第二十六話 魔王城エントランスの極上グランピングと、聖女の抜け駆け
魔王城の重厚な扉を押し開けると、そこは広大なエントランスホールだった。
無数の魔物たちがひしめき合っていたが、今の僕たちの敵ではなかった。
結衣の斬撃が魔物を切り裂き、豪の光の剣が闇を払う。
カルミアとリリスの双子サキュバスが魅了の魔法で敵を混乱させ、クロエが罠を仕掛けて一網打尽にする。
竜人族の師匠であるイグニシアは、若返った肉体を躍動させて圧倒的な武力で魔物の群れを粉砕していった。
あっという間にエントランスは制圧され、不快な瘴気も払われて清浄な空間へと変わった。
「突入前に、少し休憩していこうか。」
僕は汗を拭う仲間たちに向かって提案した。
魔王城の奥には、世界を脅かす未知の脅威が待ち受けているはずだ。
万全の状態で挑むためにも、ここでの休息は必要不可欠だった。
僕は【EP】を大量に消費し、【万物配送】のウィンドウを展開した。
キャンピングカーの横に光の粒子が収束し、現代の一流ホテルも顔負けの豪華なグランピング施設が完成した。
広々としたテント内にはエステルームやマッサージチェアが完備され、外には簡易ジャグジーやテントサウナまで設置されている。
「すごいですわ、海斗くん。」
「こんな魔王城のど真ん中で、これほど快適な空間を作れるなんて……。」
沙織が感動のあまり両手を組み合わせている。
「みんな、今までよく頑張ってくれたからね。」
「決戦の前に、思い切りリラックスしてほしいんだ。」
僕の言葉に、ヒロインたちは満面の笑みでそれぞれの施設へと散っていった。
僕はテントサウナから出てきた結衣と霞に冷たいスポーツドリンクを手渡した。
「ぷはぁっ、最高ね。」
「まさか魔王城でサウナに入れるなんて思わなかったわ。」
バスタオル一枚の結衣と霞が、火照った体を僕に密着させてくる。
二人の柔らかな感触と石鹸の香りに、僕は思わずドキドキしてしまった。
簡易ジャグジーの方からは、賑やかな声が聞こえてくる。
そこではセラフィナとショコラがお湯につかりながら、泡で遊んでいた。
「ご主人様、一緒にジャグジーに入るニャ!」
「わらわの背中を流す栄誉を与えてやるのじゃ!」
二人は僕の腕を引っ張り、お湯の中へと引きずり込もうとする。
濡れた肌の滑らかな感触に、僕の理性は限界ギリギリだった。
テント内のエステルームでは、若返った竜人族の師匠であるイグニシアが、最新の美容機器を顔に当てながらうっとりとしていた。
「ああ……お肌の奥深くまで潤いが浸透していくわ……。」
「海斗、あなたという人は本当に素晴らしい美の伝道師ね。」
イグニシアはガウンをはだけさせ、引き締まった美しいプロポーションをこれ見よがしに見せつけてくる。
かつての最強の四天王は、すっかり美容チートの虜になってしまっていた。
その横では、由美とクロエが最新のマッサージチェアに並んで座り、アニメの話題で盛り上がっている。
「この揉み玉の動き、完璧だわ。」
「魔王軍の幹部を辞めて本当に良かったわ。」
オタク同士で意気投合した二人は、完全にリラックスモードだ。
さらにカルミアとリリスのサキュバス姉妹が僕の背後に回り込み、魔族秘伝の指圧で僕の肩を揉みほぐし始めた。
「海斗様も疲れているでしょ。」
「私たちの愛でトロトロにしてあげるわ。」
至れり尽くせりのいちゃいちゃ展開に、僕は最高の幸福感を噛み締めていた。
少し離れた場所では、僕が用意したバーベキューセットで豪と一郎が肉を焼いていた。
「うめぇ……。」
「こんな美味い肉、生まれて初めて食ったぜ……っ。」
豪は上質な霜降り肉を頬張りながら、ボロボロと大粒の涙をこぼしている。
これまでの過酷なサバイバル生活を思い出し、現代の豊かな食に感動しているのだろう。
「あら、冷蔵庫に美味しそうな飲み物があるじゃないの。」
