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「祝・永井みちるちゃんふっかーつ!!」
「おめでとうございます。こちら永井さんが休んでいた間の授業内容です」
「……本当に、もう大丈夫なの? 顔色……悪いけど……」
「あっ、ありがとうございます……えっと、わっ私、もう完全回復し、しましたので」
久しぶりに高橋さんに学校まで送ってもらい、一週間ぶりという長い期間を経て入ったクラスで受けたのは……三人からの歓迎であった。
ああっ私ってリア充なのかもしれない……でも髪の長い子、えっと名前は……YARNの名前空欄の子だ。この子におでこに手を当てて熱計られてるのは……これリア充ってよりも子ども扱いなのでは?
ちょこっともやもやとしながらも、まあ悪い感情ではないので受け入れる。チヤホヤされてんだからこのくらいは些事だ些事。
うぅん、何か忘れているような……あっ、そうだ! ライブ開始までもう二週間と少ししかないんだった!!
「あっ、あのっ」
「はい、何ですか永井さん」
「ゆっくりでいいよ~ゆっくりで」
「……ライブ?」
「そうっ!! そっ、それです!! ……あっ、ごめんなさいすみません大声出して」
黒髪ロングの無口な子が言ってくれた! 思わず大声を出してしまったので即座に謝罪体勢。ううっ、視線が……クラス中の視線が集まるのが怖い……!!
バンドメンバーとバイト先の経験から人と話すの、かなり慣れてきたと思ってたんだけどなあ……全然だった。びっくりするくらい全然だった。
……いやそうじゃん。基本定型文しか話さないバイトと、普段から話してるバンドメンバー。この二グループと仕事先以外だと滅多に会わないクラスメイト達とだと、コミュ力体力の消費に差が出て当然じゃん。慣れてなくて当然じゃん!! いやたまにライブ来てくれてるけど!!
ああーもうやだ死にたい。死ぬのはこれが終わってからでいいか。
「あのっ、ライブ……この日に、えっと……十月の、二十五日にライブやりましすので、ぜひ……」
「YARNでの営業じゃなくて直接、ってことは特別なライブだったりする?」
「……普段なら、もう少し……消極的というか、来れるなら来てほしい的な感じだけど……」
「ですね。それに、普段ならもっと……それこそ一週間前に売り込みに来てますが、今回のはかなり余裕があります」
うぐっ鋭い……なんで当たってるんだこの三人……。
でもなあ、正直理由を言って受け入れてくれるかどうか……理由が自分勝手なものだからなあ。
でも隠し事するのも、来てくれるファンの人達に悪いし……ええい、素直に言っちゃえ!!
「その、ですね……わっ私のともだっ、友達のバンドが初めてライブするみたいで……そう、そうなった時に観客がいなかったら、ハコでのライブ、嫌になっちゃ、なっちゃうかもしれませんので……ぜひ、見てく、見てくださったら嬉しいな、と……」
そう、二週間後のライブは私達ゾディアック・クラスタが定期的にしているライブだけでなく……古川さん達が初めてハコで演奏する日。
古川さんは前世の記憶……でハコで演奏したことがあるから微妙というか分からないけど、他の人達はほぼほぼ確実にハコでのライブは未経験!! できればいい思い出を作ってほしいからね……人を集めたいのよ私は。
という思いから三人にはぜひ来てほしいと思ってたんだけど……どういう訳か三人とも涙を流している……泣いている!? えっ、なんで!? 何か悪いことしちゃった私!?
「永井さんに……永井さんに友達かあ……」
「永井さんが友達の為に動けるようになった……歴史的快挙……」
「ぐすっ、お二人とも言い過ぎですよ……でも、よかったです。永井さん」
なんだこの、学校の事全く離さずどちらかというと引きこもりがちだった子が復学して友達を家に遊びに連れてきた親みたいな反応は……!?
私ってそんなに友達がいない様に見えるんだろうか……最近は増えてきたんだけどなあ、友達。連絡先だっていっぱいあるんだかんな! 仕事関係のが九割九分だけど!! 放課後に遊ぶ子? ンンーン……。
「絶対、絶対行くよ! 楽しみに待ってるね永井さん!!」
「うん……友達の雄姿も……きちんと見届けに行く……」
「当日、ぜひ楽しみに待ってますね。永井さん」
そう言って私が出したチケットと、1500円と交換で受け取ってくれる三人。ありがたやあ、ありがたやあ……いやマジでチケットが全然売れないとまた路上ライブやるハメになってたからね。
正直私には路上ライブやれるだけの度胸は無い。いや隣で誰かやるなら問題なくできるんだけど、ソロでは流石に……だから。
三人はチケットを受け取ったら一回ずつ私にハグしてから、自分の席へと戻っていった……なんでハグされた? なんでハグされた私?
それともこれが普通の女子高生の距離感なんだろうか。ハグするのが当たり前なんだろうか。うぅむ、私は現代の女子高生として生を受けたけど現代の女子高生かって言われると……まあ、中身は子供かな。歳をとるだけで大人にはなれないのよ。
というかもう別の話してる……コスメとかネイルとか、ああ私の分からないジャンル……ヴィジュアル系とかデスメタル系のトラ頼まれた時はとりあえず爪を黒く塗っとけで誤魔化した私には未知の世界……。
「うぅっ、化粧とか何が良いかとかわかんない……顔にぱっと張り付けるだけのものとかないんだろうか。というかなんで社会人なってから化粧が義務化されるんだろういや私だって化粧しない訳じゃないけど趣味の為にお金使って化粧するのと仕事の為にお金使って化粧するのとではやる気というかなんで仕事なんかの為にお金を」
「何ブツブツ言ってるのさみちるちゃん」
「うえあっえっふる、古川さん!? ここっ、こっなんで!?」
今から将来起こることに愚痴愚痴言ってたら突然背後から声を掛けられて、心臓が痛む……!! ジャンプスケアは犯罪! 死刑!! いや本当心臓痛むから辞めてほしい。
そんな私を見た古川さんはやれやれって感じで首を振っていた。あっ呆れられてる……!!
「同じ学年なのよ、そりゃ来ることもあるでしょ。あっ、いたいた」
古川さんはそう言ってから、目当ての人を見つけたのか小走りでその人の席まで向かった。手にはチケット一枚……あれで全部売れたんだろうか。私より売るの上手くないか古川さん。これでも私一応営業職やらされたんだよ古川さん。
つつがなく、当然というようにチケットは売れたようで、戻ってくる頃には手元には何も持っていなかった。なんてスムーズな売買……!!
私も見習わないとなあ……そういえば古川さんって前世何歳で死んだんだろう。私は……三十迫ってるか迫ってないかくらいだったけど。
なんてぼんやり考えていると、すれ違いざま古川さんが、私にだけ聞こえる声で言ってきた。
「絶対負けないから」
そう言って教室を出ていく古川さん。私はその後ろをただ見つめる事しか出来なかった。
……まずライブで勝ち負けって、審査員もいないのにどう判断するんだろう?




