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永井さんが入院して、目が覚めてからというもの毎日面会……に行きたい気持ちは、二日に一回程度に堪えるようにしましたわ。自分の事は置いといてギターの練習をしてほしい、と。……彼女にとっては嬉しい事は、私との面談よりも私がギターを弾く腕前が上達している事でしょう。
ですがそれはそれ、これはこれ。毎日顔を合わせて、毎日一緒に練習してくださった人と離れ離れになっているのに顔を見る事ができないなんて私は嫌ですわ!! という訳で二日に一回のペースでなら来てもいい、という事になったのですが……。
「……永井さんに、男性のご友人がいたとは知りませんでしたわ。それもバンド関係以外のなんて」
「知らない仲、という訳ではないからね」
知らない仲ではない、と意味深な答えを返した、黒髪で片目が隠れたイケメンなお方……。
あっ、怪しい……途轍もなく怪しいですわ!! まさか永井さんの恋人……いえっ、婚約者!?
と考えたところで私の中の冷静な私が「無いな」と首を振りましたわ。
まあ冷静に考えたら、永井さんの恋人がこんな素敵な、誰もが振り向くようなイケメンな訳ありませんわよね。失礼ですけど永井さんはなんというか……どっちかというと、女性にモテそうな気がしますし。こう、重めの愛を伝えてくるタイプの。
「そういう君こそ、あの子の友達とはちょっと思えないな……随分と明るく見える」
「そうですわね、どちらかというと……師弟関係、ですわね?」
友達、と呼ぶには上下関係というか、私教えてもらってばかりですもの。うん、この言い方の方がしっくり来ますわね。
……というより、友達と呼ぶには遊んだ回数が全然ありませんのよね。だってギター練習、ライブに向けての練習ばかりですもの。……もっと遊んでくださってもいいですわよね。
と答えると、イケメンさんは驚いたような顔をしてらっしゃいましたわ。
「……あの子が人に教えられるとは」
「ええ、優秀な先生ですわよ?」
初心者の私でも分かりやすく説明してくださるもの。意外かしら? ……まあ、意外ですわよね。ぱっと見、自分の事なにも出来なさそうなイメージしかありませんもの。
……まあ、指南してもらっていて言えた口ではありませんが……あまり教え方は上手くありませんが。何度聞いても嫌な顔一つせず、というより嬉しそうに教えてくださるのはやりやすいですが。やはり普段のコミュニケーション能力がここにも関わってきていますのでしょうか?
「……って、あら? 角田さんと谷野さん?」
「あっ、やっほーひとみん。って隣の人誰?」
「別の男?」
「違いますわ谷野さん」
と二人で話しながら廊下を歩いていると、永井さんの部屋の前に立っている二人の姿を見つけましたわ。
谷野さんが変な勘繰りをしてきましたが即座に否定します。確かに私から見てもさわやかなイケメン、とは思いますが……フラれたからといって、そう簡単に健司様へ向いていた情熱を他の人に向けられる訳ありませんもの。
しかし、角田さんはまだ入院中の筈ですわよね? 確か……いや元気そうですわね? とまあそれは置いておいて、病衣を着ている辺りまだ退院って訳ではありませんし……何故廊下に?
「今、みちるのお姉さんが大事な話してるらしい」
大事なお話……そういえば、永井さんは永井財閥の娘。姉がいるという話は全く聞いたことはありませんが、家族が数人程度いたとして何ら不思議ではありませんわね。
そんなお二人の大事なお話……一体どんな話をしてらっしゃるのか、気になるところではあります。ありますが……流石に聞く訳にはいきませんわね。
ですが……この後習い事が待っています。仕方ありません。
扉を開けて、顔だけ隙間から出しますわ。
「……永井みちるさんの面会してもよろしいかしら? 私、ちょっとこの後予定ありますのでその前に永井さんの顔を見ておきたいのですが……」
「……あら、あなたは」
「あっ、たっ高橋さん……?」
「……んん!?」
永井さんが、永井さんと同じ黒髪、されど髪質はサラサラな、少しキツめな感じの印象を持つ目の女性の人を抱きしめていましたわ!?
外見から永井さんの血筋の者だという事は分かりますが、これは……。
「ええ、構わないわ。もう大事な話は伝え終えたもの」
少し泣き腫らしたような跡が残る目をしたその人は、足立山さんの手を借りて車椅子に戻りましたわ。
了承を得られたので、私も病室に入ります。
「あっ、どっどうも……」
「ごきげんよう。……元気そうですわね、永井さん」
目覚めた当初の顔色が悪かった時と比べると、かなり回復したように見えますわね。……私と初めて会った時と同じくらいには回復してますわ。
この調子なら回復するのもすぐですわね……そう関心していますと、私と一緒にこの病室へ来ていた方が、前へと出ましたわ。
「あっ、あの時の」
「やあ。元気になったみたいだね、みちるさん」
随分と気安い感じで話しかけていましたが、一体どんなお知り合いなのかしら……そう疑問に思っていますと、パァン、と音が鳴りました。
何が起きたのか、その場の誰も理解できませんでしたが……遅れて、その人が永井さんの顔を叩いたことがわかりましたわ。
「なっ、何を……」
「君は馬鹿か!? 親が嫌いなのは良い、あれを陥れるのも仕方ないとは思う……だが、どんな理由があろうと自殺なんて許されはしないぞ!!」
自殺!? 永井さん、自殺しようとしましたの……!? そんなの聞いて……いえ、話せる筈ありませんわね。友達が自殺しようとした、なんて……。
後ろの方で角田さんが「ピッ」と声を上げたのも気になりますが、ですがそれ以上に……永井さんの表情を見て、怖気が走りましたわ。
先ほどまではいつも通りの表情を見せていた永井さんでしたのに、あの人にビンタされた瞬間……まるで張り付けたような笑顔を浮かべ始めましたの。
「はい、ごめんなさい。以後気を付けます」
「本当にわかっているのか、君」
「……楢崎さん、ちょっと」
様子がおかしい永井さんと、あの人……楢崎さんとの間に割って入ろうとしたのですが、その前に足立山さんが楢崎さんの腕を掴んで外へと連れ出しましたわ。
……残される私達と、様子のおかしい永井さん。
「あの……永井さん?」
「はい」
永井さんに声をかけて、気が付きました。
私を見る目が、いつもと違いましたわ。まるで虐待されていた犬のような、怯えた目。それが私に向けられて、息が止まるかと思いました。
……正直、永井さんが何故手術をしたのか。その理由を知って、私も一発叩いて説教したくはなりました。ですが……こんな、こんな目を向けられては……。
「なっ、永井さん……」
「はい」
そっと、永井さんに手を伸ばそうとします。
しかし、そうするとみちるさんはびくっと体を振るえ、身を縮めて自分を守ろうと……。
……私は、永井さんを抱きしめることしかできませんでしたわ。
永井さんを、こんな永井さんを叱ることなんて、私にはとても……とても……!!




