第二十五話 究極のエステ包囲網と、陥落する最強の竜人族
竜人族の美女が放つ圧倒的なプレッシャーの前に、豪も結衣たち前衛陣も満身創痍となっていた。
彼女が軽く腕を振るうだけで突風が吹き荒れ、硬い鱗にはいかなる斬撃も魔法も通用しない。
だが、僕の目は彼女の致命的な弱点を確実にとらえていた。
彼女は強烈な攻撃を繰り出すたびに、自分の二の腕のたるみや目尻の乾燥を気にして、ほんの一瞬だけ動きを止めるのだ。
乙女の加齢に対する深いコンプレックスこそが、この最強の武闘家の唯一の隙である。
僕は仲間たちを下がらせ、虚空に【万物配送】のウィンドウを展開した。
これまでの旅で貯まりに貯まっていた莫大な【EP】を、惜しげもなく大量消費する。
強靭な鱗を砕く武器ではなく、細胞レベルで若返りをもたらす現代の美容チートアイテムの数々を呼び出すのだ。
「みんな聞いて。」
「あの竜人の弱点は、プロポーションの崩れと肌の乾燥に対するコンプレックスだ。」
「今から戦場を世界最高峰の移動エステサロンに変えるよ。」
僕の宣言に、ヒロインたちは一瞬きょとんとしたが、すぐに意図を理解して目を輝かせた。
「豪、悪いけれど一瞬だけ囮になってくれないか。」
僕が頼むと、豪は顔中を泥だらけにしながら力強く頷いた。
「わかった。」
「俺に任せておけ、死んでも時間を稼いでやる。」
精悍に成長した勇者の頼もしい返事を聞き、僕は作戦の開始を告げた。
光の粒子と共に、僕の手元には現代の美容科学の結晶であるアイテムの山が出現した。
「うおおおおっ。」
豪が雄叫びを上げ、折れた聖剣を構えて竜人族の師匠へと特攻を仕掛けた。
結衣と霞も左右から同時に死角へと回り込み、牽制の攻撃を放つ。
「何度やっても無駄だと……。」
師匠が豪の突進をあしらおうと腕を振り上げたその瞬間、僕が用意した陣形が発動した。
「由美、お願い。」
「任せて。」
由美が杖を振りかざし、戦場全体を覆うような温かいスチーム魔法を展開した。
ナノレベルの細かい蒸気が師匠の全身を包み込み、硬く閉じていた毛穴を強制的に開かせる。
「な、なんなのこの生温かい霧は。」
「視界が……。」
師匠が戸惑って動きを止めたところへ、すかさず沙織が進み出た。
「わたくしの番ですわね。」
沙織が放ったのは、攻撃魔法ではなく、筋肉の緊張を解きほぐし血行を極限まで促進させる特殊な光魔法だった。
ぽかぽかとした温もりが師匠の身体を包み、彼女の戦闘本能が強制的にリラックス状態へと書き換えられていく。
「いまだ、霞。」
僕の合図で、影に潜んでいた霞が師匠の背後から跳躍した。
霞の手には、僕が取り寄せた最高級のボディスクラブが握られている。
「忍法、全身角質落とし。」
霞が目にも留まらぬ速さで師匠の全身にスクラブを塗りたくり、古くなった角質をマッサージしながら落としていく。
「きゃああっ、ちょっと、何をするのよ。」
「くすぐったいわ。」
師匠が慌てて振り払おうとするが、血行促進とスチームの効果で完全に力が抜けてしまっている。
その隙を突き、僕は正面から彼女へと肉薄した。
「これでトドメだ。」
僕が取り出したのは、最新式の強力なEMSトレーニングベルトと、超音波美顔器、そして一瓶数万円は下らない最高級のエイジングケアクリームだ。
「海斗様、私たちも手伝うわ。」
「師匠、動かないでね。」
「あなたのためなのよ。」
カルミア、リリス、クロエの三人が師匠の手足をがっちりと押さえ込んだ。
かつての弟子たちに拘束され、師匠は完全に身動きが取れなくなる。
僕は彼女の腹部と二の腕にEMSトレーニングベルトを巻きつけ、最大出力でスイッチを入れた。
「ひゃああんっ。」
強力な電気信号がたるんだ筋肉を直接刺激し、強制的に引き締めていく。
さらに僕は、エイジングケアクリームをたっぷりと手に取り、師匠の顔全体に優しく塗り込んだ。
「超音波美顔器、起動。」
最新デバイスの微細な振動が、美容成分を竜人族の分厚い皮膚の奥深くまで浸透させる。
「ああっ……顔が、顔がビリビリして……でもすごく温かいわ……。」
師匠の口から、苦悶ではなく恍惚とした声が漏れ始めた。
激しい戦闘が行われていた荒野は、完全に女性たちのエステサロン空間へと変貌していたのだ。
数分間にわたる徹底的な美容施術が終わると、僕はゆっくりと美顔器を離した。
「……終わったわよ、師匠。」
リリスが拘束を解き、一枚の手鏡をそっと手渡した。
師匠は恐る恐る手鏡を受け取り、自分の顔を覗き込んだ。
「嘘……。」
手鏡がポロリと地面に落ちた。
鏡に映っていたのは、乾燥による小じわが完全に消え去り、陶器のようにつるつると輝く十代の少女のような肌だった。
EMSベルトを外した腹部や二の腕は、かつてのたるみが嘘のように引き締まり、完璧なプロポーションを取り戻している。
「私のお肌が……プルプルしてる……。」
「お腹のお肉も消え去ってるわ……。」
師匠は震える両手で自分の頬を包み込み、信じられないものを見るように何度も触り直した。
そして、彼女の大きな瞳からボロボロと大粒の涙が溢れ出したのだ。
「ずっと、ずっと悩んでいたのよ……。」
「どんなに鍛えても、年齢による衰えだけはどうにもならなくて……。」
「強い竜人でいなきゃいけないって、ずっと無理をして……っ。」
最強の武闘家は子供のように声を上げて泣き崩れ、その場にペタンと座り込んでしまった。
僕は彼女の頭に優しく手を置き、微笑みかけた。
「僕のスキルがあれば、その美しさは永遠に保てるよ。」
「もう無理して戦う必要なんてない。」
僕の言葉を聞いた師匠は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、僕にすがりついてきた。
「お願い……私をあなたの専属エステモニターにして。」
「魔王軍なんてどうでもいいわ。」
「一生あなたについていくから、毎日その機械でお手入れしてちょうだい。」
最強の竜人族であり最後の四天王は、現代のエステ技術と化粧品の前に完全に陥落した。
武力ではなく美への欲望で魔王軍幹部を寝返らせた僕の作戦は、大成功を収めたのだ。
豪や結衣たちも、呆気にとられながらも勝利の喜びに沸き立っている。
「お前ってやつは、本当にデタラメだな……。」
豪が苦笑しながら剣を収め、僕たちはついに魔王軍の脅威を完全に排除した。
師匠を加えた僕たちのキャンピングカーは、いよいよ禍々しいオーラを放つ魔王城の正門へと到着した。
巨大な扉を前にして、カルミアやリリスたちが少しだけ緊張した面持ちになる。
「ついに魔王様のお出ましね。」
「海斗、油断しないでよ。」
だが、僕の心の中には不思議と恐怖はなかった。
四天王全員を僕の現代文明チートで骨抜きにしてきたのだ。
世界を恐怖に陥れているという魔王の正体も、きっと僕の【万物配送】で解決できる悩みを抱えているに違いない。
僕たちは全員で顔を見合わせ、重厚な魔王城の扉をゆっくりと押し開けた。




