第三十一話 星空のパジャマパーティーと、永遠の絆の証
僕たちは極上の露天風呂で戦いの疲れを完全に癒やし、魔王城の最上階に完成したばかりのスイートルームへと足を踏み入れた。
部屋の扉を開けると、そこには僕の【万物配送】によって取り寄せた超キングサイズベッドが鎮座している。
シルクのシーツと天蓋を備えたそのベッドは、僕たち全員が手足を伸ばして寝転がっても十分に余りある広さを持っていた。
「わぁ……天井が透けて見えますわ。」
沙織が感嘆の声を上げて、天井を指差した。
この部屋の天井は特殊な強化ガラス張りに改装されており、魔界の澄み切った夜空に輝く満天の星が、まるで宝石箱のように降り注いでいるのだ。
「本当に綺麗ね。」
「こんな星空の下で眠れるなんて、夢みたいだわ。」
由美と結衣も目を輝かせ、ふかふかのルームウェアに包まれた体をベッドへとダイブさせた。
「にゃははっ、雲の上みたいにふかふかにゃ。」
「うむ、エルフの森のふかふか苔よりもずっと気持ちが良いのじゃ。」
ショコラとセラフィナも大はしゃぎでシーツの上を転がり回る。
「余も混ぜるのじゃ。」
「このベッド、最高に怠惰になれる素晴らしい発明じゃな。」
すっかり綺麗になったヘルヴィも、ドレスから着替えたパジャマ姿でダイブして、だらしなく手足を伸ばした。
カルミア、リリス、クロエ、イグニシアの四天王たちも、それぞれ思い思いの場所でくつろいでいる。
過酷だったこれまでの旅が嘘のような、平和で穏やかな時間が流れていた。
「みんな、少し集まってくれるかな。」
僕が声をかけると、ヒロインたちは不思議そうな顔をしながらも、僕を中心に円を作るように集まってきた。
「どうしたのじゃ、海斗。」
「また何か新しいゲームでも出すのか。」
ヘルヴィが期待に満ちた目を向けてくる。
「違うよ。」
「今日はみんなに、これまでの感謝を込めてプレゼントを渡したかったんだ。」
僕がそう言うと、彼女たちの顔に驚きと喜びの色が浮かんだ。
僕は莫大に貯まっている【EP】を消費し、現代の最高級ジュエリーブランドから取り寄せたアクセサリーの数々をインベントリから取り出した。
「まずは、沙織。」
「僕を一番最初から支えてくれた君には、これを贈るよ。」
僕が取り出したのは、清らかな輝きを放つプラチナの指輪だった。
「海斗くん……これ、もしかして……。」
沙織の瞳から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。
僕は彼女の左手を取り、薬指にそっと指輪をはめた。
「これからもずっと、僕の隣で笑っていてほしい。」
「はい……喜んでお受けいたしますわ。」
沙織は指輪を胸に抱きしめ、幸せそうに微笑んだ。
「次は由美。」
「君の知恵とデジタル技術がなければ、ここまで来られなかった。」
僕は彼女の首元に、スタイリッシュなデザインのシルバーチョーカーを着けてあげた。
「……ありがとう。」
「これ、私の好みにピッタリよ。」
「一生外さないからね。」
由美は顔を真っ赤にして、チョーカーの飾りを指で弄っている。
「結衣には、どんな過酷な戦闘でも壊れない特殊合金のバングルだ。」
「霞には、音を立てずに動けるように軽量化されたアンクレットを用意したよ。」
「セラフィナには、魔力を増幅させるサファイアのピアスだ。」
「ショコラには、君に一番似合うハートのチャームがついた銀のネックレスだよ。」
僕が次々とプレゼントを渡していくと、ヒロインたちは歓声を上げて喜びを爆発させた。
「そしてヘルヴィ。」
「君には、魔王の契約を示す黒曜石の指輪だ。」
僕が小さな指に指輪を通すと、ヘルヴィは顔を真っ赤にして俯いた。
「……余を嫁にすると言った言葉、嘘ではないのじゃな。」
「もちろん本当だよ。」
四天王のカルミア、リリス、クロエ、イグニシアにも、それぞれお揃いの美しいブレスレットを贈った。
全員が自分のプレゼントを愛おしそうに見つめ、部屋の中は多幸感で満ち溢れていた。
「さあ、プレゼントの後は極上のリラックスタイムだ。」
僕は【万物配送】のウィンドウを再び展開した。
光の粒子と共に現れたのは、現代の最新美容家電やマッサージグッズの数々だ。
「これはヘッドスパの機械だよ。」
「頭皮を優しく揉みほぐしてあげるから、こっちにおいで。」
僕が沙織の頭に機械を当てると、ウィーンという静かな駆動音と共に絶妙な力加減のマッサージが始まった。
「あぁ……頭の芯から疲れが溶けていきますわ……。」
沙織がうっとりと目を閉じ、僕の膝の上に崩れ落ちる。
「余もやってほしいのじゃ。」
「アタシもにゃ。」
ヒロインたちが次々と僕の周りに群がってくる。
僕は目元を温めるホットアイマスクや、脚のむくみをとるエアマッサージャーを駆使し、彼女たちを徹底的に癒やしていった。
アロマ対応のナイトスチーマーから噴き出す微細なミストが、部屋中をラベンダーの香りで満たしていく。
「……これ、すごく気持ちいいわ。」
「海斗の指も最高だけど、この機械も侮れないわね。」
イグニシアがふくらはぎをマッサージされながら、とろけるような笑顔を見せる。
クロエも足裏マッサージ機に足を預け、オタクらしからぬ蕩けた表情を浮かべていた。
星空の下、最新の家電と僕の手による極上のスキンシップが繰り広げられる。
心地よい温もりと優しい香りに包まれ、ヒロインたちの表情はこれ以上ないほど穏やかだった。
やがて夜も更け、マッサージの心地よさに抗えなくなった彼女たちは、一人また一人と夢の世界へと落ちていった。
「海斗くん……大好きですわ……。」
沙織が僕の腕の中で寝息を立てる。
他のヒロインたちも、僕の体にぴったりとくっついて離れようとしない。
全員の柔らかな肌の感触と、穏やかな寝息に包まれながら、僕も静かに目を閉じた。
世界で一番幸せな夜が、ゆっくりと更けていく。
だが、僕の心の中には、まだ一つの小さな実験への好奇心が残っていた。
みんなが寝静まった後、僕はそっと目を開け、空中のシステムウィンドウを呼び出した。
これまでは物資を注文するだけだった僕のスキル。
しかし、設定画面の奥深くに、これまで使ったことのない一つの項目が存在することに気がついていたのだ。
『返品』
指定の配送センターへ物品を返送するという、当たり前だが異世界においては未知の可能性を秘めた機能だ。
(……もしかして、これを上手く使えば、日本の両親に手紙くらいは送れるんじゃないか。)
僕は愛する妻たちの寝顔を見つめながら、明日の朝にこの実験を実行することを決意した。
僕たちの異世界リゾート生活は、明日いよいよ一つの大きな区切りを迎えようとしていた。




