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健司さん達と別れた私達は、美術館を色々見て回りながらりんさんとはくりちゃんの二人を探した。簡単ながらも興味をそそられる高橋さんからの説明に耳を傾けていたので、私自身は全然探してなかったけど。
というか初めての場所ってのもあって何もかもに興味を惹かれるんだよな私……前世ではマジのガチでギターしかやってなかったギタキチだったから……。
正直健司さん達にはくりちゃん達の特徴教えて探してもらった方がよくない? って思ったんだけど……まあ、いいか。
……確か、原作だと健司さんと逆ハーレム以外のルートだと古川さんが背中押して連絡先交換させるってイベントがあったような、なかったような……もう興味なさ過ぎて覚えてないな私。ギターの事と嫌な事しか覚えてないぞ私どうなってんだ私。
……あれ、もしかして私何かのイベント逃した? こう、高橋さんの為になるような、取り返しのつかないものを取りこぼしてしまった気がする……。
でも、それを指摘できなくても、サポートできなくても私は悪くないと思うの。
だって……だってさあ。
「あっ、あのっ」
「なんですの永井さん」
「ちょっと、もう、少し、速度を……」
高橋さんの歩く速度が速いから。
もうね、中谷さんと別れてからあっという間だったもん。恋路より二人の心配の方が勝つって感じだったもん。学生なんだから恋路を優先させてもいいんだよ高橋さん?
まあそれは高橋さんの性格、美点ではあるからいいとして……問題は速度よ速度。
高橋さんは私より歩く際に足を高く上げる。するとどうなるか、一歩が大きくなる。
そして私はどちらかというと上げる高さは低め。遠くから見たら地面に擦ってるように見えるとか言われるくらい低い。だもんで一歩も小さいので……高橋さんに半ば引きずられるような形になっちゃってる。
「あっ、ごめんなさい永井さん!」
「あっ、いえ大丈夫です、はい」
高橋さんが気付いてくれたのか、歩幅を私に合わせてくれた。ありがたい……この速度ならちょっと小走りするだけで追いつける。ごめんね高橋さん、それもこれも私の一歩が小さいばっかりに。
そんな訳で少しペースダウンした速度で、高橋さんと一緒にりんさんとはくりちゃんの姿を探す。
進んでいくにつれ、展示品の様相も変わっていく。どこか一般受けしないというか、若干グロいというか……少年少女に見せるのは憚られるようなものが増えていく。
美術館の奥の奥、ともなるとなんか照明が暗いし、人の骨というか、えっなにこれ? 人間の皮膚で作った本? ひえっ、とんでもないもの飾られてるじゃん。
なんでごく普通の博物館の筈なのにこんなものが……なんて疑問に思っていると、私の腕を、誰かが抱きしめる感覚が。
「……た、高橋さん?」
「……その、永井さん? べっ、別に怖くはありませんわ! ただ少しだけ、少しだけでいいので、この状態で……」
顔を青くし、震えながら抱きしめる力を強める高橋さん。その様子で怖くはないは無茶じゃないかな、なんて思ったけど指摘はせず、抱きしめられるがまま奥へと進んでいく。
……高橋さんの歩き幅が私と同じくらいになった。やっぱ小走りはちょっとキツかったから助かるけど……そっか、こういうの無理なんだ高橋さんは。
動物のはく製、解体している様子から人間の解体図解に脳みそや臓器に胎児のホルマリン漬け……ねえここ美術館だよね? 博物館じゃないよね!?
「ふっ、普段はお父様と一緒にここに赴いているのですが……そういえば、奥の方まで案内してくださったことありませんでしたわね」
「……確かに、むっ娘にここを案内するのは少し……憚られますね……」
子供にはできるだけ見せたくないもののオンパレード。これが医者になる為に必要、だとかだったら納得できたんだけど……あきらかそれ以外の目的の為に作られた物もあるから……うぅん、医者としても見せたくないだろうねえ。
拷問器具とかなんで飾ってあるんだよ美術館に。使用用途とか態々絵にしなくていいんだよどこの層向けここ!?
「ここ合法のところですよね……?」
「ここまで堂々と飾っているのに警察が踏み込んできて、捕まえないということは合法ですわ……あの、永井さんは……こういうの見ても、平気ですの」
「まあ、ブラックメタルのトラで慣れてますので……」
「何なんですの、ブラックメタルっていったい何なんですの……」
そう答えると高橋さんが信じられないものを見るような目で私の顔を見てきた。
とはいえ、実際こういったものはどんなバンドでもやります系トラやってると見慣れているんだよね……ロック以外にもメタル系の人ともライブすることあったりするんだけど、ブラックメタル系の人の中にはメイヘムやカーカス、ピスグレイブのジャケットを意識したものでプレスしている人がいてね……しかもああいうところのサポートって結構頻度が多かったりするから、自然と……。
あと私の前世ってまだネットが出回ったばかりくらいの頃だったから、そういったグロ系のブラクラを踏んだりするのがよくあって、見ているうちに自然と……。
なんて昔(前世)を懐かしんでいると、件の探していた人の片割れを見つけた。
恐ろしい形相の王妃によって、妊婦の腹を裂いて胎児が引きずり出されている絵画の前で座っていた。
「あっ、みちる」
「あっ、どうもりんさん……」
「探しましたわよりんさん。なんでこんなところにいますの。よりにもよってなんで……」
「……どうしたのひとみ?」
私の腕に抱き着きながらりんさんに文句を言う高橋さん。怖いのか薄目でりんさんを睨みつけている……んだろうけど、りんさんには全く通じていないようで、その様子を見て首をかしげている。
まあ意味わかんないよね。私というお世辞にも頼りにならない人間にしがみついてるの。
「はっ、逸れていたからさがっ、探してました……えっと、はくりちゃんは……?」
「はくりならトイレ」
「ごっめーんお待たせー……ってあれ、二人とも来たんだ。……ひとみんどうしたの?」
りんさんがそう答えた直後、トイレの道案内看板が差し示す方向から、左腕を抑えながらはくりちゃんが出てきた。
やっぱはくりちゃんも同じ反応するよね……私だって戸惑ってるもん。
「さっ、みんなで合流いたしましたし、他のところ行きませんこと? ほら、もっもっと見ていて楽しいものはあり、ありますわよ……?」
「みちるんみたいな喋り方になっちゃった……」
「んー……そうだね、行こっか」
私にも振動が伝わるくらいがくがくと震えながら、まるで普段の私みたいな喋り方でほぼ懇願するような勢いで提案する高橋さん。
まあ、私も……ここら辺のは正直そこまで目新しさはないし、それには賛成だけど……。
先導するはくりちゃんの、先ほどまで自分の手で押さえていた左手を握るりんさん。美術品に見とれていた私はともかく、なんでこの二人は逸れたのか。はくりちゃんに何があったのか。
そんな疑問を浮かばせながら、私達は四人で美術館の展示品を見て回った。




