第七話 野営の極上風呂と魔物グルメ、そして忍者の密かな悩み
エルフの森へ向かう道中、僕たちは見晴らしの良い平原で野営の準備を始めていた。
ギルドマスターから得た情報をもとにルートを進んでいるが、まだ目的地まではかなりの距離がある。
僕は【EP】を消費し、大型のグランピングテントを展開した。
さらに今回は、昨日までの旅の疲れを癒やすために特別な設備を用意している。
スキルで呼び出したのは、野営用の組み立て式簡易浴槽とポータブルの給湯システムだ。
「きゃああっ、お風呂だわ!」
「信じられない、こんな野外で温かいお湯に浸かれるなんて最高よ!」
これまではシャワーだけでも喜んでいた女性陣だが、たっぷりのお湯が張られた浴槽を見て大はしゃぎしている。
彼女たちが順番に入浴を楽しんでいる間に、僕は夕食の準備に取り掛かった。
ギルドマスターから、この辺りの魔物は美味しく食べられると事前に聞いていたからだ。
昼間に結衣たちが討伐したアルミラージの肉はウサギ肉のように淡白で柔らかく、特製のシチューにぴったりだった。
もう一つの獲物であるエビルボアの肉は、分厚く切ってトンテキのようなガーリックステーキにする。
付け合わせには、斥候として先行していた霞が採取してくれた安全な野草とキノコ類をたっぷりと使った。
主食となる真っ白な米だけは、僕の【万物配送】のスキルで取り寄せたものだ。
決して元の世界で買いだめしていたわけではなく、この神スキルのおかげでいつでも新鮮な食材を生み出せる。
「んーっ、いい匂い!」
お風呂から上がって火照った顔をした結衣が、鍋を覗き込んで歓声を上げた。
沙織も由美さんも霞も、清潔な服に着替えてすっかりリラックスしている。
僕たちは焚き火を囲み、出来立ての魔物グルメと炊きたての白米で舌鼓を打った。
「このお肉、すごくジューシーで美味しいわ!」
「シチューも最高ね、野草の風味がいいアクセントになってる。」
美味しい食事と温かいお風呂の相乗効果で、女性陣の顔には至福の笑みが浮かんでいる。
その瞬間、僕のシステムには彼女たちからの感謝の念が莫大な【EP】となってどんどん流れ込んでくるのがわかった。
みんなの笑顔を見ていると、僕まで嬉しくなってくる。
食事が終わり、今度は僕がお風呂をいただく番になった。
簡易浴槽に浸かり、心地よいお湯の温かさに思わず声が漏れる。
「海斗くん、背中を流してあげるわ!」
突然テントから沙織たちが飛び出してきて、僕の背中を巡って大騒ぎを始めた。
「わたくしが先ですわ!」
「私が一番力加減が上手いはずよ!」
かわるがわる背中を流してくれる彼女たちの柔らかな手が触れるたび、僕は照れくさくて縮こまってしまった。
その時、僕の脳内に軽快な効果音が鳴り響いた。
ステータス画面を開くと、スキルのレベルアップを知らせる通知が光っている。
詳細を確認すると、召喚できるアイテムのラインナップが大幅に増えており、さらに高度な現代物資がリストに追加されていた。
「これなら、もっと旅が快適にできるかもね。」
僕は新しく追加されたアイテムの数々を見つめながら、今後の旅路に胸を躍らせた。
深夜。
グランピングテントの中に敷いた寝袋で僕が眠っていると、肩をそっと揺らされた。
目を開けると、そこには不安げな表情を浮かべる霞の姿があった。
「相田くん、少しだけいい……?」
僕は静かに頷き、他の皆を起こさないようにテントの外へと出た。
焚き火の残火の前で、霞は膝を抱えてどこか憔悴しているように見える。
彼女は意を決したように、ポツリポツリと悩みを打ち明けてきた。
「私、忍者なのに野宿が本当に苦手なの。」
「硬い地面で寝ると背中が痛くて、ちっとも疲れが取れなくて……。」
彼女の切実な訴えに、僕は優しく微笑んだ。
「わかった。」
「明日を楽しみにしていて?」
「今日はこれを渡しておくよ。」
僕は【万物配送】を使って、ふわふわの低反発クッションを取り出し、彼女に手渡した。
「えっ、これすごく柔らかい……。」
霞はクッションをしっかりと抱きしめ、熱を帯びた視線を僕に送ってくる。
彼女の顔がだんだんと僕に近づいてきて、その甘い吐息が頬に触れそうになった。
その時、背後のテントの入り口がバサッと開いた。
「ト、トイレ……。」
寝ぼけ眼の結衣がフラフラと歩み出てくる。
僕と霞は慌てて距離を取り、何事もなかったかのように誤魔化した。
少しだけ気まずい空気の中、僕たちは急いでテントの中へと戻っていくのだった。




