106
「えっ、あのっ、お姉さま……?」
「ごめんなさい、みちる。ごめんなさい……ごめんなさい」
何故か私を抱きしめながら謝り続けるお姉さま。いったいどういう状況? 何が起こってるの!? 私別にお姉さまに謝られるようなことされた覚えないよ!?
あれか、欠損した記憶で何かやらかされたパターンかこれ!? ヤバいヤバいヤバい、何もわかんないから怖い!!
「あなたが、あなたがあんなに傷ついてるって知ってたら私、私……!!」
「あっ、あのっ、えっ傷ついて……えっ?」
傷ついてた? 私が? お姉さまに私の前世の事話したことあったっけ?
……思い返してみたけど、全く無かった筈。前世の記憶に関して事細かに話したことも誰にも無かった筈だし……。
つまり今の状況は私が全く身に覚えのない理由で、なんかめっちゃくちゃ謝られまくってるという事。正直下手に暴力振るわれるより怖い!! このパターン今まで無かったからトラウマスイッチ入ったりはしないけど!!
というか足立山さん助けて、足立山さん……足立山さん? なんで全く動こうとしないの足立山さん!?
「わっ私、一体何をしたんですか……?」
「……やっぱり覚えてなかったっすか。映像確認してていつもと違うな―とは思ってたけど、案の定」
「いつもと違う……!?」
「何かあったか覚えてるっすか?」
「えっ、いえ全く……きっ、気が付いたら入院してて……」
えっ何が起きてたの、足立山さん!? なんかいつもより髪の毛ボサボサな気がする足立山さん!!
ただ足立山さんの口ぶりから察するに、多分だけどほぼほぼ確定で私が何かやらかしてしまったんだろうなということは分かった。その何かが全く分からないんだけどね!!
よく「俺キレたら記憶失うから覚えてないけど、めっちゃくちゃ暴れまくるんだよね」とか吹かしてる人いるけど……私の場合仮にキレたとしても子供よりも怖くないし、そもそも何もできないと思うから……じゃあなんで泣いてるんだお姉さまは……? うぅん……? 私何かやっちゃいました?
「しずくお嬢様が話せない状態なので、うちが代わりに、何が起きたのか説明するっすね。色々省いて端的に言うと……お嬢が内々に秘めていた不満とか色々ぶちまけた後、切腹して内臓取り出して投げつけたっす」
「えっ、ないぞっ、えっ? ……えっ!?」
思った以上にとんでもないことやってた。思ってた以上にとんでもないことやってた!!
ええー、切腹したって私……内々に秘めていた事って何? 私今の待遇に全く、って訳ではないけど不満持ってないんだけど。
というかよく見たら足立山さん、なんか泣き腫らしたような跡が目元に残ってる……そりゃ泣くわ、私が切腹したってなったら泣くわ。高橋さんもめっちゃ泣いてたもん。
うぅん、でも……それがなんでお姉さまが泣いてる事に繋がるのかは全くの不明だねぇ。
「私が、私が巻き込んだせいで……みちる、子供が……赤ちゃん産めなくなったの……ごめん、ごめんなさいみちる……私のせいで、私のせいで!!」
赤ちゃん産めなくなった? なるほど……なるほど?
えーっと、つまり……私が切腹してー、内臓投げつけてー、その内臓が……何の内蔵投げつけたの私?
「子宮、千切っちゃったんすよね……」
「ええー……えっ、ええー……!?」
子宮千切っちゃったの私!? うっそだぁー……って思いたいけど、こんな泣いてるお姉さまにこんな様子の足立山さんが、そんなつまらない嘘つくとは思えないし……まあ、本当って事か。
マジかあ、思ってた以上にやらかしたな私。そりゃ泣くわ。泣き散らすわ。
「その後、お嬢の元婚約者さんが救急車呼んでくれた後に色々あったんすけど……まあそこは割愛するっす」
「こっ、婚約者の人……?」
「……せめて存在位は覚えてあげてくださいっす。あの後、お嬢の為に怒ってくれて社長殴ったんすから」
えっ、私の為に怒ってくれたの!? うわあ、良い人……そりゃあそうか、元々”永井みちる”の婚約者だったんだから、性格が悪い訳が無いか。ゲームの攻略対象? って話だし。
というか、あの場に足立山さんいなかったのになんでそんな事知ってるの?
「……そうだったわ。その事について話があるんだった」
「あっ、もう大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ……恥ずかしいところを見せたわね」
いや恥ずかしいところを見せたというか、なんというか……鼻水ついてるんだよなあ、服に。いや、迷惑かけちゃったっぽいからいいんだけどさ。
というか話って何? 無事に入院して、こうして顔を合わせられてるって辺り、よくわからないけど成功してるって事なんだろうけど……。
私の手元からすっと離れたお姉さまは、足立山さんから貰ったティッシュで鼻を思い切りかんでから、口を開いた。
「あの後、あんたとお父様とのやり取りを録画してたのよ。これでね」
「ぶっ、ブローチで……ですか?」
「ええ。この中に小型のカメラとマイクが仕掛けられていてね。あんたとあいつとのやり取りを録画して足立山のパソコンに送信からの複製してで……まっ、色々と脅し取ってやったわ」
自慢げに語るお姉さま。ほへぇー……カメラ隠してたんだ、これに。
確かにあのセキュリティに、あの命を当然のように狙ってくる動き……あえて懐柔されたように懐に飛び込んで、映像をリアルタイムで送って脅しかけるしか付け入る隙は無かったってことか。
……でも切腹はともかく、そこに至るまでの事で脅してひるむような会社じゃないと思うんだけどなあ。
「あんたがクリスマスや誕生日の事を言ってたお陰ね。あいつの会社、海外資本が約半数だもの。向こうの人間ってクリスマスをすごい大切にするのよ」
「クリスマスの日に子供と一緒にいなかった、ってだけで離婚理由になるっすからね。この映像が露呈したら、自殺者出るレベルで株価ダダ下がりっすよ」
はへぇー……海外だとそんなレベルなんだ、あれって。
にしても二人の話を聞いてると段々と思い出して……は来ないんだけど、なんか気分が前よりスッキリしてるような気がする。なんか色々ぶちまけたって言ってたし、多分なんかそこら辺の不満とか言ったんだろうな。
「そんな訳で、私とあんたそれぞれに、永井財閥の株を一パーセントずつ譲渡すること。それと私達か足立山の誰かが死ぬか行方不明になったら、これで撮影した映像を全世界に公開するって脅しかけて取ってやったわ」
「えっ、ええー……それ大丈夫なんですか?」
「賠償金にしては妥当でしょ。それに、一応あれと血が繋がってるんだし」
そうなのかなあ……確かに血が繋がってるし、一応継承する権利はあるかもしれないけど……でもそれって多分あの人が死んでからだと思うよお姉さま?
にしても株価の一パーセント、一パーセントってどれくらいだろ。どれくらい貰えるんだろ……?
どれくらいの大金か全く想像できてない私……を見るお姉さまの表情がなんか曇ってきている。なんで? この話のどこで曇る要素あった?
「……それに、あんたもう子供作れなくなっちゃったんだし」
子供? 子供……あー。それはまあ、うん。
「えっ、あー……きっ、気にしなくていいですよ……? 私、こっ子供嫌いですし」
私がそう笑って言うと、お姉さまは……私を抱きしめた。表情は見えないけど、私の頭を撫でる手がとでも優しくて……なんかこれ勘違いされてんじゃないかな? 私、強がってるように見られてる?
割とマジで子供嫌いなんだけどなあ。無駄にうるさいし。




