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 古川さんの話曰く、私の身に起きたイベント……というか突き飛ばし云々は原作に無かったみたいだから、かなり元の物語から外れていっているみたい。もはや古川さんでも予想がつかないらしいし、仮にライブで古川さん側が勝ったとしても、物語を元の状態に修正できるかは不明……だとかなんとか。


「永井さん」


 まあ、そもそも負けるつもりなんて一切無かったからそれはいいんだけども。それはともかくとして他バンドとの対バンを一度はやっておいた方が良いんじゃないかって話になったんだけど……学園祭に参加、参加かあ。


 はくりちゃんとりんさん、乗ってくれるかなあ。もしかしたらはくりちゃんとりんさんの学校側の方に行くことになるかもしれないけど……どちらを取るべきか。正直私としてはどっちでもいいっていうか、ギターさえ弾ければそれでいいんだけど。


 とはいえ、高橋さんをうちのメンバーに引き込んだ以上、恩を言っておいて抜けづらくさせておいた方が良いとは思う。新規メンバー加入させてその人に合わせたり合わせてもらったりのあれこれするのは面倒くさいし。


「永井さん!!」

「しばりえっ」

「しばりえ……? 先ほどからぼーっとしておりましたが、どうかいたしましたの? 車酔い、してしまいまして?」

「あっいえ大丈夫ですはい」


 心配そうに私の顔を覗き込む高橋さんに問題ないアピールをする私。はい、今までの思考は全て現実逃避です。毎日高橋さんに送り迎えしてもらってる間ずーっとしてます。


 えー、あの話し合いを偶然聞いていた高橋さんに、睨みつけられながら今私はバイト先に向かっているところです。胃が痛い。

 どういう訳かどこからか私と古川さんとの会話が漏れていたみたいで……あれっ、前に話してなかったっけ? あんま覚えてないけど……


「……永井さん」

「あっ、はい」

「……あの後、家政婦さん……足立山さん、でしたわよね? あの方に、話しておりませんの?」

「えっと、その……はい、しっ心配をかけてしまいますから……」

「かけるべきだと思いますわ。あの方は永井さんの保護者ですし、それに……永井さんの事を家族として愛している方ですから」

「かっ、家族とはまた違うような……」


 私の言葉に高橋さんは慈愛の目で首を振って否定するけど、あれは家族に向ける目じゃないよ。だって家族に向ける目だったら……ヒモにしたい、なんて言う筈ないもん!!

 とはいっても、それを説明したところで分かってもらえるかと言うと、多分高橋さんには理解してもらえないと思う……ヒモとは何か、というところから説明しないといけなくなるからね……。


 正直、家賃水道光熱費を持ってくれているってだけでもすっごいありがたいのに、あきらか私が渡した額以上の値段はするだろう料理とか総菜とか出してもらえてるし……それを毎朝吐き出しているし……これ以上迷惑かけられないよ本当……。


 そう、迷惑……迷惑かけてるよなあ、私。こうして、高橋さんがバイトの日以外も、私をバイト先まで送ってくれてるし、迎えを寄越してくれてるし……高橋さん家に悪い意味で覚えられていそうで怖いよ私は。


 ……よし、言おう。これ以上迷惑をかける訳にはいかないし。


「あっ、あのっ……いっ、いずれですけど原付の免許取りますので、そっそれが取れて、原付取れたらそのっ、送り迎えしてもらわなくても……」

「……迷惑でした?」

「いっいえいえいえそんなっ、そんな訳ないですよ! 凄く助かってます!! ただその、たっ高橋さん家に悪いと言いますか、ばいっバイトじゃない時も送ってくれるのは流石にきっ気が引けるといいますか……えっ、駅のホームの事故なんですから、それと無縁の道路を渡っていけばその、問題ないかと……」


 高橋さんなんでそんなしょんぼりするの!? もしかして私と毎日顔を合わせるの好きなの!? ……多分好きなんだろうな、私のこと友達として。そうでもないとここまでやらないもん。

 とはいえこれに甘えていちゃいけない。高橋さんがよくても、高橋さんのご両親がどう思うか……こんな治安の悪いところでバイトさせてライブさせる友達の事をなんて思うか。絶対良い思いはしないもん。


 ということで私永井みちる、ある程度独立します!! 原付買えば電車も乗らずに済むようになるし、安全になる筈! バイクも原付も全く興味ないから免許取れるか不安だけど!!


「……あの後、犬鳴さんの伝手であの日の様子を撮影していた防犯カメラをチェックしてもらったのですが……永井さんが駅を出るまでの時間、録画が飛んでおりましたわ」

「……えっと、つまり……?」

「組織的な犯行。それも鉄道会社を動かせるような大きな組織の……ということですわ。仮に原付で通学通勤するとなりましたら、確実に潰しに来ます」


 ……なっ、なるほどー……なるほどぉ!? えっそんなヤバい状況だったの私!?


 なんか思ってたより大きな話になってきてない!? 私の認識ではぶつかりおじさんの亜種的な存在だと思ってたんだけど、もしかして誰かが計画的に私を殺そうとしてる……!?

 確かにそれなら私が原付乗っても意味無いわ。絶対死んじゃうわ。……足立山さんに送り迎えさせてもらうのも多分危ないわ。じゃあどうしろと……?


 ふっ、古川さんに……古川さんに相談いや駄目だこれ原作に無いイベントだ!! 相談しても絶対解決しない!!


 ……あれっ? じゃあ高橋さんも危ないんじゃ……?


「あのっ、それじゃあ高橋さん……わっ私からはなっ離れた方がいいのでは……?」

「それはあり得ません。私──というより、高橋家の娘という立ち位置は、危害を加えるには大きすぎる影響力を持つ看板ですもの」

「あっ、そっそうなんですね……」


 私みたいな狭い箱内でたまに話題になるくらいのミジンコとは比べ物にならないくらいの大物だったんだ、高橋さんって……。

 ぼんやりと「そういやゲームでギタボやってた人だっけか」って感じで引き入れちゃったけど……もしかしてこれ、治安悪い場所でライブやらせたりバイトやらせたりって割と歴史的大事件なのでは? やっば冷や汗やっば止まんねっ。胃が痛い。


「……なんでこうなっちゃったんだろう。ただギターを弾きたいだけなのに」

「ただギターを弾けるよう、私達が全力でお守りいたしますわよ?」

「そっ、そういう意味じゃなくてですね……」


 私は普通の女子高生として普通にギターを弾きたいだけなのに……ギターの上手い吟遊詩人Aでいたいのに……命狙われるし友達に送り迎えしてもらうことになるしで、どうしてこうなったんだろう……。


 車の向こう、窓に流れる景色を眺めながら……前世よりは恵まれに恵まれているけれども、という言葉を、公衆の往来で嘔吐しそうになっているのを我慢するときのように必死に飲み込んだ。

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