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 死にたい。


 依存先は増やせとは言うけれども、それはあくまで依存先に対しての重さを分散できる人の話。私みたいに、誰にでも平等に重く依存してしまうと、どれか一つでも切れた時に限界が来てしまう。来てしまった。


 煙草はあまり依存できなかった。お酒は……嗜む程度というには飲む量が多いけれども、それでも依存できるほどという程ではなかった。

 だから私は、人に依存することにした。

死にたい。


 みちるん、ひとみん、りん……私はこの三人に、重く依存していた。それこそ、誰かが欠けたら希死念慮の蓋が開くくらいには。

 にしても自分でも予想外だった。今までずっと安定していた筈なのに、まさかこうなるなんて。まさかみちるんが、二日来ないだけで我慢できなくなるなんて。


 左腕を傷つけないよう固定されたギプス。そして点滴。監視の目。本来であれば精神病院にでも詰め込まれてしまうであろう状態なのは理解している。何せお遊びのものとは違う、死ぬために本気で手首を切ったのだから。


「……また、りんに迷惑かけちゃったなあ」


 もはや見慣れた真っ白い天井、人の顔のように見える黒い模様。人の顔に見える配置のものが、私に死ねと言っているように感じた。

 誰もそんなことは言ってない、そんなことは何度も言われた。でも私がそう感じるのだから、それはもう仕方のない事だと思う。……かといって精神病院に入りたくはないし、親としてもメンツというものがあるから入れたがらない。きっと心の中では私なんて死んでしまえと思っているに違いない。


 ……目標の為に、それを達成するまでは生きようと誓っていたのに、こうも簡単に死にたくなるなんておかしいのは自覚している。私はおかしい、頭は狂っているのだろう。何せ普通の人間は、死にたいなんて思わないらしいから。


 でもそれが私なんだから仕方ないじゃないか、と言い訳をしたところで看護婦達からの目線が変わる訳ではない。白い目で見られている。針の筵。もういっそのこと点滴に毒でも仕込んで殺してくれればいいのに。


「……寂しい」


 ずっと一緒にいてくれるりんも、消灯時間になると流石に帰らざるを得ない。何ならそれ以外の時でも、煙草を吸いたくなるからってすぐにどこかへ行ってしまう。

 ひとみん……ひとみちゃんには、弱みを見せる訳にはいかない。あの子にはこんな暗い私を見てほしくないから。


 ……みちるちゃんは、理解してくれるんだろうか。あの子なら私の気持ちを理解してくれそうな気がする。りんみたいな復讐心から来るものの希死念慮じゃなくて、人間が誰かを愛するように当然のように抱えている死にたいという気持ちを。


 意味もなく涙が流れる。

 意味もなく死にたくなる。

 頭が病気なのは理解しているけれども、誰かに慰めてほしいけれども、誰にも知られたくない。私は一体どうすればいいんだろうか。延々とそんな事ばかりを考えてしまう。


 天井を見上げながら泣いていると、病室のドアがスライドした。廊下の明かりが、仕切りのカーテンを照らす。

 いつもなら誰が入って来ても気にしない、どうせ関わりないんだろうなと無視をする筈だった。


 でも今日はどういう訳か、誰が運ばれてきたのか気になった。

 起き上がり、カーテンを少し開ける。ストレッチャーに乗って運ばれる、一人の……人間。背はかなり高いように見えた。


 じっと、その人が運ばれる様子を眺める。運んでいる人が全員女性な所を見るに、あの背が高い子は女の子なんだろうと予測がついた。


「えっ、軽っ!?」

「慎重に見合わない体重過ぎない?」

「いいから。いくら軽くてもこの子大きいんだから、気を付けて運ばないと」


 女性の看護師が三人で、軽々とその人をベッドに移す。よく見るとひとりは、透明な管を持っていた。ベッドの脇に装置を置いて、その管と接続する。……あの謎の機械よりも、人の方が軽そうな印象を持った。

 手術着から覗く、枯れ木のような手足……みちるんを思い出す。


「にしても、自傷で運ばれる子供が二人だなんて……死にたくない人達だっているのに」

「事情があるからって納得できるものでもないわよね。全く……仕事を増やさないでほしいわ」

「死にたいなら手術する間もなく死ぬ手段取ってほしいよ本当。疲れてるのにさ」


 もう寝ていて聞かれることはないと思っているのか、それともわざと聞かせているのか……恐らく私の事も含まれているであろう愚痴を言いながら、病室を出ていく看護師達。

 正直申し訳ないと思っているけれども、それなら助けずに見殺しにすればいいのに。そうすれば私は死ねるのに。


 それよりも今は、運ばれてきたあの子だ。どうもあの子の事が気になる。

 点滴スタンドを掴み、ゆっくりと眠っている子に近付く。

 揺れる血液パック。音を立てないようゆっくりとベッドに近付いて……顔を覗き込む。


「……みちるん?」


 喉まで直接つながれた管とか、泣き腫らしたのであろう目元とか、私が知るあの子とは全然違うけれども……見間違う筈もない。私の知ってる、私の好きな……永井みちるだ。


 ……予想外の人が運ばれてきたけどまあ、いつか入院するんだろうなとは思ってた。だってみちるん、いっつも吐いてるし。あきらか喉に負担かかってたし。

 なんかゲロをやり過ぎたせいで喉を切ってしまうとか、破裂させてしまって体の中にぶちまけさせるとか聞いたことあるし。


 ……でも、看護師の人達が言ってたな。死ぬなら勝手に死んでほしい、って。基本的に病院関係者は、患者には生きてほしいと思うもの。それだけに自殺に失敗したとかそういう、自業自得な者には冷たくされることが多い。

 みちるんも、同じような扱いをされていたってことは……みちるんも、自殺未遂したって事なんだろうか。


 そう考えたら、今までみちるんがどこか遠い存在のように感じられていたものが、一気に近くにいるように思えた。

 みちるんも私と同じなんだ、死にたい人間なんだ……。


 ……起きたら、何故死にたくなったのか。どんな方法で死のうとしたのか。教えてほしいな。

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