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 通しで演奏する。録音をみんなで聞く。やり直す。

 問題点を改善。通しで演奏する。録音を聞く。やり直す。

 やり直す。やり直す。やり直して……あれっ。


「何かが違うけど……何が違うんだろ」

「疲れたー、ちょっと休憩しようよくろこちゃーん!!」

「改善というより迷走しはじめてる。くろこ、休憩した方が良い」

「あいつらとレベルを合わせようってのが無茶なんだよ。あいつら、ひとみ以外は全員プロレベルだったんだぞ?」


 木田伸一、石田淳、中谷健司……私が作ったバンド『Pitohui』のみんなが汗だくな状態でそう言った。

 軽音部の部室で練習して何時間くらいか、始めた頃は太陽がちゃんと登ってたのに、気が付いたら外が暗くなっていた……。


 健司の言うことも分かる。あのレベルは……ゾディアック・クラスタの技量は、他のバンドと比べても頭一つ抜き出ていた。

 プロレベル、それこそ高橋ひとみ以外は全員プロの世界でやっていけると太鼓判を押せるくらいのトップアーティスト達……。


 でも私が気になっている、引っかかっている部分はそこじゃないんだよねぇ。上手く言えないけど。


「技量じゃない、そこはもう練習を重ねていくしかないだけの話だから……。ただ、なんというか……引っ掛かりが無い、気がするんだよね」

「んだよ、それ」

「引っ掛かり? それって無い方が良いんじゃないの?」

「……そういう事か」


 私の言葉に淳は、目を隠している髪を弄りながら私の言った言葉に何やら納得をしてみせた。

 ……納得をしてみせた!? 私でも自分で何言ってんだろって思ったのに!?


 一体何を納得したんだろう……私を含めて、みんなの視線が淳の方に集中する。


「文句のつけようのない完璧なラーメンは売れない。逆にどこか欠点を感じる、七十点のラーメンだと大行列が出来る。……完璧とは、それで満足してしまうもの。良い思い出として、一度で終わってしまうもの」

「なるほど……なるほど? えっごめんどういうこと?」


 普段は無口な淳の口がすらすらと動いて、私の言葉の真意を説明してくれたけど……つまり、どういうことだってばよ!?

 ラーメン? なんでラーメンで例えたの!?


「あ? どういうことだ? ……いやマジでどういうことだ!?」

「つまり完璧なものより欠点があった方が人は惹き付けられる、って事を言いたいんじゃないかなー? ラーメンで例えたせいでちょっと変になっちゃってるけど」

「なるほどなあ……あー……ただ、でもよ、言っちゃ悪いが、俺達の演奏技術って完璧って言える程じゃねえだろ」


 伸一の解説に私もようやっく淳の言葉が飲み込めたんだけど……健司の言うように、私達の演奏技術はゾディアック・クラスタのようなプロレベルには程遠い。上手いという自負はある、けどこれはあくまで学生の中での上手さ。健司の言うように、正直プロには程遠い。


 前世でのゲームをやり込んだ知識を総動員して出来る限り技術を高めてはみたものの……バッドエンド条件である学力の方も、グッドかハッピーなバンドエンドの為にそれなりの高さで維持しなきゃいけない都合上……どうしても、そこでみちるちゃん達との差が出来てしまう。そこはもう仕方がない、というかみちるちゃん達は勉強の方大丈夫なんだろうかと心配になる……。


 ……でも、引っかかり? 引っ掛かり……伸一の言葉をヒントに、あの日のゾディアック・クラスタのライブを脳裏に思い出す。

 昨日のように思い出せる、あのインパクトのある演奏。感情を直接ぶつけてくるような音楽の暴力。忘れられる訳がない。


 ……だからこそ、当時は全く感じていなかった、違和感に気付けた。


「……そういえばみちるちゃん達、ポツポツと凡ミスがあった。演奏には全く支障のない程度の、減点にすらならないようなミスが」

「けんじー、そうなの?」

「あー……確かに、そう言われたらそう、か?」


 土台のレベルが頭おかしいレベルで高すぎるせいで誤魔化されていたけど、確かにミスがあった。

 土台が全てグダグダに滑りまくり、あまりに多すぎるとミスはミスのまま。でもみちるちゃん達みたいに、プロレベルの演奏の中数か所くらいのミスがある程度だと、途端にそれは『味』となる。


 今まで私達は完璧に、ミスなく演奏しようとしていた。現状のレベルに合わせた演奏で、それが出来ていた。

 ……だからこそ、だからこそだ。なにも引っかからなかったんだ。するすると飲み込めてしまう、通り抜けてしまう。そんな演奏になっていた。


 そんな演奏では、客達は満足してしまう。一度の演奏で。「良いライブだった」だけで終えて、埋もれてしまう。

 ならばどうすれば、観客達に印象を付けられるのか。記憶にこびりつけるのか。


「……あえてミスする箇所を作らなきゃいけない?」

「まーた変な方向に行こうとしてない?」

「下手にそれやったら聞くに堪えないもんになるだろそれ……」

「アマチュアがわざとミスを作ろうとするのは辞めた方が良い」


 私が出した結論に、どういう訳かみんなの反応は冷ややかというか……あまり乗り気じゃない様子。

 まあ今まで『とりあえずミスしないよう演奏するのが大事! って訳でみんなのレベルに合わせた楽譜書いてきたから!!』でやってきたからね。


 それで実際にミスなく演奏できるようになってくれたんだけど、今私が言い出したことはその真逆といってもいいもの。

 ……ただ


「やれるかどうかは置いといて、とりあえずやってみよう! わざとミスするように!!」


 これさえマスターすれば、人によって好き嫌いは出来るかもしれないけど……印象に残る曲を演奏できるはず!!

 とりあえずやってみようみんな! なんでも試してみよう!!



 ……ってことで、試しに意図的にミスして演奏したのを録音して聞き直してみたんだけど……うん。


「うわあ……これ、うわあ……」

「これは酷い」

「これは無いな」

「……うん」


 ちょっと、あまりにも酷い録音が取れてしまった……うわあ、これお遊戯会とか言われるレベルだよ。うわあ……。

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