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「やっ、永井さん」

「ふえあ」

「……大丈夫?」


 朝の顕花高校……今日は珍しく足立山さんが早起きしたってのと、珍しく朝に嘔吐しなかった……ってので、高橋さんもまだ来ない早朝、屋上でギターをかき鳴らすという前世では絶対やれなかった事をやってみてたんだけど……古川さんに見つかった。


 クッ、早朝ってので運動部以外は居ないと思っていたから……対人への備えができてない……!! こんなのもう不意打ちだよ古川さん!!


 と文句を言う度胸もなく、口から言葉にもなっていない言葉が漏れ出た私を、古川さんが心配そうに覗き込んできた。

 ぶっちゃけ学校でも全然会わないし、そもそも別のクラスだしで……慣れねぇ、慣れねぇんだよお私はよお。


「こんな朝早くから練習してるんだねー、関心関心……まだ朝の七時だよ?」

「あっ、いつもは家でやってるんですけど……その、めっ珍しく朝は吐かなかったので……」

「へえー……待っていつもは吐いてるの!?」

「あっ、はい……寝起きは大体……」


 私が普段の朝の様子を答えると、なんか……引かれた気がする……?

 別に、嘔吐なんて誰だってするでしょ。ストレス発散の為にとか、毎日飲みすぎちゃってーでとか……おかしいな、古川さんも私と同じ転生者だから分かってもらえると思ったんだけどな……。


「……まっ、まあ、健康に被害が出てないなら何も言わないけども……」

「あっ、多分これが原因で知覚過敏出てますし、吐きすぎてのっ喉に傷ついてて、血が出たりとか……」

「やめなよそんなの出てるんだから……」


 自分の意思で辞めることできたら苦労はしないんだよ古川さん……話していて思った事なんだけど、古川さんって結構明るいというか、光側の人間だなって……素直に心配してくれている。まあこの世界の人達って基本みんな優しいけれども。


 でもそれだけに、私達ゾディアック・クラスタとは分かり合うことができないんだろうな、ってのはひしひしと感じる。なんというか、別の種族にしか思えないというか……。


「……っと、そんなこと話に来たんじゃないんだった」

「あっ、えっと……また、げっゲームの話、ですか……?」

「うーん、そういう訳でもあるし、そういう訳でもないかな……正直、私と永井さんが動きまくったせいでゲームの知識全然通じなくなっちゃってるし」


 手すりにもたれかかり、夏の風を浴びながらため息を吐く永井さん。

 その姿は私と違って原作通りの外見をしているからすっごく絵になっている。私はもう骨と皮と髪の毛しかない人間だから同じことやってもホラーになっちゃうから……自分磨きできるの素直に羨ましいなあ。


 というか……えっ、私のせい!? 原作のストーリーがおかしくなったのが!? そんな激しい動きしてたっけ私……。


「……もしかして無自覚でやらかしてたの?」

「えっ、まあ……げっ原作とは違って生徒会……あれっ、風紀委員会? にははいっ入ってませんが……」

「いやそうじゃなくて……どっちかというと学校外の」


 学校外、っていうと……私が実家を追い出された事とか、足立山さんのヒモになってることとか、バイトしていることとか、バンド組んだりしてることとか……?

 ……こう並べてみると私かなりやらかしてるな? いやでも、バンド組むのはともかくそれ以外はどっちかっていうと不可抗力の事柄だから私にはどうしようもないんだけど……!?


