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私の姉、……えっと、名前なんだったっけ? お姉さまの足は、見るも無残になっていた。酷い火傷跡に、まるで枯れ木のようにねじれ曲がっている。これでは歩くことすらままならない。縫合の痕も酷い……まるで小学生が初めてやる刺繍みたいになってる。
足立山さんが口元を押さえて出て行ったのも無理はない。……私ですら何も言葉が出てこないレベルだもん。
「しずるお嬢様……一体、ウチがいない間に何が……!?」
「あのっ、なっ、何が……なんで、こんっこんなことに……」
「付き合ってた彼氏と別れさせて、あいつが用意した御曹司と結婚させるためによ。絶対に裏切らず浮気しないように……って、先方の要望通りに加工された結果がこれよ」
「そ、そんな事……」
「……あの男ならやりかねないっすね」
諦めたように、しずるお嬢様……だっけか、が愁いを帯びた表情でそう言った。
私の隣で立っている足立山さんは拳を握り締めている。私は全く知らない人だけど、足立山さんにとっては……多分、子供の頃からよく知っている間柄なんだろう。
加工……確かに、この足は……付き合うと言う人も多くはないだろうし、遊びに出歩く事すらできない。確か、いびつな形で再生された足って歩くたびに痛みが走るって話だし、私は幸運にもそういう状態になった事はないから想定と聞いた限りの知識でしか判断できないけど。
……あれ? 別れさせるため? ってことは、お姉さまは恋人居たからこういう事をされてしまったって訳だよね?
……私恋人いませんが!? 私、恋人いませんが!? 狙われる理由無い筈じゃないですか!?
「その顔、なんで私狙われてるんだって思ってるでしょ」
「えっ、エスパー……!?」
「いや顔に思いっきり出やすいわよあんた……」
「お嬢様は結構表情に出やすい方っスよ~」
ずっとお世話されてきた足立山さんに読み取られるのはともかく、ほぼ初対面であるしずるお嬢様……? にまで察せられた!?
嘘でしょ私自認不愛想系だったんだけど。よく笑顔作りなさい云々言われてたくらいだし。
「そうね、あんたの場合、バンド、だっけ? あれ辞めさせたいんじゃないかしら」
「あー……」
「……えっ、なんで?」
お姉さまが出した、私の命(というか手足のどっか)が狙われている原因の予想は、(足立山さんは) 私が思ってもみなかったものだった。
いやなんでよ!? 別に父が私を誰かに宛がうのに不便な身って訳じゃないし、恋人いないし!! 私から反感を買うようなやり方しなくてもいいでしょ!? 何よりガッツリ犯罪行為……あれっ、誰かに頼んで怪我をさせるのって犯罪になるんだっけ? まあいいや、そこは重要じゃないし。
「体裁が悪いんでしょ。ライブハウスの中がどんなのかってのは知らないけど、私もおおよそ良いイメージはないわ」
「うぅん、お嬢のバイト先を思うと言い返せないっス……」
「えっ、そんなに悪いところじゃないですよ……? たばっ、煙草もちゃんと分煙されてますし……分煙、されてますし……!!」
「それ以外は出てこないの?」
「ちっ、治安とか普段気にし、気にしないので」
「……あの子、お嬢様よね?」
「の、筈なんすけどね~……」
お姉さま、すんごい困惑した目で見てきた。
いや日本の治安悪いところなんてたかが知れてるからねお姉さま? 私海外ツアー行った事あったけど(前世で)そりゃあもう……夜中出歩けないし日中も一人じゃ出歩けないしってなもんだったからね。それに比べたら日本の治安悪いところの治安だって十分暮らせるレベルよ。
前世の事話しても変なクスリやってんのかって思われそうだから言わないけど。
あとお嬢様らしい生活全くしてないです。実家暮らしバイト生活な人間ですので……夜はいいもの食べさせてもらってるけどそのくらいですよハハハ。
「……まあいいわ。あんたはあんたで私は私、所詮は他人、理解なんて出来ないもの」
「あっ、そっそうですね……」
お姉さまが諦めたようにため息と吐いた言葉に、私も頷いた。
所詮は他人、しかもずっと会話すらしてなかったくらいの他人だからね。私も、恋人作ってギターを弾ける時間を減らす事とか理解できないもん。あんなに楽しいものの時間をそぎ落とすとか……。