イグニシアがキッチンの冷蔵庫を開け、色とりどりのお酒を取り出してきた。
「決戦前の景気づけよ、みんなで飲みましょう。」
イグニシアの音頭で、グランピング施設での大宴会が幕を開けた。
女性陣は次々とお酒を煽り、あっという間にいい感じに酔っ払っていく。
魔王城のエントランスは、完全に酒池肉林の様相を呈していた。
「私、絶対に海斗様のために魔王を倒してみせるわ!」
カルミアがジョッキを片手に高らかに宣言する。
「私もニャ!」
「ご主人様との平和な生活を守るために、アタシの爪で魔王を引き裂いてやるニャ!」
ショコラも顔を真っ赤にして拳を突き上げた。
結衣や霞、セラフィナも次々と魔王討伐への強い決意を表明していく。
頼もしいヒロインたちの言葉に、僕の胸は熱くなった。
宴は深夜まで続き、やがて女性陣は一人、また一人と酔い潰れて眠りに落ちていった。
豪たちも満腹になってテントの隅でいびきをかいている。
みんなが寝静まった静かなグランピング施設で、僕は一人起きていた。
タブレット端末を開き、明日の決戦に向けた物資の最終確認を念入りに行う。
「……まだ起きていらっしゃったのですね。」
背後からそっと声をかけられ、僕は振り返った。
そこには、純白のネグリジェを身に纏った沙織が立っていた。
「沙織、起きていたのか。」
「みんなと一緒に酔い潰れていたと思ったけど。」
僕が驚いて尋ねると、沙織は恥ずかしそうに頬を染めた。
「わたくしには聖女のスキルがありますから。」
「回復魔法でこっそりとアルコールを分解しておりましたの。」
沙織は僕の隣に座り、真っ直ぐな瞳で僕を見つめてきた。
「海斗くん、明日はついに魔王との決戦ですわね。」
「ええ、みんなの力を合わせれば絶対に勝てるよ。」
僕が力強く頷くと、沙織は僕の手をそっと握りしめた。
「わたくし、海斗くんにお伝えしたいことがありますの。」
沙織の声は震えていたが、その眼差しには強い意志が宿っていた。
「不潔な異世界で絶望していたわたくしを救ってくれたのは、海斗くんですわ。」
「あなたの優しさと、その不思議な力に何度も助けられました。」
沙織の温かい手が、僕の手をきつく握る。
「わたくし、海斗くんのことが……大好きですわ。」
「もし明日、無事に魔王を倒して世界が平和になったら……わたくしを、あなたのお隣に置いていただけませんこと。」
真っ直ぐな沙織の告白に、僕の心臓は大きく跳ねた。
彼女の純粋な想いが痛いほどに伝わってくる。
「ありがとう、沙織。」
「僕も、ずっと君のことが大切だったよ。」
「これからも僕の隣で、ずっと一緒にいてほしい。」
僕の答えを聞いて、沙織の瞳から嬉し涙がこぼれ落ちた。
「海斗くん……っ。」
沙織がそっと目を閉じ、僕の顔にゆっくりと近づいてくる。
僕も彼女の肩を引き寄せ、その柔らかい唇に自分の唇を重ねようとした。
「ちょっと待ったぁぁぁっ!」
「抜け駆けは禁止ですわよ!」
静寂を切り裂くような大声と共に、テントの陰からヒロインたちが雪崩れ込んできた。
「さ、沙織さんだけズルいニャ!」
「私だって海斗に告白するつもりだったのに!」
「聖女のくせに策士すぎるのじゃ!」
ショコラ、結衣、セラフィナたちが次々と僕に飛びついてくる。
由美や霞、四天王の面々までが起きてきて、あっという間にドタバタの修羅場となってしまった。
「ああもう、良いところでしたのに!」
沙織が顔を真っ赤にして怒るが、みんなの笑顔を見てすぐにクスクスと笑い出した。
僕も彼女たちの賑やかな輪の中で、心の底から笑い声を上げた。
どんな絶望的な状況でも、僕の【万物配送】と彼女たちの笑顔があれば乗り越えられる。
さあ、いよいよ決戦だな。
僕は最強の仲間たちと共に、明日待ち受ける魔王との最後の戦いに向けて決意を新たにするのだった。




