。
なにせまだ対バンやってないんだから。




