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海、は私もだけどりんさんやはくりちゃんがNGを出したので無し。実際、私の水着姿とか誰得にも程があるからね……骨がね、浮いてるの。くっきりと。そんなの見せるのは流石に恥ずかしいし。
じゃあどこがいいかって話になったんだけど、そこは流石のコミュ力オバケの高橋さん。色々と調べてくれたみたいで……近場の遊び場をいくつかピックアップしてくれた。
してくれたんだけど……りんさんが動物が嫌いってことで動物園は無理。山は私の体力を考慮して無理。ということで残ったのが……
「美術館……こう、思ってたのと違いますわ……」
「あ、あはは……ど、道中も含めてってことで……」
「実際景色いいもんねー。あっお店やってる、何か食べていかない?」
「……煙草」
今私達は、気温三十八度とかいう馬鹿みたいな暑さの中、美術館を目指して歩いております。
綺麗に整備された赤煉瓦の歩道、客を呼ぶ出店、キッチンカーから漂う良い匂い。腕を組んで歩くカップル。子供の面倒を見る親御さん達。……違う世界を見ているようで胸がざわざわする。なんで私はああじゃないんだろう、と。
いや、友達と一緒にいるからいいんだけどさ。別に。一人寂しく歩いている訳じゃないから良いんだけどさ。
「みんなはフランクフルトいる?」
「お願いしますわ。マスタード無しで」
「あっ、はい。えっとお金お金……」
「煙草……」
私と高橋さんから五百円玉を受け取ったはくりちゃんが、こんな暑い中熱い鉄板でフランクフルトを焼いているキッチンカーへと掛けていった。
その背中を見送りながら、私はさっきからゾンビのように煙草と呟き続けているりんさんを横目見る。
大丈夫かな、この人……凄いふらふらしてるし、目の焦点も心なしか合ってない気がするし……熱中症だったりしない? ただのヤニ切れだよね?
「あの、りんさん……だい、大丈夫ですか……?」
「大丈夫。ただ……吸えないのが辛い……」
「貴女の年齢の場合、それが普通ですわよ」
りんさんが私の肩にもたれかかりながら、心の底から嘆くように言った。
私達が今歩いているのは路上喫煙禁止区域。子供が安心して遊べるようにだとか、受動喫煙防止だとか、確かそういう理由で指定されていた……記憶がある。私子供嫌いだから全く覚えてないけど。
まあ、そもそもりんさんが煙草吸う方がおかしいんだけどね。当たり前のように吸って飲んでってやってるけどこの人、私より一個年上ってだけの未成年だし。
「買ってきたよー……ってりん、大丈夫?」
「ヤニ休憩したい……」
「た、高橋さん……この辺にきつえ、喫煙所ってありましたっけ……?」
ゾンビのような顔、というか苛立ちを無理やり抑え込んでいる様子に流石に私も可哀想になってきた……。
りんさんは見た目だけならギリギリ成人済みといっても通用する見た目だ。なんというか、こう言っちゃあれだけど苦労を知っている老け方してるっていうか……なので割と年齢確認無しで煙草やお酒を買えるらしい。
だから地元の縄張り抜けて喫煙所に行っても未成年だと怪しまれないんじゃないか、って思うんだけど……高橋さんが首を横に振った。
「一応喫煙可能なバーはありますが、会員制ですし席代だけで数万はかかりますわ。それにそもそもこんなお昼から開いてません」
「どっかでこう、喫煙者がたむろしているようなところは……」
「私の友人がそんな場所をオススメする訳ありませんわ」
高橋さんの無情な答えを聞き、りんさんが膝から崩れ落ちた。そのまま項垂れようと地面に手を付いた瞬間「あつぁっ!!」って叫んで立ち上がったけど。いやそりゃそうなるよ。
……そういやそうだった。よくよく考えたら高橋さんっていいとこの、危険で治安の悪いところには遠ざかる近寄らないが基本なお嬢様だった……その友達ともなれば普通はそうだよね、マナーを違反するような人がいない治安の良いところを紹介するよね。
「終わりだ……」
「こんな絶望してるりんさんはじ、始めて見ました……」
「活動していくにつれてここみたいな場所でライブやる機会も増えてくるだろうし、今のうちに慣れてもらわないと困るんだけどねー……ほらりん-、これ咥えて誤魔化してなー?」
はくりちゃんがりんさんの口にフランクフルトをずぼっ、と差し込む。はくりちゃんに言われた通り、沈んだ顔で渋々と言った感じでフランクフルトを食べ始めるりんさん……ちょっと卑猥に見えたのはうん、やめておこう。
そういえば煙草を我慢する時って棒付きキャンディとかもいいって話聞いたことあるなー、なんて思いながら、私もはくりちゃんからフランクフルトを受け取る。……久々に見たけど、結構大きいなこれ。ずっしりとしてる。
「シンプルながらに美味しいですわね」
「たまーに食べたくなるんだよねー、お店のフランクフルト。スーパーで買った方が安いのはわかってるんだけども、ついつい買っちゃう」
「……熱い」
三人とも食べているので、私も同じように食べる。
うん、熱い。一口齧ると、皮の中に包まれた肉が肉汁と共にあふれ出て……この季節に食べるものじゃないんじゃないかって気がすっごいする。
ああ、でもいいねこれ。油の甘味。どことなく香る炭の匂い。お店じゃないと中々食べられないからねー、炭火焼って。
……でも、うん。ちょっと私には脂っこいかな……。
「……ふふっ。私の夢の一つ、叶っちゃいましたわね」
「あー、お嬢様ってこういう買い食いとかしないイメージがあるねー。みちるならともかく」
「家に用意されているものしか食べないってイメージはある。みちるはともかく」
「あの……な、なんで私だけ例外みたいな……?」
なんでみんな一斉に見て私だけ除け者にするの……? お嬢様だよ、私もお嬢様だよ……?
いや確かに生活苦からバイトしてるけれども。お使い頼まれたりしてるけれども……あれっ、私ってお嬢様だっけ……? 追放されてるからもう違うか。
「っと、着いた……歩いてみたら結構すぐだったね」
「このゴミ、どういたしましょう」
「ひとみ、私のペットボトルそっちの袋に移していい? これにゴミ入れておく」
「あら、ありがとうございますわ。谷野さん」
気が付いたら美術館前に到着していて、みんなはフランクフルトを食べきっていた。
食べきれてないのは私だけ……半分くらい残ってる。急いで食べないと。でも……脂が、脂がキツい……!!
こういうのって普通転生したら胃腸も若返るってもんじゃないの!? それともキツいと感じているのは胃ではなく脳だからなのかな?
「……永井さんが食べ終えたら入館いたしましょうか」
「みちるん、ゆっくりでいいからね?」
「喉詰まらせないように」
うう、ごめんなさい。みんなを待たせてしまって。りんさん、いつでも飲ませられるようお茶スタンバイしなくても大丈夫だよ。流石に喉に詰まらせたりしないよ。何歳だと思ってるの? ……嚥下機能は確かにちょっと低下してる気はするけれども。
結局食べ終えたのは、美術館に到着してから数十分後だった。休み休みじゃないと食べられなかった……。




