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 美術館、始めて来たけど……厳かで、どこか澄んだ空気の中、絵画や彫刻が飾られている……これ一つで数憶数十億するんだよなあ、って私は値段でしか見ることができないけど、教養が深い人間だったらこれらを見て製作者の思いやら、制作時の時代やらの背景を読み取ることができるんだろうなあ。


 私は自分の教養の無さに勿体なさを感じながら、美術品を眺めていた。


 私は全く勉強してこなかったからなあ……学校での授業ってぶっちゃけストレスだったというか、覚えようって気になれなかったし。

 でもこうして美術品を眺めていると、昔やった授業ちゃんと聞いておけばよかったなーって後悔が募るんだよね。正直、仕事に繋がるとかいい学校に入れるとか言われたところでだから何、だったし。だって稼いだお金全部親の宗教に搾り取られるからね!! はぁー死ね。私が死んだわ。


「……あれっ? みんな?」


 なんて思いながら眺めていたんだけど、気が付いたらみんなの姿が無くなっていた……逸れた。

 どうやら夢中になって見ている内に置いて行かれちゃったみたい……そういえば割とすたすた進んでたっけかみんな。


 ……折角連れてきてもらっててこう思うのは悪いけど、やっぱり私は、ライブ以外の時は一人の方が落ち着く。……うん、もうしばらくは探さなくてもいいかな。

 我ながらすごい人嫌いなのは一度死んでも治ってないことにちょっと苦笑してしまう。別にあの三人が嫌いって訳ではない、むしろ人間の中では好きな部類に入るんだけど……好きとずっと一緒にいたいはまた別というか、ね……?


 一日ずっと一緒にいるのはやっぱり疲れるものなんだ。嫌ではないけれども。私の対人コミュニケーション体力がごりっごり削れるから……あぁ~すっごい体力が回復しているのを感じる……。


「……そういえば、こうやって一人になるのも久しぶりな気がするなあ」


 思い返せばそうだ。今の世界に生を受けてからというもの、常に誰かと一緒に居続けていたような気がする。足立山さんに、ゾディアッククラスタのみんなに……私独りになる時間って、そんなになかったかもしれない。


 みんな私に優しくしてくれる。とてもありがたいことだけど、こうやって一人なにか意味のないことをする時間も必要──


「おっ、お前は……ゲロ女か」


 だった筈なんだけどなあ……。


 声を掛けられたので見てみると、身長高い黒髪の男の人……えっと確か……この若干悪そうな顔というか、ワイルドでパワフルな感じのする人は……あっれー、名前なんだっけ……。


「中谷健司だ。覚えてねぇ……わな、ちょいとしか会ってないし」


 名前を思い出そうと頭を悩ませていると、見かねたんだろう中谷さんが答えを出してくれた。優しい……ごめんね名前思い出せなくて。関わりが無いからつい……なんで原作の攻略対象の名前覚えてないんだよ私。まあ中谷さんも私のことゲロ女呼ばわりだったからトントンか。トントンか?


「やっほー永井さーん! 久しぶりー!」

「あっ、お久しぶりです。えっと……」

「木田伸一だよー、よろしく永井さん!」

「よ、よろしくです……」


 中谷さんの背中から潜り抜けるように出てきた、キノコヘアーの女の子……に一瞬見間違えるくらい可愛い男の子、木田さんが私の手を取ってぶんぶんと激しく揺らしてきた。

 なんか、すっごい人懐っこい……!! でも不思議と嫌な感じがしないというか、犬が甘えに来ているみたいな感じのものというか……あー、なんかいた気がする原作ゲームにも。なんか結構ストーリーが暗かったような気がするような、しないような。


