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「あっ、はい、わかっわかりました。それじゃあ演奏する曲は……はい、はい。わっ、私も練習しておきます……えっ、演奏練習の録画を送っていただければ、はい。よっよろしくお願いします」
かなり長いこと病んでいた熱も大分引いてきて微熱程度になった今日この頃、通話が切れたので、取っていたメモを確認。
うぅん下手くそな字!! 取った今だから読めるけど、明日明後日になったら多分読めなくなるわこれ。
思わずソファに寝転がって狂い悶えたくなるけど、その気持ちを押さえてパソコンを開き、メモ帳を立ち上げる。自分で書いた文字の読み方を忘れる前に内容をメモ帳に記入していく。
ライブ開始日時、チケットは……クラスメイトにファンがいるから三枚はハケるとして、残るは……とパソコンのメモ帳に打ち込んでいると、テレビの前で料理番組を見ていた足立山さんが振り返って声をかけてきた。
「お嬢、誰からの電話っすか? トラの依頼?」
「あっ、所属してるうちのバンドからです。らっライブで演奏する曲がきまっ、決まったとかで」
「……えっ?」
手を止めてそう答えると、どういう訳か足立山さん、すっごい怪訝な顔を返して来た……別に悪い子達じゃないってのは伝わってる筈なのに、何故?
「いや今の電話あきらか取引先かなんかとする時の口調だったっすよ? バンド仲間にあれはちょっと硬すぎると思うっす」
「えっ、そう、そうですか!? ふっ普通じゃないですか、このくらい……?」
「いやどう考えても硬すぎるっす、もっとフランクにいくべきっすよ……」
足立山さんが呆れたように言うけど、私は別に普通にやったつもりなんだけどなあ……でも足立山さんがそう感じたって事は、多分はくりちゃんもそう感じているのかな。私の感覚ってちょっとおかしいからなあ、曲作りにおいてそれはメリットになるけど日常生活においてそれは……。
こういうのは経験から改善するのが一番だ。前世を思い出そう。
職場では……私が一番下だったから駄目だ参考にならない。あの時よりまだ立場がマシだった……バンド仲間とはどういう風に連絡してたっけ……?
……? あれ、電話した記憶が無いぞ? なんでだっけ、なんで……
「……そういえば、メールでやり取りしてたっけ」
そうだ……私があまりにも口下手だから「LINEのが早いわ。えっ入れてないの? んじゃメアドでやるか……何年ぶりだこれでやり取りするの」とか言われて、私だけメアドでやり取りしてたんだ。
いやね、違うんですよ。難しくない? 見えない相手と会話するのって。何の動きもないから空気雰囲気で相手が話しそうだな―って察知しないといけないの。
まあそれでも本当事務的な会話しかやってなかったけどね! 取引先よりはフランクだったけど、普通に敬語で話してたから……あれっ、私ってもしかして前世の一番の絶頂期でも幸福度今より下だったりする……?
「……ということは、今が一番恵まれてるってことかな」
「まあー前世とかそういうのはよくわかんないっすけど、お嬢は恵まれてる方だと思うっすよー。今のとこバンドで喧嘩の一つもないんでしょ?」
「まあ、確かに……」
足立山さんが私に抱き着いて子供をあやすように頭を撫でながら、諭すように言う。
まあ……確かに。結成してぼちぼち解散してやるー的な喧嘩が起きてもおかしくないくらい一緒にいるけれども、そういった揉め事は全く起きていない。何なら全員が作詞作曲やれるって体制取ってるのに、音楽性の違いで喧嘩が起きていないってこれ珍しいなんてものじゃないぞ。
実際、前世の時に所属していたバンドだってそれなりに仲良くやってたけど、何度も音楽性の違いで解散の危機に陥ってたし。
いや普段は本当みんなプライベートで旅行に行くくらい仲良しだったんだけどね、こと音楽の事となると私以外みんな譲れないものがあったからね……。
私? 私はギター弾ければそれでよかったから……ああそうだ、それが原因で一回怒られたんだ。自分のメロディを大事にしろって。……まあ結局脱退したんだけどね! 親のせいでね!!
「……あっ、メール。ちょっとすみません」
足立山さんに抱きしめられながら、メールをPCで開く。届いたのはリンク。メールの発信元がりんさんなのを確認すると、メールに記載されているURLをクリックしてページに飛ぶ。
大手ネットワークのドライブからファイルをダウンロード……する様子を足立山さんに見られながら行う。
「あの、なっなんでそんな、くいっ食い入るように見えてるんですか?」
「今の子達ってこういうのでやり取りしてんだなーって……色々うちの頃とは変わってるっすねー」
私の肩に顔を乗せてそう言う足立山さん。私が子供の頃──まだ実家で暮らせていた頃にはもうネットがあったし、足立山さんもまだその時はバンドやってたはずだから普通に触れるはずなんだけど……。
「うち、スマホ世代っすから」
「えっ、えー……?」
それどっちかというと私らの世代じゃない? とは言えなかった。私はスマホオンチだから。
最近の若者、いわゆるZ世代? ってのはスマホは使えないけどパソコンは使えるって人が結構多いらしい。聞いた話だけど。
そういえば足立山さんも丁度そのくらいの世代と言えば世代、なのか……? 赤ん坊や小学生がスマホやパソコン触るって訳じゃないし。いやスマホは触るか。
なんてやり取りをしていると、ダウンロードが終わった。落とせたファイルを解凍。これもまあすぐに終わる。
「おおー」
「なっ、なんの感嘆の声……?」
「スムーズに詰まることなくやったなーって。うちこういうのが苦手でメイドやってたんすよねー、パソコン極力触らなくて済むから」
「そっ、そっちの方がむずか、難しいような……」
そういう理由でメイドなんてしんどい仕事してたの!? 掃除洗濯私の面倒、おまけに礼儀作法も完璧でないとやれないような仕事を!?
謎の感動をする足立山さんの視線を受けながら、解凍できたファイルを展開。全部で五つ、同じ曲だけどそれぞれ別の時間に演奏したものと、私が演奏するコード譜の書かれたPDFファイル。
イヤホンをはめ込み、その中の一番新しいものをクリック。流れて来る曲を頭の中に叩き込む。
次の曲も、その次の曲も。四曲全てを聞く。同じだけど所々違うメロディ。あっ、私が本来やるべきパートは高橋さんが担当してるんだ。所々ミスしてるけど、ファイル名に「本番は1.05倍くらいを想定」って書いてあるけど……私の担当パート弾けてる、弾けてるよ高橋さん!!
「あっ、足立山さん!!」
「……はぁ~~~~~~……まあ……熱も下がってきたみたいっすし……本当は、本っ当は!! ちゃんと休まないとぶり返す可能性高いんすけど、これ以上触らせないってのも……」
そう、そうだよ! 一週間触ってないんだよ私!! 曲は作ってたけど!! 作詞作曲してたけど!!
お陰でもう禁断症状みたいになってて……へへっ、手が振るえてるぜ。禁断症状ー。
足立山さんのお許しが出たので、急いでギターを取りに行く。
へへっ、さあ練習だー!! 約一週間分の遅れ、取り戻すぞー!!




