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私の目の前で腕を組んで面白そうに座ってる私。
相対するは猫に睨まれた鼠のように震える私……ううっ、吐きそう。ものすっごく吐きそう……やっぱこの人私じゃないよ、絶対私じゃないよ。こんな自信満々な目できないもん。
「一応、確認を取っておきたいのですが」
「あっ、はっはいっ」
「……私、永井みちる……で合ってますよね?」
「そっ、そうっそうです。永井みちる、やらせてもらってます……顕花高校1年、帰宅部の永井みちるです、はい」
「ふふっ、そんな緊張しなくていいんですよ」
ものすっごく動揺してどもりまくってる私に、かおりさんは、震える私の手をそっと握った。
そのまま指が私の顎に、えっなんで私顎クイされてんの? って疑問に思った瞬間、かおりさんが身を乗り出して──えっ、えっ?
「別に取って食おうって訳じゃないんですから」
囁くような声で、あきらか女を墜とすような声色で……えっ何? 狙われてる? 私ロックオンされてる!?
こういうのって普通こう、違うじゃん! 乙女ゲーの攻略対象の男達がやる奴じゃん!! それもちょっと治安悪めのところに住んでるのとかが!! 私乙女ゲーやった事無いからわからんけど!!
にしても自信に満ち溢れてるからか、すっごい様になってるな私……私、私の事客観視したこと無かったけど普通に素材が良い……いや絶対こんな顔じゃなかったわ私。
「……にしても、不思議ですねぇ。私の記憶が正しければ、大学生の時に死んだ筈なのですが……何故あなたは、まだ原作の永井みちるが生きていた頃の体に入っているのですか?」
「そっ、そんなこと……!! そっ、それを言うなら……わたっ私だって三十歳くらいで死んでた筈なのに、なんっなんであなたの体は女子高生に……ん?」
「……どういう、ことですか?」
お互いの言葉にお互い疑問を持ち、お互いに首を傾げ合う。
なんか、なんか変な事になってきた……どういうことだ? 私がまだ死んでない筈の時代に、原作の永井みちるの魂が入ってて、原作の永井みちるがまだ死んでない時代……幼少期も幼少期に私の魂が入って……?
時間を遡らせて魂を入れ替えてる、ってコト!?
不味い、お互いに混乱してきてる……何が起きてるんだ一体?
「お互い死んだ後で、お互いの過去の体に魂が入れ替わったということでしょうか。……なんとも不思議な現象ですが、まあそれを言ったら転生そのものが謎な現象すぎるので今更ですね。何が起きても不思議じゃありません」
「あっ、そっ、そうですね……あれ? ってことはふっ、古川さんもまただっ誰かの体に入り込んで……?」
目の前でかおりさんが投げやりながらもそうとしか考えられない結論を出している間に、私の脳裏には古川さんの顔が浮かんだ。
転生者、私以外の転生者ですっと頭に浮かんだ古川くろこさん。
色々と私に優しくしてくれたり、同じ前世持ちってことで情報共有したりしてくれた人……なんかこの体に元々いた魂はーとか言ってた記憶があるような無いような……あったっけ? まあ言ってたような記憶がある。
……もしかしたら、古川さんの体に元々あった魂も、こっちで楽しくやってるかもしれない。
と私の世界の古川さんに安心させる発見が出来たことに思いをはせていると、なんかジロジロギロギロ見られてる……私、何かやっちゃいましたか? やっちゃってるわお腹切ってるわ。
「……にしても、中身が違うだけでこんなに変わるんですね」
「そっ、それはこっちの台詞かと……というかあのっ、永井みちるの性格が聞いてた話とぜんっ、全然違うんですが……」
私は生まれ変わっても中身全然同じだからね。前世でもやってた事をただ今世でもやってるだけだから。
でもかおりさんはなんていうか……品行方正文武両道、勉強も出来る優等生って聞いてたんだけど……親に暴力振るうわピアスバチバチに開けるわと、なんか聞いてたのと全然違うんだけど。
あきらか不良生徒なんだけど!?
そう言うとかおりさんは、鼻で笑い飛ばしながら口を開いた。
「学生の内はあれから良いように見えるよう振舞ってただけですからね」
「えっ、そっそうなんですか!?」
「そりゃそうですよ。大人になったら戸枝と一緒に、海外へ高飛びしようと計画してました」
あっけからんと、当然のように、全く将来の不安とか考えない、どこにでもいる普通の若者のような見通しの甘い、希望しか見ていないかのような将来設計図……。
……というか、戸枝さんってもしかしてあの人? 父親の隣にいたあの人なのかな? 名前全然覚えてない……そうかあの人がゲーム本編だと未亡人になる……古川さんはああ表現してたけども、未亡人でいいんだろうかあれは。
「まあ、戸枝のファンに刺されて死んじゃったんですけど……貴女は戸枝と付き合えてるんですか?」
「たっ、他人ですけど……」
「……もしかして、家を勘当されたり」
「ほっ、ほぼそんな形に……親の顔も、みっ見た事ありっ、ありませんでしたから……」
すみません、取り繕う事すらできなくてすみません。戸枝さん? と付き合う事も出来なくてすみません。学費だけ払ってもらえてて敷居をまたぐ事は出来ない状態になってます……ほぼほぼ勘当されたようなもんです……。
私が、かおりさんの言葉に頷くと彼女は腹を抱えて大笑いしはじめた。視界の端でお母さんがびくっと跳ねたのが見えた。なんだか心がすっと、軽くなる感じがした……。
「いやあ面白い……あれの思い通りに全然いかなかったんですかあっははは!! ……でもあれの事ですから、思い通りに育たなかった貴女でも会社の為に結婚させるよう動きましたよね? それはどうしたんですか?」
「その……えっと……お腹を切ったのは覚えているんですが」
「なんでそんな事したんですか!?」
「えっ、なんでって……なっ、なんでだろ……?」
あの時の事はあんまり覚えてないんだよなあ。頭の中が真っ白になったっていうか、記憶が飛んでるから。
……ただ、思い出そうとするとお腹のところが熱くなる感じがするし、手には何かつるつるしたものを握った感触を思い起こさせる。いったい何があったんだろう……?
「……深く聞きたいところではありますが、どうやら、もうお別れの時間みたいですね」
お別れの時間ってどういう事? って聞こうとしたら、かおりさんが私の手を指さしたので見てみた。
すっ、透けてる……!? えっなんで!? 何が起きてるの!?
……いや、そうか。この世界はかおりさんのもので、私の存在はこの世界においては異物みたいなもの。長い事いられる訳じゃないから……タイムリミットが迫ってきてるんだ。
という事は消えるのか、私……。
「かおり……いえ、永井みちる。最後に一つだけ、聞いてもいいですか?」
かおりさんもそれを察しているのか、少し寂しそうな表情で聞いてきた。
「えっ、あっはい。どうぞ」
「今の人生は、楽しいですか?」
今の人生……永井みちるとしての人生……。
前世と同じく今世でも、親に愛されることは無かった。私が一番欲しかったものは得られなかった。
でも、親に隠れてギターの練習しなきゃならなくて、いくら仕事しても親が勝手に宗教のお布施に使って、挙句の果てに一番好きだったことを諦めなきゃいけなかった。
そんな糞みたいな前世に比べたら……うん。
「はい。楽しい……と思います」
「ならよかったです。……また会いましょう、私」
かおりさんが私の頭を撫でてくれた瞬間、世界がまた暗転した。




