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前世のトラウマの夢を見て、起きて吐いて、ギター練習して、学校行って、ギター練習して、バイト行って、スタ練して、家に帰って、ギター練習して、寝る。
祝日の時は学校のところがバイトかギター練習かスタジオ練習になって、バイトが無い時はバイト枠がギター練習になる。こんな日々を毎日過ごしていた訳だけど……朝目が覚めて、いつものように胃液を吐いた今日、トイレの前で頭を下げながら、私はふと違和感を覚えた。
洋式便器の中に浮かぶ私の胃液(消化するものがない)に血が混じってるのはいつものこと。これは日常だから問題ない。
ただ、吐いた後……気のせいか、いつもより頭がふらふらする。
「お嬢~……おはよう、っす……トイレ、まだかかりそうっすか~」
「あっ、ごごごめんなさい。すぐに出っ──!?」
起きてきた足立山さんに急かされたので、急いで立ち上がったら……いつも以上に酷い立ち眩みが私を襲った。
思わず壁にかけられているタオル掛けに頭をぶつけてしまう。ごんって凄い音した、痛い……。
「ちょっ、お嬢大丈夫っすか!? 開けていいっすかいいっすね開けるっすよ!!」
「まっ、だい、大丈夫ですので……」
タオル掛けに頭をぶつけてしまった音に驚き、足立山さんが心配の声を上げる。足立山に心配させないよう声をかけるも、説得力がないよなあこれ。
鍵がひとりでに回るの、なんかホラーチックだなーとどこか他人事のように見上げる。あれ、なんで私座ってるんだ……?
「あ、あれ?」
なんでだろ、立てない……いつも通りの出血なら、多少立ち眩みというか頭にクラッてくるのは日常なんだけど……なんか、今日はいつもより酷い?
月のものが来てる……ってのは(体調不良で)無いし、栄養失調……はいつものことで慣れてる。出血多量、って程の量でもないし……なんて考えていると、トイレの扉が開いた。
「ちょっ、何が大丈夫っすか頭怪我してるじゃないっすか!?」
「えっ、あっ……本当だ」
真っ青な顔でしゃがんで私の頭に手を添える足立山さん。指摘されて気付いたけど本当だ、血流してる……えっあれで血が流れるの? 私の体脆すぎない?
なるほど、頭痛いのは怪我したからか……怪我したから? いやでもその前から頭痛かったような……。
「って、お嬢……熱あるっすか?」
「えっ、熱、ですか……?」
「ちょいと失礼……うん、これは熱出してるっすね。あきらかいつもより熱いっす」
足立山さんが私のおでこに手を当てて熱を測ってくれる。んー、冷た……くはないなあ。足立山さん平熱高い方だから……。
にしても風邪、風邪かあ……風邪で休むのは甘えだけど移しちゃいけないってことで、風邪ひいた時だけ在宅OKにしてくれたっけか。風邪治ったら業務を鈍らせたってことで謝罪行脚させられたけど……。
でも前世の時と違って今のバイト先は接客業、おまけに学校もオンラインで受けるのは許してくれない……どうだろ、許してくれるのかな。
「……今日は安静にしなきゃっすねー」
「TRITONEへの連絡……は、メールだけ送っておかなきゃいけないし……が、学校にオンラインで授業受けられるか聞かなきゃ」
「ちょいちょいちょい、お嬢? 今授業受けるって言ったっすか? 授業を、風邪ひいてるのに?」
「えっ? あっ、はい。授業受けないと、えっ援助打ち切られるかもしれませんから……」
なんで驚きの声出してるの足立山さん。少なくとも私の前世で培った経験談からすると、風邪を引いてようが大怪我をしていようが、隙を見せたら最後そこを突かれて出世街道から転落されて減給、同僚から馬鹿にされて上司にはいいように扱われる負け組人生が確定しちゃうから……。
ところで足立山さん、どうしてそのまま抱っこに移行してるの? 私背が高いから抱き上げるの無茶だと思う……うわあ軽々と持ち上げた……。
「うわ軽っ……良いっすかお嬢、体調が悪い時は休む。それに文句付ける人なんて早々いないっす」
「で、でも……」
「流石に旦那様もそこまで鬼畜ではないっすよー! 多分!! ちょっとサボりたいーとかならともかく、風邪っすよね? ちゃんと病気ならちゃんと受け入れてくれる筈っすよ」
「……そうですかね。上司ってだ、大体、こう、こういう時、鬼の首取ったみたいに色々言ってくるもんだと思いますけど……」
「お嬢が思う以上に世界って優しいっすからね?」
私を抱き上げながら、ソファのあるリビングに移動する足立山さん。そのまま私を座らせて、救急箱を取りに向かう。
とりあえず自分から連絡しといた方がいいんじゃないか、と立ち上がろうとすると足立山さんがすっごい見てくるので、動けない……しょうがない、大人しく座っておこう。
「お嬢、責任感あるのは立派っすけどね……こういう時は大人に甘えてほしいっす」
「あっ、えっ、はい……じゃあ、ギターを」
「病人はギターなんか引かず寝るっすよ」
いや高校生にもなって休みの連絡を保護者がするのはどうかと思うんだけど……でもこの家の主は足立山さんなので、大人しく従っておく。
うぅ、暇だからギター弾きたい……そうすればこの気怠さも吐き気も、頭の痛みだって忘れられるのに……でも流石にこういう時は許してくれないよなあ、足立山さんも。
ギター狂いに見えて割と常識的なんだよね……だから私がこの歳まで生きられてるんだけど。
「全く……お嬢のギターは好きっすけど、それで寿命削っちゃ元も子もないっすからね?」
「じゅっ、寿命はギター関係なくみじ、短いかと……」
「ウチより長生きしないと承知しないっすからねお嬢」
うう、プレッシャー……そんなジト目で睨みつけないでよ足立山さん……私だってギター弾ける間は生きるつもりだから……。
足立山さんからの視線から逃れるように目線を逸らしながら、包帯を巻かれていく。頭から出血したって言ってもちょっとした傷程度なんだけどなあ……あっ、血で家具が汚れないようにする為か。
「うし。巻き終えたっす。……良いっすかお嬢、物が二重に見えたり頭の痛みが増したりしたら絶対、ぜぇ~~~~~たいにウチに言うんすよ? お嬢の葬式とかあげたくないっすからね」
「あっ、はっ、はい。分かりました……」
念には念を、とでも言わんばかりに肩を掴まれて言われたら頷くしかないよう足立山さん……。
でも今のところ、特にこれと言った症状は無し。しいて言うなら熱でぼーっとしてるかな? ってくらい。前世なら普通に働かされてただろうね。
「……あの、足立山さん。おや、お休みの連絡、させていただけないでしょうか」
「心配しなくても、ウチがするからお嬢はここで寝てるっす」
「……あの、へっ部屋で寝ちゃ……?」
「絶対ギター弾いちゃうからウチ監視の元寝るっすよ」
足立山さん……くっ、見逃してくれそうにない、か。私のことよく見抜いてるじゃないか足立山さん!!
大人しく、ソファに横になる。革製の結構いいやつだから、血が付かないよう反対方向を向く。背もたれに視界を塞がれちゃって真っ黒。
……足立山さんが電話で通話する声を聴きながら、私はそのまま意識を落とした。