 でもまあ、疲れるかな一緒にいて……体力バーがごりっごり削られていく音が聞こえる……。


「えっと、おふ、お二人はなぜここに……?」

「健司の趣味が美術館巡りなんだよねー。それで僕はその付き添い」

「石田の奴もだが、こいつも放っておくと家から出ねぇからな……」

「ゲームを通して見分を広げているんですけどー!?」


 な、なるほど。それで美術館に……確かに、美術品を痛めないように空調は調整されているから過ごしやすいし、眺めているだけであっという間に時間すぎるし、館内も結構広いし……最適と言えば最適なのかも。


 ……でもそれでここをチョイスするのは意外だなあ。ダーツバー……とかは無理か、この人たち未成年だし。まあでもそういった体を動かす系の趣味をやってそうなイメージはあったからマジで意外。


「そういうオメェはなんでここにいんだよ」

「あっ、えっと……あの、バンドメンバーと遊びに来たんですけど、はぐ、逸れちゃって……」

「……それでのんびり一人でいるの? 不味くない?」

「ひっ、久しぶりに一人になれたので、つい……」


 友達と遊びに来たのに? みたいな感じに首をかしげるのやめて二人とも。私も言っててちょっと思ったけどさあ! 疑問にさあ!!

 でもね、一人って落ち着くのよ……? いや本当に。信じて。


 私が視線も合わさずしどろもどろに言っていると、中谷さんはひとつため息を吐いて、スマホを取り出した。

 そして誰かに連絡をかける……一応館内は携帯電話での通話は推奨されていないけれども、今は私と二人以外誰もいない環境だし、まあ……緊急事態ではある……のか……?


「ひとみか。今永井みちると一緒にいる。迎えに来てやれ。場所は色んな石像の──」

「見つけましたわー!!」


 うわ来るの早い!! 高橋さんが早歩きでこっち来た!!


「ようやく……ようやく一人確保ですわ……健司様、連絡してくださり感謝いたしますわ」

「……苦労してんだな、お前も」

「ええ、それはもう……」


 高橋さん、そんなに強く手を握らなくても私どこにも行かないよ? というかようやく一人って……もしかしてはくりちゃんとりんさんとも逸れちゃったの? ……あれっ、それじゃあ私悪くなくない? みんな逸れちゃったんだったら。

 と思ったけど私は口には出さない。何故なら口は禍の元って知ってるから。


「とはいえ、お陰で健司様とこうして出会えたのであれば……悪いことばかりじゃないのかもしれませんわね。……みんないない状態でなければ、デートのお誘いをいたしましたが」

「もう完全保護者だなひとみ……まさかあのお前がこうなるとは」

「環境は人を変えますのよ? もちろん、健司様への気持ちは変わりありませんが」


 お口チャックで中谷さんと高橋さんのやり取りを見る私。

 高橋さんの笑みを浮かべる姿も、その視線も、もう完全ラブなもので……うぅん、友達のこういうところを見るのは気まずい。恋愛感情そのものを否定する側の人間である私は特に。


 かといってどこかへ行こうにも手をがっちりとホールドされているから抜け出せないし……どうしたものかなあ。


「……もう少しご一緒したいところですが、あと二人を探さねばなりませんので今日はここでお暇させていただきますわ。健司様、そして木田様、ごきげんよう」

「またね高橋さん」

「……ちょっと待て、二人とも」


 りんさんとはくりちゃんを探しに行こうとした私と高橋さんを、中谷さんが呼び止めた。

 えっ、高橋さんはともかく……私も? と疑問に思っていると、こちらに拳を伸ばしている中谷さんの姿があった。


「初の学校外ライブ、お前等の庭でやることになったから……覚悟しておけよ、ひとみ。絶対負けないからよ」

「……あら、それは。ライバルとして、望むところですわ。健司様」

「……おい永井、オメェも何か言えや」


 えっ私!? いやえっと、何か言う程の関係性を築けている訳でもないんだけど私……えーっと、えーっと……。

 正直どのくらいのレベルかわかんないから何とも言えねぇ!!


「……た、楽しみにしてます……?」

「なんで疑問形なのさ」

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