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爆弾じゃなくて花火です  作者: 恵永沙紀(サキエナガ)


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17/21

17.残り6時間半になりました

 十三時、円香が控室に戻ると佐伯煙火店の一同が集まっていた。


 昇は運営委員会の担当者と顔を突き合わせているが、円香の姿を認めると一瞬顔を上げた。

 その表情は強張っていて、すぐに視線を逸らされてしまう。


 喉が締まる思いを堪えて室内へと足を踏み入れた。


 ノートパソコンは、今朝と変わらず机に鎮座したままだ。


「円香さん」

「は、はい」


 昇に呼ばれてビクリと肩が跳ねる。腕組みをした職人たちのあいまを縫うように、ちょこちょこと寄っていく。


 担当者が確認したいことがあったらしく、昇とやっさんの説明に補足を付け加える。

 確認が終わると、打ち上げ場所への移動と時間について、全員への注意事項がアナウンスされる。


 時計を見ると、十三時十五分。移動開始の十九時四十五分まで、あと六時間半。


 物事は順調に進んでいる。



 担当者と入れ替わる形で、奏多と八重樫がやって来た。


「お疲れ様です! ついに当日ですね。長丁場となりますが、頑張りましょう!」


 奏多の爽やかな掛け声に張り詰めた空気がほぐれ、肩に下げたクーラーボックスと両手いっぱいに掲げた買い物袋に、わっと声が上がった。


 渋面の八重樫は呆れているが、咳払いをして注目を集めようとする。


「一応報告だ。昨晩から入り時間までに、近辺に不審者は……って聞け!」


 声を張りつつも、はしゃぎ始めた男衆の縦横無尽に交差する大音響に掻き消されてしまう。


「まったく、ここの奴らは……」

「八重樫刑事、この度はありがとうございます」


 輪の中から抜け出た昇は、ていねいに頭を下げる。


「おう。あんただけは冷静だな」


 軽い嫌味に、昇は皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「ここまで来たら、やることをやるだけですよ。

 警備のほうはどうですか?」


「万全といっていいが、おたくんところの嬢ちゃんは、あまり好き勝手しないように頼みますよ」

「……円香さん?」

「あぁ。昨晩から入り時間までに出入りしたのは嬢ちゃんだけだ。朝方だいぶ早く来て、何か作業してたらしい」


 手帳を開いた八重樫は、メモした部分をボールペンの裏で叩いた。


「…………」


 昇は腕を組みつつ、値踏みするようにパソコン操作をする円香を見やった。

 当の円香は何やら高速でキーボードを叩いている。


「なんのために……?」

「おや? 親方の佐伯さんが知らないんですか?」


 昇は喉を唸らせると、渋々と頷いた。


「統率は取っておいてくださいよ。一応、内部犯行説も上がってるんだ」

「えぇ。じゅうぶん、わかってますよ」




 円香はというと、置きっぱなしにしたパソコンに変化がないかをつぶさに確認していた。


 ログや各種ファイル、設計データ等に変化が確認できれば、その時間に控室で端末を操作した人物が一番怪しいと仮定できる。


 今のところ、期待していた痕跡はなかった。

 罠には掛からなかったのか。


 これ見よがしにパソコンを開きっぱなしにしていたが、無駄だったのかもしれない。


「同じ手口は使わないのかな……」


 背中を丸めたまま、チラリと画面下部で時間を確認し、円香は席を立った。

 男衆のボルテージの上がった控室を、音もなく一人で退出した。



 快晴の太陽が目に眩しい。思わず手で目元を覆った。河川敷の砂利を踏んで、ある場所へと向かう。

 この天気なら、夜は雲ひとつない花火日和となるだろう。


 何もなければ、だけれど。


「山岸さん、どこへ?」

 後を付けられていたのか。円香の体に緊張が走る。

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