「良くも悪くも故意不可抗力も、変化が起きたら流れは変わるもの。それが小さいものであればまだ何とかなったけど、ここまで来るとダムでも作ったレベルに流れが変化しちゃってるからねえ」

「えっと、つまり……」

「永井さんがどのタイミングで誰に殺されるか私にもわからなくなったってこと」


 あー……そういえばそんな話もあったっけ。なんか私は原作では死ぬために生まれたとか、続編の攻略対象を未亡人にする為ーとか。正直よく理解してなかったけど。需要あるのか未亡人キャラって。

 とはいえ私自身は原作の事全く理解していない(ほぼやってない)から、それが変わったって報告されたところで心構え何も変わらないんだよなあ……何に備えればいいんだ私は。


「……そこで、ある程度話の流れを修正しようと思ってるんだ。そうしないと、色々と読めなくなっちゃうから」


 古川さんと前にあったやり取りを思い出していると、古川さんが突然そんな事を言い始めた。

 元の流れに修正ってことは……えっ、そういうこと? 私何か嫌われる様な事……してたわ。ゲロ吐いてたわ軽音部の部活室前で。


「あっ……えっと、私、私死んだ方が……?」

「あっ違う違う違う!! ごめんね言い方不味かったね!?」


 私が早とちりして出した結論を必死に否定する古川さんの様子を見て、とりあえずほっと安堵の息を吐いた。

 結構優しく接してくれていた古川さんに死んでほしいとか思われてたら私立ち直れなかったと思う……人間嫌いと人間不信が加速するところだった。危ない危ない。


 でも……だとしたらどういうことだろう。古川さんの言う通りだと、私は死ぬ運命に戻されてしまう……んだよね? じゃあ修正しない方が良いんじゃ……。


「えっとね。世界の修正力、っていったらいいのかな……? どれだけ私達という個人が大きく変化しても、分岐点や終着点はある程度決まっていて、どれだけ足掻こうがそれから逃れることはできない……ってのが、原作もの二次創作だと結構定番でね。例えばだけど、私と高橋さんが敵対するとか、今のメンバーでバンドを組むとか、そういう感じ……それが今後、未来でも起きてくる可能性は高いんだ」

「な、なるほど……」


 確かに。古川さんが原作よりちょっと早めにバンドを組んだり、高橋さんをうちのメンバーに引き入れたりと……原作から色々崩壊させてはいる筈なのに、古川さんと高橋さんがそれぞれのバンドで対立する、という構図は作りだしているし、古川さんところのメンバーも誰かが追加されたり脱退したりなんてことはない。


 これが歴史の修正力って奴なのか……あれっ、ってことは……?


「もっ、もしかして……私がどれだけ頑張っても、だっ誰かに殺されるって運命は……くくく覆せないってことっ、ですか……!?」

「あくまで予測、だけどね……しかも、原作だと刺殺だけど今の世界はどう死ぬかは分かったものじゃないと来たもんだ」

「……もっ、もしかして……階段を落とされた時も、そっそれが……?」

「えっそんなことあったの!? あっそっかあの怪我その時の!? うっそ大丈夫……じゃなかったよね……その、治ってよかったね本当!! 信じられない、許せないよそんなの……!!」


 あっ、うっかり口滑らせちゃった。ああー正義感の強い古川さんの目が燃えてるー!!

 ……この反応から察するに、いわゆる歴史の修正力と、私が受けた被害は特に関係ないっぽい……? えっじゃああれ何だったの? 偶然ぶつかっただけ?


「……とにかく、運命がそういう風に動くってんなら、色々と対策のやりようはある。要は刺されれば良い訳だから、防刃シャツを着ておくとか、そんなのをね」


 ……なるほど。つまり、古川さんは歴史の修正力を逆手にとって、対策を取っておきたいということか。そうすれば私は死ななくて済むし、無用な被害者も加害者も産むことも無くなる。そして原作の攻略対象は未亡人になることは無い……いや今のところ私のところに縁談も何も来てないんだけど。本当にいるのかそれ!?


「……まあそんな訳で、今日は永井さんにお願いをしに来たんだ」

「おっ、お願い……ですか? えっと、わっ私もまだ死にたくはないので、協力できるものならきょうっ協力いたしますよ……」


 私も死にたくないからね。古川さんの提案には乗るよそりゃ。

 だって生きてさえいれば、またギター弾けるし……乗らない手は無いよ。うん


「今度永井さんと対バンやるつもりなんだけど、負けてくれる?」

「あっすみませんそれは無理です」

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