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 はくりちゃん達はバイトが、高橋さんもあまり長居しちゃいけないということで帰ってしまい、また一人となった。

 はくりちゃんに抱きしめられて、りんさんに頭を撫でられて、何かと騒がしいながらも楽しい時間だったんだけど。こうして去ってしまうと寂しく感じてしまっている自分に少し驚いた。


 ……私、今の人生になってからは、どちらかというと人間嫌いだった筈なんだけどなあ。いつの間にかクラスメイトの子達も、ライブハウスの人達も好きになってしまった。誰かが傍にいるのが当たり前になっていた。


「……寂しいなあ」

「寂しいなら、早く治さないとっすね~」


 足立山さんが、私の頭に貼ってある冷えピタを交換しながらそう笑いかけてくれた。


 足立山さんが入れてくれたポカリを飲んで、切ってくれた林檎を食べる。シャリシャリとした触感、スーパーのものでは味わえない甘さ。お嬢様学校の高橋さんが持ってきたものだから当然だけど、かなりお高いものだねこれ。


 吸収されやすいようによく噛んで食べる。

 ……いや、ちゃうねん。足立山さんが普段作る料理をないがしろにしてるって訳ではないねん。ただな、よく噛むには量が多すぎてな、一時間二時間ずっと食べるところ見せる訳にはいかないやん?


「にしても、お嬢にあんなにも友達が出来るとは……小さい頃から見守ってただけに、感無量って感じっすよぉ……ずーっと友達いなかったから心配してたんすよ」

「おっ、大げさじゃな、ない、ですか?」

「中学時代までの人生を振り返ってから大げさって言ってほしいっす」

「あうっ」


 あまりにも大げさに泣き真似するから思わず言うと、足立山さんはジト目で私の額にデコピンを浴びせてきた。


 いや確かに友達なんて人生で一度も出来た事ないけれども……何なら永井家の血筋の人とも全然話してなかったけど……あれっ、父親はともかく母親と話したことあったっけ? 盛大にゲロ吐きまくって血が混ざるようなってから避けられてきたような……。


 小学校中学校は……あれ、何やったっけ? 給食で食べるの遅すぎて責められてるように見えたから吐いて、運動会で恥かいて吐いて、学校終わったら速攻で帰ってギター弾いて、ギター弾いて、ギター……ギター以外なにやったっけ?


「吐いてギター弾いてで中学時代終わってる……」

「あの、思った以上に悲惨なのが出てきて困惑してるんすけど……」

「悲惨……でっ、でもイジメはなか、なかったですよ? みんなわ、私に近付かず、無視するくらいでしたし」

「それイジメっす」

「えっ?」

「えぇ……?」


 足立山さんが凄く困惑したような、悲しそうな眼をして私を見つめてきた。

 別に物理的外傷を受けた訳でもないし……無視もむしろ、小中学生の輪の中に入らなきゃいけないしんどさ考えたらありがたかったし……そもそも、人間近付いてほしくないオーラバリバリ出してたからなあ。


 ……でも、過去の私を高橋さんに置き換えて考えてみたら、胸が痛くなったから、高橋さんが言うようにこれはイジメられていたんだろう。よくよく考えたら前世の会社でお局達からやられたことだわこれ。

 なんで前世の記憶と違って、小中学生の頃の記憶は全然嫌な感じがしないんだろう……あっ。


「……足立山さんと、いっ一緒にセッションしてましたから……全然き、気にしてませんでした……」


 そうだ。足立山さんとギター弾いてたからだ。二人で曲を作って、弾いて、笑い合って、たまに喧嘩して……私の前世で一番輝いていた頃と同じことができて、凄く、凄く楽しかったのを覚えてる。

 そりゃイジメられてるって気付かないわ。だってキラキラの青春送ってたんだもん。


 と納得していると、不意に足立山さんに抱きしめられた。あわっ、あわわっ!? えっ、何? 急にどうしたの足立山さん!?

 咄嗟に抱き返しちゃったけど対応これで合ってる!?


「ううっ、本当……マジでお嬢のお世話係になれてよかったっす! こんなん言ってもらえるなんて、言ってもらえるなんて……!!」


 な、泣いてる……私を抱きしめながら泣いてる……重くならないよう体重は全然かかってないけど、ちょっと息苦しい。嫌いじゃないけど。

 とりあえず空いた手で、足立山さんの背中を優しく叩く。確か前世のベーシストが、抱き継いできた女性にこういう風に接していた記憶がある。メンヘラ製造機とか言われてたなあ、実際刺されてたし。


「……こち、こちらこそ、いっいつもありがとうございます」

「おっ、お嬢ー!!!!」


 ぐえーっ!! 抱きしめる力強くなった!? なんでぇ!?

 風邪をひいて体力が落ちているのは私の方だっていうのに、歓喜の……かな、涙を流しながら私を抱きしめる足立山さんの背中を叩いてあやし続けるしかない……。

 足立山さんの涙がちょっと服にしみこんできた。というかあの、私の服に顔を押し付けるのやめて。流石に恥ずかしい、汗かいてるから! 汗かいてるから!! くそっ力強い……いや私が弱いだけかこれ?


 もう諦めて成すがまま、成されるがまま足立山さんに抱きしめられておく。足立山さんに抱かれるの事態は抵抗があるって訳じゃないからね。……この言い方だと語弊があるな?


 ……これ、もしかして今なら私の要求通った李するか?


「……あの、足立山さん……ぎ、ギター弾いてもいいですか?」

「それは駄目っす」

「きゅう、急に落ち着きましたね!?」


 すん、と真顔で否定してきおった……くそう、今なら通ると思ったのに。

 まあ風邪を引いている状態で練習したところで変な癖がつくだけで終わりそうではあるけれども、それでも普段やってる練習がやれないというのは、どうも落ち着かない……。


 そのまま抱き枕モードになって私を抱きしめ始めた足立山さん。私もギター弾けないってのでやることないし、足立山さんの抱き枕になっておこう。

 にしても……足立山さんに抱きしめられながら横になって思い出すのは、先ほどはくりちゃんに抱きしめられた時に言われたあの言葉。


【私達を置いて死なないでね】


 ……死なないでね、だけならわかるんだけど。私達を置いて……って、一体どういう意味なのか。

 どうもこう、引っかかる……どこかでこすってしまってギターに傷がついてしまった時みたいに、モヤモヤとする。


「まあ、いっか」


 はくりちゃんがあの言葉に何を込めたのか、どういう意味だったのか……私ははくりちゃんではないから、うかがい知ることはできない。

 なら気にするだけ無駄というものだ。まずは……足立山さんに抱きしめられながら寝て、吐いて、食べてを繰り返してこの風邪を治さなきゃ。


 足立山さんに抱きしめられながら、私はゆっくりと目を閉じた。

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