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「どうかいたしましたの?」

「えっ、いや、そのっ……」


 今日は永井さんはバイトをお休み、ということで付き合っていただいている、使われていない教室での放課後のギター練習。

 いつも通り(わたくし)の腕を見て、聞いてもらっていたのですが……どうやら物思いにふけっている様子であまり集中なされていないようで……指摘や修正点は適格ですので問題はありませんが、どうも……私以外に意識を向けられているのは気に入りませんわね……。


「……永井さん、何がありましたの?」

「えっと、その……おっ、怒りません?」

「言わない方が怒りますわ」

「ひうっ」


 私の言葉に少し怯えた様子で顔を青ざめさせる永井さん。

 怯えさせるのはあまり趣味ではありませんが、朝に何があったのかを問い詰めなければ永井さんも私も練習に身が入りませんもの。その理由を聞いて、話して、情報共有してもらわなければ……モヤモヤが残り続けてしまいますわ!!


 永井さんは居心地悪そうにピックを指先で弄び、私から視線を逸らしながら言いましたわ。


「……そっ、その……今朝、古川さんに、たっ対バンをした際は負けてほしい、といわっ言われまして……」


 言いづらそうに、最後の方はしりすぼみに言葉を小さくしながら何があったのかを答えてくださった永井さん。


 ……はぁ? はぁ~~~~~~~!?!?!?!?


「……何ですのそれ、信じられませんわ。見損ないましたわよ古川くろこ……!!」


 負けてほしい、というのは勝負から逃げたという事に他なりません。古川くろこの歌唱センスに、ギターの腕……私程ではないにしても実力は認めていましたのに。しかもあの中谷健司様含む、顕花高校の黄金メンバーを全員揃えておいて……負けてほしい!?


 確かに私達ゾディアック・クラスタのメンバーは誰にも負けない腕を持っていますし、何だったら私以外の皆さんはプロと混ざっても遜色ない腕前ですわ。それに対し怖気づいてしまうのは理解いたします。

 ですが、負けてほしい……そうお願いするのは違いますわよね……!!


 そんなの、バンド仲間への侮辱に他なりませんわよ……!!


「あっ、あのっ、高橋さん……」

「なんですの?」

「うぇあぇっあっあのっ、ふっ古川さんにもかん、考えがあっての事みたいなのでその……」

「考え……?」

「はっ、はい。えっと、その……前に、私と古川さんが、てっ転生したって話はしっしましたよね……?」


 永井さんの言葉に少し落ち着きを取り戻し、過去に言われた言葉を思い出します。

 確か……この世界は元々ゲームの世界で、古川さんと永井さんはそのゲームのプレイヤーだった……って話でしたわね? 正直全然信じていませんし、何なら物語がかなり変わってしまっているので転生時に得た知識はほぼ役に立たない、って言ってましたわね……。


「正直、そういうお年頃だっていうので普通に忘れていましたわ……」

「えっ、わっ私中二病だと思われてたんですか……?」

「それに確か、状況がかなり変わってしまっているからゲームの知識が全く役に立たないと永井さんが……」

「あっえっと、私はゲーム全然やってないのですっ、ストーリー全然覚えてない、っていうかふれっ触れてないってだけです」


 永井さんの指摘に、そりゃ覚えてませんわよそんなのという言葉を飲み込みました。

 ……物語が変わりすぎてゲームの知識がほぼ通用しないならともかく、ストーリーに触れてすらいないって……それ転生前の記憶がある意味ありまして!? 無いですわよね!?


 いや実際無いんでしたわ。永井さんにとっては前世のトラウマで毎朝嘔吐してしまい食道を傷つけてしまうというだけの、本当に何の意味もない、なんなら消し去った方が良い記憶……でしたわね。


「とっ、とにかく……古川さんにはゲームの記憶がちゃんとあって、ですね……」

「ですが、それも物語が大きく塗り替えられてしまって役に立たない、という話でしたわよね?」

「そっ、そうなんですが……歴史の修正力、ってのがあるらしくて……その、大筋が変わっていても、転換期? 大きなイベントは、にっ似たようなものが必ず発生して、しまう……とか?」


 歴史の修正力? ……聞いたことのない言葉ですが、その意味はある程度推察できますわね。

 大筋から外れてしまった箇所を元の場所に戻そうという動き、最終回に向けての点と点を無理やりつなごうとする世界の動き……かしら?


 ……かしらと言っても、永井さんに尋ねても、答えが出るという訳ではないのがネックですわね。この人、こういったものに全く一切興味持ってませんもの。


「……はあ」

「えっ、なんでため息つかっ疲れたんですか私……?」

「いえ、永井さんは悪くありませんから、気にしなくてもよろしくてよ」


 永井さんが少し怯えた様子でしたので、彼女に非は無いということは伝えておきますわ。

 確かに、永井さんにしっかりと原作知識があって、物語の造形に深い方でしたらこの問題も軽く片付いたんでしょうけど……永井さんの興味は好奇心は永井さんのもの、私がどうこう言う資格なんてありませんもの。


「……で、受けましたの?」

「はい?」

「負けてほしい、というお願いは受けましたの?」


 ……結局のところ、結論はこれですわ。永井さんが、負けてほしいというお願いを受け入れたのかどうか。

 古川さんに何を告げられたのかは分かりませんし、それによって永井さんの運命が変わるというのであれば……私も、恐らくですが他のメンバーもですが不本意ではありますが、永井さんの人生に大きくかかわるものというのであれば、その要求を受け入れざる得ませんわ。


 ですが、永井さんが真っすぐと私の目を見てくださったことで、その答えを察し笑みがこぼれましたわ。


「断りましたけど」

「……それでこそ永井さんですわね」


 ええ、そうでしょうとも。永井さんほどひたむきに、真摯に、愚直に、音楽と向き合っている方は居ませんもの。そう答えるに決まっていますわよね。

 それだけに少しでも不安を覚えた自分が恥ずかしいですが……思っていた通りの答えが聞けて、安心しましたわ。


「……でしたら負けられませんわね。あのメンバーをけちょんけちょんにしてあげませんと!!」

「ふふっ、ですね……」


 私の言葉に、永井さんが同意して笑ってくださいましたわ。

 ええ、負けられません。あのようなお願いをしてくるような女が率いているバンドなんかに負けてなんか!! いえ健司様は別ですが……ですが、ことバンドに関しては手加減をして差し上げるつもりはありませんわよ!!


「私が死ぬくらいの理由で負ける訳にはいきませんからね」

「それは話が変わってきますわよ」

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