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電車に飛び込まされそうになっていた私の古川さんが私の命を助けた翌日、私は用心のためにと学校を休まされていた。
古川さんは今頃どうしてるだろなあ……結局あの後すんごい震えてたから、親御さんが来るまでの間ずっと手を握ってたんだけど……高橋さんからのYARNで今日は来ていないとのこと。
まああんな事があったんだから、休んで当然だよね。一度死ぬこと経験しているとはいえ、一度しか死んでないんだから。まだ慣れるに至ってる訳がないってもので……私が引きずってないのは一重に前世の頃死にたくて、毎日そのことばかり考えてたってだけだからなあ。
まあそれはそれとして……今、私は家にいません。
……高級車に、乗せられています。お昼から。
「……足立山さん。こっこれ、わたっわたし、私今から死のギャンブル……!?」
「そういうんじゃないっすよ、なんすか死のギャンブルって」
「こう、血液賭けた麻雀やったりとかする……」
「もうちょい健全な漫画読んでくださいっす」
なんで!? なんで私高級車に乗せられてるの!? うわあ座り心地が良いよこの椅子、うわあ結構な速度出してる筈なのに全然振動が来ないよ。高い車って凄いね、高級酔いしそう。
高橋さんに送り迎えやってもらってた時に乗せてもらってた車も相当な高級車……だと思うんだけど、これはなんかもう、レベルが違うというか……おいくら千万円するんだろう……ヤバい緊張で吐きそう。
足立山さんはなんでそんな涼しい顔ができるの? 高級車だよ? 多分金持ちの人もあんま乗らないレベルの高級車なんだよ??
「せっ、せい、制服でだいじょう、大丈夫でしたっけ……? とっ、とととというか、いっ今っ、今からどこに連れて行かれて……!?」
「どこかはウチもわかんないっスけど、誰かはなんとかんくわかるっすよ。……お嬢の家系である永井家の者っすね」
「……こんな金持ちだったんだ」
「もう少しギター以外にも興味持ちましょう、お嬢……」
呆れてため息を吐く足立山さん。いやだって、ギター弾くのに家柄とかどうでもいいし、別に家柄良いからって上達する訳じゃないしじゃあどうでもいいかなって……。
どうでもよくねぇよ! どうでもいいかなで流してたせいで今絶賛メンタル死にそうだよ!!
いや確かに思い返してみれば金持ちっぽいところあったような気がしなくもな……そうじゃん、お手伝いさんがいるって上流階級のステータスじゃん。足立山さんにお世話されっぱなしじゃん私!?
なんで忘れてたんだろ。バイトをとにかくしまくってたせいでお嬢様って意識が完全に抜けちゃってたんだろうか。これだな絶対。
でもただお世話されるだけってのもちょっと、申し訳なさでメンタル死んじゃうからね。私いっつもメンタル死んでるな?
「着きました」
運転手がそう口にした瞬間、車が動いていない事に気付いた。目的地に着いたんだ……静かすぎない? 全く音しなかったよ? なんだよこの車、怖いよこの車。
で、着いた先は……病院? ……えっ、病院!?
「あっ、あのっ、放っておけば捻挫位治りますので……保険証無いんです勘弁してください」
「捻挫ですか。それならついでにお医者様に見てもらうと良いです。貴女様でも永井家の人間なのですから」
運転手の方が丁寧に、だけどどこか適当な様子でそう言った。
私の人の顔色伺いスキルから見るに、表向きは柔和で丁寧な感じを出してるけど、内心は面倒くさいな早くどっか行けって思ってるなこの人……!!
まあ、半ば勘当されたようなものだからね私。そりゃそういう扱いになってもさもありなんか。……にしても、ついで? えっ、私の怪我を治療するためにここに連れてこられたんじゃないの?
ああっ足立山さんもため息吐いた!? 私だけか、私だけが知らないのか!? 私だけがここに来た目的知らないのか!?
