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 外から朝練にランニングしている運動部の生徒の声が聞こえる。人間の臭いが全くしない廊下。私は珍しく、朝早くから学校に来ていた。


 思えばあの時、ゾディアック・クラスタの初ライブの日……私が階段から突き落とされてしまったあの日。古川さんにはうっかりこけてしまった、と説明していたけれども……原作知識のない私だったからただの偶然で片づけてしまっちゃってただけで、もしかしたら、何かしらのイベントがあったのかもしれない。


 なんで原作知識無いのにこの世界に転生させられたんだろうか私……と疑問に思いながら、まだ太陽が完全に登り切っていない軽音部の部室前で、私は立ち尽くしていた。


 胃が痛い。吐き気がする。自分から話しかけるの無理……というか、仕事以外で人と話すのってどうすればいいのかわからない。マジで。あーヤバい吐き気がするし頭がぐわんぐわんする。話しかけたくない。あの陽キャばかりな空間に入りたくない……。


 でも、私が死んだらみんなに迷惑かかるしなあ……私だけに被害が及ぶならともかく、みんなに不利益が被るっていうのは避けたいところだしなあ……。


 よし、気合いを入れよう! ここで突入しないと何もかもが上手く行かなくなる気がするし!!


 深呼吸をし、バクバクと鳴る心臓の音から耳を逸らし、扉をノック──しようとしたところで、開いた。


「ひうえっ」

「君は……」


 片目隠れたイケメンだ! 片目隠れた物静かなって感じのイケメンが出てきた!! 私がノックする前に!!

 あわわわわ古川さんとか中谷さんとか……ギリのギリのギリギリであの、人懐っこそうな可愛い感じの人くらいを想定していたのに……まさかの無警戒ど真ん中を引いてしまった!! ううっ胃がキリキリする……やめて心配そうな目を向けないで私の対人恐怖症が悪さしてるだけだから……。


「大丈夫?」

「ふぁいっ! あっだっだいじょっ大丈夫ですのであの、えっと、その」

「……落ち着いて。ちゃんと聞くから」


 目線を私に合わせてくれた……やだ優しい。でも扱いが完全に……女児……!!

 そうだ。こんなに優しく接してくれてるんだから要件をちゃんと言わないと……凄く失礼!! それに早く要件済ませてしまいたいし……。


「あっ、あのっ!! ふっ、ふふっ古川さんいらっしゃいますか!?」

「……くろこ? いや、今はいないけど……あの子に用事?」

「そのっ、ちょっとはなっ話したい事がありまして……あっえっと引き抜きとかじゃないんで全然はい、偵察とかでもなくてその……えっと……」

「……ここで待ってる?」


 あっ、はい……と言葉に出せず、こくりと頷く私。もう完全に子供じゃん……えっ何子供返りしてる私? 前世で数えたらもうアラフォーよ? アラフォーなら子供返りの一つくらいするか。

 よろよろと立ち上がり、促されるまま椅子に座る私。部室には片メカクレのイケメンさん以外はいないみたいで……えっ、古川さんと中谷さんと……あのもう一人は……?


「みんなはもう少ししたら来ると思うよ。……というか、この時間にここにいるのは僕くらいだからね」

「あっ、えっと……そうなん、ですね」


 なるほど、道理で音が全然聞こえなかった訳だ……まだ六時くらいだもん。なんでこんな早い時間に来たのかっていうと、クラスメイトとかから話しかけられない様にする為に……いや嫌いって訳じゃないんだよ? でもね、好き嫌いと体力使う使わないは別というか……疲れるんだ、とっても。


 正直、この片メカクレの人と話すのでも対人体力をゴリゴリ消費している感じがするし……!! 物静かな人な筈なんだけどねぇ、なんでだろうねぇ。ひとえに私のコミュニケーション力がマイナスを超えたマイナスになっているからなんだけど。


「えっと、永井さん……だっけ?」

「はっ、はい! そうです永井です!」


 なんて私が目的の人以外誰とも話したくない理由を頭の中でなんとか正当化してたら片メカクレの人に話を振られた!! まあこのまま無言で居続けるのも居心地悪いよね。ごめんね。困らせちゃってるよね。悪くないよ君は。悪いのは全部私だから。

 畜生コミュ力が欲しい……私にもコミュ力が……!!


