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どういう訳か私のバイト先みたいな治安の悪いところでライブをすることになった古川さん! そしてその説明をして満身創痍になりつつもバイトはしっかりとこなした私!! 昨日はトラが無くて良かったなあ……と、仕事が少し少なかったことに感謝しながら登校して、自席で少しダラっとスマホを眺めていたんだけど……うぅん。
「おっはよー永井さん!」
「おはよう……」
「おはようございます永井さん!」
「あっ、はい、おはようございます……」
私とYARNを交換してくれたクラスメイトの子達に挨拶を返す。まさか私がこうして、普通の学生みたいに会話をできるようになる日がくるとは……人生、何が起きるかわからないなあ。というか相手から挨拶してくれるのってとっても嬉しいね。前世では相手から挨拶されることは無かったのに、私から挨拶しなかったら血が出るほどキレられたから……無駄に厳しかったのなんだったんだろあれ。なんで毎月退職者出しといて続けられたんだろ。宗教の金か。
「……永井さん、大丈夫?」
「えっ、あっあのっ、大丈夫ですが……ちょっといっ、嫌な過去を思い出してしまいまして……すみません」
「あー……あるよねぇ、なんか突然いやーな記憶思い出しちゃうの。私も昨日それ思い出して悶絶してたもん」
「永井さん、ちょっと疲れてるように見えますけど……食べますか? 安物のチョコレートですけど」
「……悪夢は、疲れる」
少し無口な子に私の頭を撫でられながら、敬語で話しかけてくる子にチョコレートを食べさせてもらう。
ああっ、なんだろう……今世で積み重ねて来た徳を凄い勢いで消費している感じがする……!! えっ待ってなにこのチョコレート、くちどけなめらかすぎるんだけど……絶対安物じゃない、絶対安物じゃないよこれ!? いいの私が食べて!? いやもう普段飲んでる珈琲からしてあれか、高いものか……。
ああ、幸せだ。幸せだなあ……幸せ過ぎて……
「お腹痛い……」
「えっ永井さん大丈夫!?」
「保健室、行く……?」
「もしかして、甘いもの駄目でした!?」
「いっ、いえ、あの、幸せ過ぎて……胃の許容量が……」
「幸せって胃に来るものなの!?」
私も初めて知ったよ。幸せって胃袋にダメージ与えるんだね。まあ多分幸福が裏返ってストレスになって腹痛として表れてるだけなんだろうけど。
しかしこれ、本当に私の人生なんだろうか。こんな骨と皮とギターだけの女があれやこれやと女子高生に甘やかされるなんて……この世は天国? 実際前世とは比べちゃいかんくらい天国。
「……そういえば知ってる? ほら、古川さん。なんかライブやるらしいって話」
「永井さんのところでされるんでしたっけ? ……ゾディアック・クラスタと同じくらい上手いんでしょうか」
「……この二人……基準が永井さんとこのバンドになってる……」
私を囲んで、私の頭を撫でながら雑談する三人……これあれだ、私の立ち位置ワンちゃんだ……。
いやいいんだけどね、こんな構われることなんて人生で全然無かったし。前世での学生時代はどちらかというと腫れもの扱いというか、あの、親がね……。
にしてもこの三人、というか二人か。私達のバンドくらいの腕が評価基準になっちゃってるところがあるのは、なんというか……悪いことしちゃったなあ。
正直、贔屓無しに見てもウチのバンドはレベルが高いから……私達をインディーズバンドの基準としたら色々と狂うと思う。
……私も会話に混ざった方が良いのかな。混ざった方が良いよね。うん、このまま撫でられっぱなしってのもありといえばありなんだけども……。
「……ちけ、チケットのノルマ、達成出来ますでしょうか……」
「もう全部のチケット売り終えたという話ですよ?」
「あの子達コミュ力は高いからねー」
「……定期的に、学園内でライブやってるし……学園内での知名度は、バツグン」
「あっそっ……そうなんですか……」
そっか。そうだよね、あの四人全員明るいもんね。余計なお世話、余計な心配だったね。……ああー死にたい。もう少し何か話題あったでしょ私。話が膨らむような話題……話題……?
毎日学校行って学校でギター教えて、終わったらスタ練してバイトやってバイト終わったらそのまま帰るのを繰り返している私が……盛り上がれる話題を出せるか……出せるかそんなん。
「そういや永井さんがバイトしてるとこでライブするんだよね? 実際のところ、永井さん達以外の実力ってどんな感じなの?」
「あっそういえば……正直、入る時間が遅かったし、治安もあまりよろしくなかったので早めに切り上げたんでしたね私達」
「……私は最後までいたけど……結構、レベル高いのばかりだったと思う……あくまで、素人の意見だけど……」
おおー、若干無口な子がウチの箱ごと推してくれてる……これ聞いたらみんな喜ぶぞぉ。今日バイト行ったら教えてあげよう。
インディーズバンドというのは、界隈で有名な人でも一般相手では無名、界隈でも知名度そこまで無い人は界隈外だと界隈知名度無だからね。
それがこうして全く別世界だった子に評価されるなんて……絶対寿命伸びるよバンドの。
「ふふっ、つっ伝えておきます」
「バンドマンの方とは話せるんですね……!?」
同級生ならともかく、バンドマンとならある程度話せるからね! 何せ演奏という共通の趣味を持っている者同士だから!! なのでライブ活動やっていない若者、というか人達とは何話せばいいのか分かりません。
女子高生としていいのかそれで。生まれ変わりだからこれでいいのだ。
「そういえば永井さん、リハビリは順調?」
「あっ、はい。もう、元の腕に戻すことはできた、とおっ思います……」
「それじゃあ、次のライブも近いうちに期待しても?」
「あっはい、その……まっ、また近いうちにかいっ開催しようかと」
「……楽しみ」
実際のところはヘヴィメタル系は一曲聞いただけでは模倣するのがちょっと厳しくなっちゃってるけど……それ以外の曲なら問題なく出来てるからね。
元と同じようなトラの依頼を受けるにはもう少し、あと数週間くらいは必要だけど……ゾディアック・クラスタとしてライブをする分には全然支障がない。だって技巧を凝らした演奏とかする必要ないし。
にしても、ファン……ファン、かあ。ふふっ、うふふふっ、嬉しいなあ。こんな近くに、しかもクラスメイトに私のファンが三人……。
よーし! 今日も頑張ってバイトするぞー!!
と意気込んだところで先生が入ってきた。そういえばまだ朝の時間だった……。
……私のこのやる気は、一体どこにぶつければ……?




