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 お昼休みの時間にみちるさんとギターの練習。リハビリは順調なようで、もう怪我をする前と遜色のない音色を奏でるようになりましたわ。

 そして、学校が終わるとバイト。バイトを終えると家でギターを弾く。


 お昼休みにギターの練習。学校が終わるとバイト。バイトを終えるとギターの練習。お昼休みにギターの練習。学校が終わると今度はお稽古。お稽古が終わるとギターの練習……。


 それを毎日毎日、休む日もなく繰り返します。

 お稽古を減らしていただいたものの、代わりにそこにはバイトとギター練習が挟まり……むしろ、バンドを組む前と比べて自由時間が減ってしまいましたわね。

 いえ、そこに後悔はありませんわ。健司様の隣に立てるよう、古川くろこさんをギターテクで分からせる為に。そしていつ倒れてもおかしくはない永井さんを監視するために。この選択に後悔はありませんわ。


 そう、ありません。ありませんが……。


「……青春、したいですわ」


 ライブハウス『TRITONE』のスタジオ、次のライブに備えた通しの演奏を終えた(わたくし)は崩れ落ちましたわ。

 ああもちろん、ギターには傷がつかないよう私の膝へ包み込むように落としましたが。


「どしたのひとみん」

「せ、青春がどうとか……言ってましたね……」


 見上げてみたら、永井さんや角田さんが不思議そうに私を見ていましたし、谷野さんは……岡村さんとなにやら話している様子。私を見て谷野さん!!

 ……何故そんな表情ができますの? なぜそんな何を悩んでいるか分からない表情なんですの?


「ライブに備えての練習にバイトに練習にお稽古に練習に練習に……私達、出会って何か月目か覚えてまして?」

「えっと……さ、三か月目……?」

「もうほぼ四か月ですわ! もう八月、八月になりますわよ!?」

「えっそんなに」


 永井さんだけでなく、角田さんも私が言った月数に驚いているようで目を大きくしていましたわ。いやなんでそこで驚きますの? 覚えている私がおかしいのかしら……。

 思えば永井さんと知り合ったのは入学したばかりの、新入生だった頃……そのくらいの時期に角田さんや谷野さんとも知り合いましたわ。


 ええ、知り合いましたの。この三人と。岡村さんはまあ、たまに練習に来るくらいなので……ですが、永井さんとはほぼ毎日顔を合わせていますし、角田さんや谷野さんとも週に何度も顔を合わせて、時には通話をしながら練習をしたり……と、かなり濃密な時間を過ごせていましたわ。


 だのに……だというのに……


「結構長い付き合いになっていますのに遊びに……どこにも行ってませんわ……!!」

「えっ、そっそうです……か……?」

「みちるんの家に行ったり、打ち上げで一緒に食べに行ったりしたような記憶が……」

「全部バンド関連のものですわよね!? ライブに関すること以外の……そういうの抜きの! プライベートなものを!!」


 角田さんが挙げてくださったものは……確かに楽しかったですわ。楽しかったですが……そうではありませんの。違いますの……!!


「あっ、ボクこの後用事あるんでお先に失礼ー」

「お疲れ様ですわ」

「お疲れー……そこははちゃんと言うんだひとみん」

「おっ、お疲れ様です」

「お疲れ」


 私のことガン無視で次の仕事先へ向かう岡村さん。まあ彼女に関しては雇われですもの、お仕事ですもの。その邪魔をする訳にはいきませんわ。贅沢言うと友達と思っている自分がいますので、一緒に遊んで欲しいですが……。


 ですが、それはそれとして! まずはこの三人ですわよね!!


「……で、何事?」

「あっ、りんさん、その、みっ、みんなで遊びにいき、行きたいと高橋さんが……」

「……遊びに、か」


 床に座り込んだ私を見下ろしながら、谷野さんが顎に手を当ててなにやら考えている様子ですわ。

 なっ、何かしら……やはり、まだギターの腕が永井さんレベルまで上がってないのにわがままを言うな、とか言われるのかしら……。


 でも私、永井さんは当然として谷野さんも角田さんも友達だと思ってますもの! なのに長い付き合いなのに思い出が何もないというのは、こう、寂しいですわ!!


「……ひとみ、ここ最近歌詞書き上げてないよね」

「えっ、あっそのっそれは……」


 谷野さんの指摘に、私は思わず視線をそらしてしまいます。あのライブの時、健司様へ気持ちを伝える為のラブソングを作詞し、演奏をいたしたのですが……それ以来私は新しいものを書けずにいますの。

 燃え尽きてしまった、と申しますか……何故かぱったりと歌詞が思い浮かばなくなってしまいまして。そしてその状態で今に至るという訳ですわ。


 不味いですわね。ギターの腕もまだまだ、歌詞も新しいの書けてない。そんな状態でこんなことを逝ったら追放され──


「たまには、全部忘れて遊んだ方がいいかも」

「……ふぇっ?」

「な、なるほど……そういうこと、ですか」


 何やら納得したように頷く谷野さんと永井さん。谷野さんだけはどこか曖昧な笑みと言いますか、呆れたような笑顔をしていますが……。

 これはもしかして、私の気持ちが通じた……!? やりましたわー!! ようやく、ようやく……遊びに行けますわ! みんなと!!


「季節的に夏だし、海にでも行く? 泳ぐのは無理だけど」

「あー、アタシもちょっと水着は……」

「あっ、えっと……わっ、私も……」

「……この気温で海に泳ぎに行きたいとは流石に言いませんわよ」


 今は八月。夏真っ盛りですわ。ライブハウスという地下、涼しい店内ということもあって実感しづらいですが……外はとても熱い季節となっておりましてよ。

 ええ、熱いですわ。暑いではなく。


 もはや蝉も蚊も生きられない殺人的酷暑。そんな中水着なんていう下着と同じくらいの露出度の服で太陽の下を歩くなんて……日焼けどころか大火傷のコース入ってしまいますわ。


「……じゃあ涼しいところにでも行こうか。鍾乳洞とか」

「あっ賛成ー!! いいねぇ鍾乳洞、涼しいし暗いし」

「は、はくりちゃん……くっ暗いところが好きなんですね」

「全人類好きなんじゃないの?」

「そ、それは流石に主語が大きいような……」


 まさか……まさか、谷野さんが旅行先まで提案してくださるとは……!?

 ふふっ、嬉しいですわね。友達と遊びに行く。いつも学園で一緒にいてくださっている犬鳴さんも佳賀里さんも、放課後は勉強や習い事で忙しいとおっしゃってまして遊べていませんでしたし……あらっ、もしかしてこれが私の人生で初めての旅行になるのかしら?


 ふふっ、楽しみですわね……記念日にしませんと。


「うわー、すっごい喜んでる……」

「でっ、でも……りんさんが旅行をてい、提案してくださるなんて……いっ意外でした」

「まあ……そうだね。……曲を書くのに、新しい刺激があった方が良いものを作りやすいって言うから」


 結局バンド関連ですのね……。

 いえ、今はいいですわ。主題がバンドでなければよし、ですわ! そのくらいの妥協はいたしますわよ!!

ちょっと週4投稿に切り替えようと思います

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