「あの二人から聞いたよ。ライブ、凄かったんだって?」

「あっ、その……はい。高橋さんに、あの、うちのバンドメンバーみんなが頑張ってくださったので……」

「そうなんだ。捻挫しても構わずギターを弾いた人がいたけど、その人が一番鬼気迫ってたって聞いたけど」

「えっ、あっそうなんですね……」


 私かあ、私が一番目立ってたかあ……いやまあライブの時はともかく、後々手と足がギプスでぐるっぐる巻きになってたら、そりゃ印象もそっちに持っていかれるかあ……高橋さん達には悪いことしたなあ。


 でも私は別段目立ちたいという訳ではないから、愛想笑いでなんとか誤魔化しておく。

 ギタリストが目立ちたくないとか嘘を言うなって言われるかもしれないけど本当だもん! 私別に目立ちたくないもん!! というより、まずは高橋さんの目標を達成させてあげるのが先だと思ってるから……。


「……君くらいに全てを捧げないといけないのかな」

「それは本当やめておいた方が良いですよ。価値観全部ライブだけになっちゃいますので」


 とんでもないことを言ってきたのでスパッと否定したら、目を丸くして黙ってしまった……。

 いやでも、ここはスパッと言わないと駄目なところだからね。


 魔道(私が歩んできた人生)に堕ちそうなこと言うんじゃないよ怖いなあ! 私と同じ人生なんて幸せになれる訳ないんだから!! というか長生きできないんだから!! 毎日徹夜してギター弾いてるようなもんだからねこれ!! 人間関係も全く無くて本当……走馬灯とか、私が死んだ後とか、私に関わってくれる人どれくらいいるかって考えたら……いなさそうだからなあ。足立山さんに、高橋さんくらいだからなあ多分。りんさんとはくりちゃん? あの子達は私と同類だから。


 貴重な青春をこんなのにさせる訳にはいかない……楽器の練習なんて八時間で十分だからねマジで!!


「おっ、今日もオメェが一番乗りか石田……って、オメェは妖怪ギター弾き……」

「そういう事言うの良くないよ健司ー、やっほー永井さーん美術館ぶりー」


 という感じに片メカクレの人……石田、さん? と話している……というには無言のが多い感じだったけど、まあ話していると、高橋さんが恋している……中谷さんと、えっと、美術館で会った……誰だっけ?


「……もしかして僕って影が薄いのかな?」

「多分だけどあいつは名前覚えるのが苦手ってだけだと思うぞ、木田」

「それはそれでショックなんだけど」


 がっくりと肩を落とす様子の甘いマスクの可愛いって言葉が似合う人、木田さん。なるほど木田さんか、木田さん……うぅん、覚えられるかな。中谷さんは高橋さんから色々話聞くうちに覚えたけど……。


「で、天下のギタリスト様がうちに何の用なんだ?」

「あっ、えっと……ふっ、古川さんに用事が……」


 私がここに来た理由の人、古川くろこさんの名前を出すと中谷さんと木田さんが顔を見合わせて、同時に首を振った。

 えっなにその「タイミング悪いなー」的な感じのリアクションは!?


「くろこちゃんに? あー……そのー……今はやめておいた方が……」

「あいつ朝弱いからな」

「……邪魔」

「ひうっ」


 中谷さんと木田さんを無理やり押しのけて、すっごい目が座った様子の古川さんが顔を出してきて……私を睨みつけて……。

 えっこれに話しかけるの? この状態の古川さんに? あの優しかった古川さんどこ行ったの? 無理無理無理無理!! 絶対無理!!


「あっえっと、その……」

「って、永井さん……?」

「ほっ、放課後、ちょっとお時間お願いしますー!!」


 朝のうちに話しておきたかったけど無理だ! あの状態の古川さんに話しかけるのは!!

 もうね、逃げたね。流石にね。だって怖かったもん。でもちゃんと約束は取り付けた! よし!! 頑張った、頑張ったよ私!!


「……何だったの?」

「オメェの顔が怖かったんだろ」

「朝のくろこちゃんはちょっとねえ……」

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