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あまり眠れない私なんだけど、珍しくかなり眠っていたみたいで……起きて吐いてトイレから戻って時計を見ると、すっかり放課後の時間になっていた。
まあこまめに起きて吐いて戻って足立山さんから脳に異常が出てないかチェックされてをしていたけど……ちょっと心配しすぎじゃない? 確かに、常に吐いてるから異常に気付きにくくなってはいるけれども……。
「お嬢、お腹空いて……はないっすよね。ゼリー飲料食べられそうっすか?」
「あっ、はい、ありがとうございます……」
先ほどまで寝ていたソファに座りながら、足立山さんに手渡されたゼリー飲料とエビオス錠を飲む……エビオス錠と一緒にゼリー飲むって、なんか不思議な感じだなあ。でもこれなら消化吸収早いし、体力付けられるかも。
妙な甘さのエビオス錠をゼリー飲料で流し込む。固形物と比べて、飲み込んだ時の痛みが少なくてありがたい……。
ずっとこれなら私も健康的な体に……足立山さんに失礼か。足立山さんの料理美味しいし。
……そうだよなあ。私、折角美味しい料理作ってもらえてるってのに、全部無駄にしてるんだよなあ……吐いてトイレに流してるんだよなあ……。
私用に少ない量を作って盛り付けてくれてるのに、それすらも無駄にするとか生きてる意味無いんじゃないか私。なんで生きてるんだろ私って。
「……ごめんなさい」
「ん、何がっすか?」
「い、いつも……料理、無駄にしちゃって……ごめんなさい……吐いて無駄にしてごめんなさい。迷惑かけて、ごめんなさい……」
思い返してみると、申し訳ない気持ちがどんどんと湧いてきた。私、あまりにも足立山さんの好意を無駄にしすぎている……今日もそうだ。頭怪我して風邪ひいて、無用な心配をかけてしまってる。
それに対して私が足立山さんに返せたことなんてあるか? ない、何もない。迷惑ばかりかけてる。今もこうしてだし、子供の頃からわがままを聞いてもらってで……何で生きてるんだろう、私。
生きるべきではなかった。私は、あのまま死ぬべきだった……この体が借りものでなければ、今すぐにでも死んだのに。
「……別に、気にしなくていいっすよお嬢。どうしようもないってことは、ウチが一番知ってるっすから」
「……い、嫌じゃないんですか……?」
「ウチの料理を美味しそうに食べてくれてるんすから……吐きたくない、なんてことはウチが一番知ってるっすからね」
そう言って、私の隣に座って、足立山さんは私の頬を撫でてくれた。
いつもこうだ。私が弱音を吐くと、足立山さんは私の弱いところも全部含めて受け入れてくれる。
……どうしてここまで優しくしてくれるのか分からない。無償の愛、というやつなんだろう。
でもこれもきっと、永遠のものじゃない……だからこそ、私は、見放されるのが怖い。私みたいな、無能でギターを弾く以外生きる価値のないゴミクズのような人間に向けられた、この無償の愛がいつか消えるんじゃないかと……私はそれが、ひたすらに怖い。
足立山さんに抱きしめられながら、足立山さんに見捨てられるのに恐れていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「……ちょっと待っててくださいっすねー」
「あっ……はい」
かなり名残惜しいけど、ずっと待たせておくのも申し訳ないし……遠ざかる足立山さんの背中を、ただ黙って見送る。
郵便とかだろうか。ならすぐに帰ってくる……んだろうけど、風邪を引いている今だと、そのわずかな時間ですら寂しくて辛い。こんなに弱い人間だったんだろうか、私は……。
いや、前世の家庭環境がゴミクズすぎて近くにいてほしくなかっただけだったなあれは。洗脳されていた状態ですら「なんか、おかしくね?」ってのがずっと付きまとってたし。それでも血のつながり云々で司法は親の味方していたけれども……あー、思い出したら希死念慮がまたむくむくと湧いてきた。
しんどい状態ながらでも、歌詞を書くだけならなんとかなるか……? ソファから降りて、テーブルの向かい側に移動して、置かれているパソコンに手を伸ばそうした瞬間……足立山さんが、誰かを引き連れて戻って来た。
「永井さん、お加減はいかがでして……ってどうしましたのその頭!?」
「やっほ、みちる。……こんな状態でも歌詞を作ろうとするその意識誉れ高い」
「何その言い方……? ってどうしたのみちるん、目が赤いよ!?」
……みんな? バンドメンバーのみんなが、レジ袋片手に私の方へと駆け寄ってきた。頭の怪我を心配してくれた高橋さん、パソコンの前に座っていることに何やら頷いているりんさん、そして……私の目を指摘してきたはくりちゃん。目が赤い……えっ、今の私って目充血してるの……? ああ、そうかさっき泣いたからか……。
「永井さん、寝ないといけませんわ……これ以上、心配させないでくださいまし。……ソファで寝てましたの? ベッドありますわよね?」
「みちるの事だから部屋だとギター弾きかねない。ん、ゼリー飲料とポカリ買ってきたので、これよければ使ってください」
「おおー助かるっす! ポカリ、我が家に常備してないんすよね……ありがとうっす」
先ほどまでの静かな空間から一転、みんなが来たお陰でかなりにぎやかになった。
私の理解度が高い返答に頷く高橋さん。その返答をしたりんさんはポカリやらが入ったレジ袋を足立山さんに渡す。
……好きな騒がしさだ。だというのに、どこか遠く感じるのは何故なんだろう。疎外感を感じるのは何故なんだろう。風邪を引いているから、若干弱気になっちゃってるだけなんだろうか。
みんなが楽しく話しているのを眺めていると、いつの間にか隣に移動していたはくりちゃんが私の顔を覗き込んできた。
猫ちゃんのような細い瞳が、私の顔を見つめている。
「みちるん大丈夫? ごめんねすぐに来れなくって」
「あっいえ、学校とか練習とかありますから……大丈夫です、よ? あの、はくりちゃん?」
「ん、なにかなー?」
「ち、近く……近くない、ですか?」
そう。私とはくりちゃんとの今の距離はすんごい近い。ちょっと頭動かしたら頭突きしちゃうくらい。
なんでそんな近くに……? と疑問に思っていると、おもむろに私を抱きしめてきた。何故ぇ!?
はくりちゃんのぽかぽかとした体温、良い匂いが私を包み込む……人間ってな、女の子でも童貞なところがあるもんやねん。特に私みたいな陰を超えた陰キャには刺激が強すぎてな……頭がフットーしそうだよぉ。
「……みちるん」
「あっ、はっはい?」
耳元でささやかれた声に、回らない頭をなんとか機能させて返事をする。気のせいか私、多分気のせいだけど、頭の出血量増えている気がする……!!
えっおいくらですかこれ。おいくら取られる奴ですか!?
「私達を置いて死なないでね」
「……えっ、はっ、し……?」




