第八話 極上の動く拠点と、美貌を嘆く森の守護者
昨晩の美味しいシチューとステーキの出汁がたっぷりと染み込んだスープを使って、僕は朝から具だくさんの雑炊を作った。
野草とキノコの旨味が溶け合ったさっぱりとした味付けは、寝起きの胃袋に優しく染み渡る。
「んんっ、朝からこんなに美味しいものが食べられるなんて幸せよ。」
結衣がハフハフと息を吹きかけながら、嬉しそうに雑炊を口に運んでいる。
由美さんも無言でスプーンを動かし続け、沙織や霞もあっという間に平らげてしまった。
僕の【万物配送】によって生み出された米と、この世界の新鮮な魔物肉のコラボレーションは、完璧な朝食として僕たちの心と体を満たしてくれた。
朝食を済ませてグランピングテントを片付けると、冷たい朝の空気が僕たちを包み込んだ。
「さあ、エルフの森まではまだまだかかりますわよ!」
沙織がパンッと両手を叩き、みんなに気合を入れるように檄を飛ばす。
これまでの過酷な徒歩での行軍を思い出し、女性陣の顔に少しだけ疲労の影が差した。
だが、今日の僕にはとっておきのサプライズがある。
「委員長、みんな、聞いてほしいんだ。」
「実はみんながたくさん感謝してくれたおかげで、僕のスキルがレベルアップしたんだよ。」
僕の言葉に、四人は驚いたように目を丸くした。
「みてて。」
僕はステータスボードを展開し、昨晩から新しくリストに追加されていた超大型アイテムを選択した。
これまでの人助けと仲間からの感謝で貯まりに貯まっていた【EP】を、惜しげもなくほぼ全額つぎ込む。
「【万物配送】、展開。」
僕の手から放たれた光が今までにないほどの眩い輝きを発し、周囲の空間を包み込んだ。
ゴゴゴゴゴという地響きのような音と共に、巨大な質量を持った物体が姿を現す。
光が収まった後に残されていたのは、圧倒的な存在感を放つ漆黒のグランドキャンピングカーだった。
悪路を走破するための頑丈なオフロードタイヤをしっかりと履き、流線型のボディが朝日に反射してピカピカと輝いている。
「こ、ここ、これは……。」
「す、すごいの出ましたね……!」
沙織と由美さんが開いた口が塞がらない様子で立ち尽くす。
「!!!もしかしてっ。」
いち早く用途に気付いた霞が、目を輝かせて車内へと飛び込んでいった。
「あ、ずるい!」
結衣もそれに続き、僕たちも急いでキャンピングカーの中へと足を踏み入れた。
車内に入った瞬間、外の寒さが嘘のような快適な空調の風が僕たちを包み込んだ。
「すごい、フカフカのソファがあるわ!」
「キッチンには冷蔵庫まで備え付けられていますわよ!」
「……照明も完璧、これなら夜でも本が読めるわ。」
女性陣が次々と最新鋭の設備を発見し、感動の声を上げている。
本革張りのリビングスペースに、最新式のシャワールームとトイレまで完備された、まさに走る高級ホテルだ。
正直なところ、僕自身もここまで豪華な仕様だとは思っておらず、圧倒されるばかりだった。
「ああっ!海斗くん、ありがとう!」
奥の扉を開けた霞が、歓喜の悲鳴を上げて僕に飛びついてきた。
ドドドドッと足音が響き、僕の体に霞の柔らかい体が勢いよくぶつかる。
彼女が開けた部屋の奥には、ふかふかの高級マットレスが敷かれたキングサイズのベッドが鎮座していた。
野宿の硬い地面に苦しんでいた忍者にとって、これ以上ない最高の救済アイテムだろう。
「なな、はしたないですわよ!」
霞が僕に抱き着いているのを見て、沙織が顔を真っ赤にしてたしなめる。
「えへへ、私も海斗くんに感謝のハグしちゃおっと。」
「……便乗するわ。」
結衣と由美さんまでが面白がって僕に抱き着いてきて、僕は身動きが取れなくなってしまった。
「ず、ずるいですわっ。」
「わ、わたしも……。」
結局、沙織までがたまらずに僕の背中へとくっついてきて、車内は甘い香りと柔らかな感触でいっぱいになった。
僕は照れくさくて顔から火が出そうだったけれど、彼女たちの笑顔を見られただけで【EP】を使い果たした甲斐があったと心から思えた。
ひとしきりドタバタとした後、僕たちは改めてリビングスペースのソファに腰を下ろした。
「さあ、これで冒険ももっと楽になるね。」
「運転は僕がするから、みんなは車内でしっかり休んでて。」
「索敵が必要な時は、私がルーフから周囲を警戒するわ。」
霞が忍者の役割を申し出てくれて、僕たちの新しい旅の形が決まった。
それぞれが役割を確認し合い、僕が運転席に座ってエンジンをかける。
力強い重低音が響き、頼もしいタイヤがぬかるんだ地面をしっかりと掴んで前へと進み始めた。
みんなはとてもいい顔をしており、車内には絶えず楽しげな笑い声が響いていた。
だが、快適なドライブの果てに辿り着いた目的地は、僕たちの想像とは少し違っていた。
数日後、僕たちはついにエルフの森の入り口へと到着した。
しかし、目の前に広がる森は美しい緑ではなく、淀んだ紫色の瘴気に覆われている。
「な、なんじゃこの空気は!」
「わらわの美しい肌がカサカサになってしまうではないか!」
森の入り口で、頭を抱えてヒステリーを起こしているエルフの少女の姿があった。
彼女の悲痛な叫び声が、瘴気の森に虚しく響き渡っている。