「お嬢、忘れたんすか? しずるお嬢様の事を」
「しずる……? えっと、すみ、すみません……」
不味いな。お嬢様……足立山さんがそう呼んでるってことは確実に私と同じ家柄の人間。
「……まあ長い事会ってないっすから、しょうがねえっすかねえ。顔見たら思い出すかもしれないっすし」
足立山さんに手を引っ張られながら、なんかでっかい庭の敷地を歩く。
敷き詰められた砂利に、あのー……足場になる大きな石。枯山水って奴かなこれ、なんか模様描かれてる。
他にも季節の花とか、庭を駆け回るでっかい犬とか、なんというか分かりやすいお金の使い方はされてないんだけど、どこか厳かで貴賓のある、派手なものはないけど「これが高級感ですよ」ってわからせるような雰囲気を感じられる。緊張で吐きそう。
「こっ、ここ私ばちっ場違いじゃ」
「いや本来はお嬢も通院できる身分っすからね?」
足立山さんの腕にしがみつきながらきょろっきょろ見まわしまくって緊張で震える私の頭を、口では呆れながらも撫でてくれる。
前世も含めたら足立山さんのが年下、ではあるんだがただ年齢重ねただけで大人になれる訳じゃない。私がその証人である。
足立山さんに撫でられながら道中を歩いて、病院に入ったらそこは、高級品で出来た空間でした。
歩いててふわっふわしまくってるのに全然痛くない絨毯、なんかあきらかにふかふかそうな椅子。真ん中にでんと置いてあるでかいピアノ……ここ本当に病院?
「こんにちは。本日はどうなさいましたか?」
「……ホテルのラウンジ?」
「うちも最初来た時そう思ったっす。足立山、永井しずるさんに取り次いでください」
足立山さんが受付さん(とんでもない美人)が院内電話をかけて、数度言葉を交わしてからにっこりと笑顔を浮かべ、「案内の者がまいりますので、少々お待ちください」と伝えてきたので、私も遠慮なく病院の椅子に座った。うわあふかふかなにこれぇ。柔らかくフィットして沈む……! 落ち着かない!!
「許可取れたんで面会に行くっすよ」
「えっ、あっはい。……はっ、早いですね……」
「金持ちばかりが入院通院する病院っすからねー、市営国営じゃないっすからそんな利用する人いないんすよ」
なるほど、確かに……金持ちしか利用しないような病院が混むくらいお金持ちがいたら、不景気なんて言葉死語になってるもんね。
……にしてに面会って、いったい誰とだろう? こんなところに通う、というか入院するような人に心当たりは無い。自慢じゃないけど私は陰キャを極めた陰キャなのでね、誰とも交流が無かったよ!! ギター弾くのが楽しすぎるのが悪い。
まあそんな訳で、私が今から会いに行く人に全く心当たりは無い。クラスメイトで誰かが入院したって話も聞かないし。
……ここは尋ねるしかないか?
「……えっと、あの、いっ今から誰に会いに……?」
「えっ、前言ったっすよね? お姉さまが入院されてるって」
「……あー、そのー……」
「その顔は忘れてたっすねお嬢」
こいつほんま……って顔をされたので、てへへと笑ってごまかしておこう。
そう言えば、そんな話を聞いたような聞いてないような……不味いな、全く覚えてない。それはもう感動するくらいに。勘当されかねんぞ私。
全くこれっぽっちも思い出せない人をなんとか思い出そうとしていると、足立山さんの背中思いっきりぶつかってしまった。
……足立山さんの足が止まったということは、ここにその、お姉さま? が入院してらっしゃるのだろう。全く覚えてないけど。
「思い出せ……てはないっすね、お嬢……はあ、まあいいっす。しずるお嬢様、入るっすよ~」
えっそんないきなり!? そりゃどんだけ時間使っても思い出せないとは思うけどさあ、そんな!!
私が覚悟を決められずにいるというのに足立山さんは、スライド式のドアを開ける。
ヒーリングミュージックが流れる中、私と違ってサラサラな黒い髪の女性が、私達が顔を見せたというのに視線を挙げず本を読んでいた。
……読んでいる本のタイトルが『バレない人の殺し方』っていう物騒極まりないものだったので、私はすっと目を逸らした。




