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私が目覚めて二番目に見た人は、りんさんだった。はくりちゃんのお見舞いのついでに私の顔も見に来てくれたらしい。
それからというもの、毎日のようにお見舞いに来てたらしい足立山さんと高橋さん、クラスメイトのみんな、ライブハウス『TRITONE』でライブやっているバンドの人達、店長さんが来てくれて、秋さんが出禁になった。
私の事誘拐しようとしたからね……いやすんごい泣かせちゃったし、すんごい心配かけてしまったってのはあるんだけど。
とはいえ、目覚めたからって即復帰できるという訳ではない。なんでも私、一週間くらい眠ってしまってたらしいし……お腹の傷だけじゃなく、喉の手術もかなり大変だったとか。なんでも長い事吐き続けてたせいで、相当酷い感じになっていたらしい。
……なんか学会で、私の喉の症状発表したいとか言われたなあ。とりあえず承諾したけど。何の参考になるんだなんの。
「しばらくみちるんはリハビリかぁー……私はそろそろ退院しなきゃなんだけど、みちるんはまだ安静にしなきゃ駄目なんだっけ?」
「で、ですね……しばらくはり、リハビリをやっていかないと、いけないかと……わ、私もギター……弾きたいんですけども」
私に添い寝するみたいに横になってるはくりちゃんに、頭を撫でさせられながら答える。
いや違うのよ。私から撫でに行ってるんじゃなくて、はくりちゃんが手を取って頭を撫でさせにきてんのよ。
というかどういう状況なんだろうこれ。はくりちゃんの頭を撫でながら、りんさんにリンゴを剝いてもらってるって。私どんな徳摘んだの一体。
にしても、リハビリ……リハビリかあ。基本的に寝たきり生活ってのは、筋力を戻すには寝たきりだった分の四倍の時間が必要になると言われている。
それまではギターもバイトも出来ないってなると、流石にちょっと厳しいものがあるなあ。……ギターはともかく、バイトは流石に入院してたらできないし……。
しゃりしゃりと、りんさんがリンゴを剥く手が止まった。
「……あっ、あの……私、何かやらかしてしまったでしょうか……?」
「自殺未遂したって聞いたけど、それ本当?」
「あっ、その……私、当時の事はあ、あまり覚えてなくて……すみません……」
りんさんにそう尋ねられたけど、本当にあの時の事は全く覚えていない。だからどうとも答えられないんだよね。
ただお腹がすっごく痛くなったのだけは覚えてる。……そういえば、あの交渉ってどうなったんだろうか。お姉さま、上手くやってるといいんだけど。
りんさんに差し出された一片のリンゴをあーんしてもらう。美味しい……これ結構良いところのやつなんじゃないかな。
「……みちる、何か変わった?」
「えっと、そう……ですか?」
「うん、なんかみちるん、若干明るくなったような気がする」
りんさんがそう微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
言われてみれば、不思議な夢を見てからなんか心が軽くなったような感じはする、かな? 前世の記憶にしても、お母さんに関する事はあんまり恨みを抱かなくなった気はするし。
……ただ、これが作詞作曲の方にどう影響するかが未知数なのが怖い。人間にとって良い変化というのは、創作家にとっては必ずしも良い影響を及ぼすとは限らない。
最悪な絶望の中でこそ名作を産み出す、というクリエイターも少なくは無いからね……まあ私の場合、まだまだマイナスから抜け出せてないんだけど。
「みちるのお友達ですわね?」
「ん、誰? みちるんの知り合い?」
「似てるね、顔」
はくりちゃんと一緒にりんさんからリンゴを食べさせてもらっていると、車いすに乗った女性……確か、しずくお姉さまだっけか。が声をかけてきた。
彼女の車椅子を押しているのは、足立山さん。目覚めたってのにお見舞いに来なかったのは、お姉さまを迎えに行ってたからなのか……。
「はじめまして。みちるの姉である永井しずくと申します。いつもみちると仲良くしてくださってくれてありがとう」
「あっ、えっと……角田はくりです。こっちは友達のりん」
「ども」
はくりちゃんもりんさも、ちょっと緊張した様子でお姉さまに挨拶をする。
まあ、そりゃあ緊張するよね。だってオーラが違うもん。本物のお嬢様、って感じがすんごいしてるし。
高橋さんは……なんというか、初対面のリアクションでこう、そういう目で見るのとは違う対象になった感じがあるから……。
「ええ、これからもみちると仲良くしてあげてください。……少し、この子と二人で話したいのですが、良いですか?」
「みちるんと? あっ、はい大丈夫ですよ。んじゃりん、一緒にどっか散歩しよっか」
「ん……またね、みちる」
「あっはい。また」
ひらひらー、って手を振って病室を出て行った二人。……気のせいか、一気に空気が重くなった気がする。
まあ気心知れた友達と、血が繋がってるとはいえほぼ知らない上級階級の人とではやっぱり色々と違うよねっていう。
でも前よりはあんまり緊張はしないかな、って……。
「足立山、手を貸してもらえる?」
「はいっす」
「あっ、わっ私も手伝います」
「……あなた今、私より筋力無い状態でしょ」
足立山さんの手に捕まって、車いすから立ち上がるしずくお姉さま。私も何か手伝おうかと思ったんだけど、そう言われてしまって断念。ずっと寝てたから筋力が落ちてるからそれは、そうなんだけど……手も足も棒みたいだけども……いやこれは前と変わらないか?
足立山さんに捕まって立ったお姉さまは、ゆっくりと歩いて、私のベッドに腰掛けた。
「まずだけどみちる」
「はっ、はい」
お姉さま、やっぱり怒ってるのかな。私をじっと見つめてる、というか睨みつけてる。
でも正直仕方ないよな、とは思う。だって私が勝手に暴走して、作戦失敗させてしまったも同然なんだから。
……何が起こったのか覚えてないけど、お姉さまと足立山さんの表情から察するに、多分作戦失敗したんだろうし。しかも原因は私のせいで。
……怒られて、殴られて仕方ないって頭で分かっているのに、心臓がバクバク音を立てている。手に自然と力が入ってるのが分かる。
怖い。とても怖い。殴られるのは怖いし怒られるのも怖い。もうやだ、私は……私はもう、誰にも殴られたくない……。
「……みちる、目を開けて。大丈夫、怒ってないから」
お姉さまの声……その声には、不思議と安心して、信用できた。
恐る恐る目を開けると、目の前にお姉さまの顔が。
「なんで、なんでお姉さま……」
泣きそうな顔をしているんですか……?
そう口から出る前に、お姉さまに抱きしめられた。