「……まっ、でも私と同じ目に遭うのを黙って見過ごすわけにはいかないわ。始末できればそれでよし、怪我して動けなくなったら実家を頼らざるを得なくなるから、政略の道具として使うつもりでしょうね。私みたいに」
「それはこまっ、困ります! ギター弾けなくなったら死にますので」
「それで真っ先に思い浮かべるのがギターなの? もっと他の事とか心配にならないの?」
他の事……? お姉さまに言われて少し考えてみたけど、特に思い当たる事は無い。エフェクターの切り替えができなくなる以上に困る事なんてこの世にあるんだろうか。
あっ、一つあったわ。
「しっ仕事が出来なくなって、ばい、バイト先に迷惑がかかる……とか……?」
「………嘘でしょ、こんなイカれたのを利用しなきゃいけないなんて」
なんかお姉さまが頭抱えちゃった。使うつもり、とか利用しなきゃとか全部聞こえてますお姉さま。人間は人間を利用し合うものだって理解してるから気にしないけど。
にしても……今はいない足立山さんがここに連れてきた理由は一体何なんだろう。私は早く帰って弾きたいのに。こんなところで無為に過ごす時間なんて無いのに。
そう心中に不満を抱いていると、お姉さまが両足をベッドの中に戻した。まあずっと見せられてても目のやり場に困るというか……色んな意味で助かる。助かるけど……まさか足を見せて不幸自慢をする為だけに呼んだ、訳ではないよね……?
「……で、あっあのっ、私に一体何の用で……? こっ、こんな事を注意するだけの為に、わたっ私をよぶ、人には見えませんし……」
お姉さまは私と違ってちゃんとした教育を受けたエリート、そんな人がそんな無駄な時間を使うとは思えない。何せ血が繋がっているとはいえ全く面識がない、住む世界が違う人同士。正直な話、血が繋がってるだけの赤の他人と言って差し支えない。
なのにそんな私を呼びつけるということは、何か……何かある筈。
「そこまで馬鹿じゃないのね」
「なっ、ばっ、ばっ……!!」
「落ち着きなさい。……あんたを呼んだのは、注意喚起とお願い事があるから、この二つよ。久しぶりに足立山の顔を見ておきたいってのもあったけど」
そう言って笑うお姉さまの表情は、年齢相応……お幾つかは知らないけど、大学生に見えた。恐らくだけど私と歳はそこまで離れていないだろう。恐らく、きっと。
注意喚起、に関しては私も実際に被害を受けてたし、私みたいなズブの素人が多少警戒したところで防げるようなものじゃないし、多分これからも受けるしで気にしない方が良いのかもしれない。正直、この講座を聞くよりも高橋さんの練習見てあげた方が充実した時間を送れそうなんだよね。
……つまるところ、お姉さまの話で(私の脳内コンピュータがはじき出した計算によると)一番真面目に聞かないといけないのはお願い事だ。これは多分真面目に聞かなければいけない内容……だと、思う。
「まずあいつ──父は、あんたという存在を消そうと思ってるけど、それと同時に私の時みたいに御曹司を引き入れる為の餌として利用したいと思ってるでしょうね。私の時と違い殺してしまいかねない手段を取っているのは……死体愛好家か、まともに動けなくなったあんたを治療したがってる代理ミュンヒハウゼン症候群な男を宛がうか。もしくは目障りだから殺してしまってもいい、とかかしら?」
「どっ、どれにしてもって感じですね……」
「そうね、どれも地獄よ。あんたが麻薬とかそういう事したら、親の方にも被害が行きかねないもの」
「えっ、やっやりませんよ!?」
「あいつはやると思ってるわ、そこまで病的にスキャンダルを恐れてる……」
お姉さまは笑った。獰猛な悪魔のような笑みで。
だからこそ、その言葉はつまり、お姉さまが言った、私を殺してでも手に入れたい父の動機。それに心底ムカついてるような笑みだ。なんだったっけか、笑うという表情は本来威嚇の為の……あれって創作だっけ。
まあいいや、とお大人軸お姉さまの言葉を待つ。
やがて胸元から、一本の眼鏡ケースを取り出して言葉を紡いだ。
「だからこそ、あいつをスキャンダルで潰すわ」
「だっ、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫じゃないからやるのよ復讐ってのは」
それは、そうなんだけども……!!




