第二十四話 精悍なる勇者の帰還と、竜人族の絶対的武力
オタクなダークエルフであるクロエを仲間に加え、僕たちのパーティーはついに魔王城がそびえる北の大地を突き進んでいた。
冷たい風が吹き荒れる荒涼とした大地でも、グランドキャンピングカーの車内は常に快適な温度に保たれている。
だが、モニターに映し出される外の景色は、次第に生物の気配が消え、禍々しい岩肌ばかりになっていた。
僕がハンドルを握りながらレーダーを確認していると、前方に複数の熱源反応が現れた。
「海斗、前方に魔物の群れよ。」
「それに、魔物に取り囲まれている人間の反応が二つあるわ。」
助手席の由美がタブレットの画面を指差して的確な報告をしてくれる。
僕はアクセルを踏み込み、熱源の方向へとキャンピングカーを急行させた。
土煙を上げて進んだ先には、巨大なオークの群れと死闘を繰り広げている二人の男の姿があった。
ボロボロの革鎧を身に纏い、泥と血にまみれながらも必死に剣を振るっているのは、かつて僕を見下していた勇者である豪だった。
その後ろで、身体強化のスキルを駆使してオークの攻撃を凌いでいるのは一郎だ。
以前の彼らのような、傲慢で甘ったれた雰囲気は微塵も感じられない。
過酷な海路とサバイバルを経て、彼らの顔つきは驚くほど精悍に引き締まっていた。
「いくら豪くんでも、あの数では持ちこたえられませんわ。」
沙織が立ち上がり、後部座席の窓から杖を構える。
僕はキャンピングカーを急停止させ、ドアを勢いよく開け放った。
「みんな、援護するよ。」
僕の合図と共に、結衣と霞が風のように車から飛び出していく。
「シッ。」
結衣の刀が一閃し、豪に襲いかかろうとしていたオークの首を正確に刎ね飛ばした。
霞も影から影へと跳躍し、クナイで次々と魔物の急所を貫いていく。
沙織の光魔法と由美の氷魔法が後方から炸裂し、残っていたオークの群れはあっという間に殲滅された。
「……お前ら。」
息を切らせて膝をついた豪が、信じられないものを見るような目で僕たちを見上げた。
彼の目には、以前のような嫉妬や怒りの色はなく、ただ純粋な驚きと安堵が浮かんでいる。
「久しぶりだな、豪。」
「随分とたくましい顔つきになったじゃないか。」
僕が手を差し伸べると、豪はしばらく躊躇った後、泥だらけの手で僕の手をしっかりと握り返した。
「……助かった。」
「お前たちがいなかったら、俺たちはここで終わってた。」
豪の口から素直な感謝の言葉が出たことに、僕は少しだけ驚いた。
一郎も深々と頭を下げており、彼らがこの過酷な旅で本当に成長したのだということが伝わってくる。
「俺は自分の未熟さを思い知ったよ。」
「勇者だからって、一人じゃ何もできないんだってな。」
「海斗、今までのことは本当にすまなかった。」
豪が真っ直ぐに僕の目を見て謝罪する。
彼が心から反省し、真の勇者としての覚悟を決めたことがはっきりとわかった。
僕たちがお互いの絆を確かめ合い、新たな共闘の予感に胸を熱くしていた、まさにその瞬間だった。
ドゴォォォォンッ。
隕石でも落ちてきたかのような凄まじい轟音と共に、僕たちの目の前の大地が大きく陥没した。
もうもうと立ち込める土煙の中から、圧倒的なプレッシャーを放つ一つの影がゆっくりと立ち上がる。
「あらあら、感動の再会のところ悪いのだけれど。」
「私の可愛い弟子たちをたぶらかした不届き者は、あなたたちかしら。」
土煙が晴れた後に立っていたのは、頭部に立派な二本の角を生やし、背中にドラゴンの翼を持つ竜人族の美女だった。
燃えるような紅蓮の髪と、豊満なプロポーションを際立たせる真紅の軽鎧。
彼女が放つ魔力と武気は、これまでに戦ってきたどの四天王とも次元が違っていた。
「し、師匠……っ。」
「本物の師匠が出てきちゃったわ。」
僕の後ろでカルミアとリリスが顔を引きつらせ、クロエもブルブルと震えている。
彼女こそが最後の四天王であり、魔王軍の最高戦力である竜人族の武闘家なのだ。
「フン、私が行くまでもないと思っていたけれど。」
「どうやら人間どもに随分と手こずっているようね。」
師匠と呼ばれた竜人族の美女が、冷ややかな視線で僕たちを舐め回す。
「俺がやる。」
「俺はもう、逃げない。」
豪がへし折れた聖剣の残骸を握り直し、雄叫びを上げて師匠へと突進した。
精悍さを増した彼の全身から、これまでとは比べ物にならないほどの強い光のオーラが立ち上っている。
結衣もそれに合わせ、死角から音速の斬撃を放つ。
「甘いわね。」
師匠は表情一つ変えることなく、素手で豪の剣を弾き飛ばし、そのままの勢いで結衣の刀を指先で挟み止めた。
信じられないほどの動体視力と、圧倒的な物理防御力だ。
「がはっ。」
師匠の軽い裏拳が豪の腹部を捉え、彼は一撃で後方へと吹き飛ばされた。
結衣も体勢を崩され、霞の奇襲も硬いドラゴンの鱗に阻まれて全く通用しない。
沙織と由美の魔法が直撃しても、彼女は煙の中から無傷で歩み出てくる。
「これが人間たちの限界かしら。」
「つまらないわね。」
誰もがその絶対的な武力に絶望しかけた時だった。
僕は戦況を冷静に分析し、彼女の動きのわずかな違和感に気づいた。
「……あれ?」
師匠が強烈な回し蹴りを放った直後、彼女は自分の二の腕を気にするようにサッと手で覆い隠したのだ。
さらに、由美の氷魔法を浴びた後、彼女は目尻のあたりを指で軽く押さえ、乾燥を気にするような素振りを見せていた。
圧倒的な強さを誇る彼女の動きが鈍るのは、決まって自分の身体の『ある部分』を気にした時だけなのだ。
(もしかして……彼女、プロポーションのたるみや肌の乾燥を気にしているのか?)
僕は【万物配送】のスキルウィンドウを空中に展開した。
強靭な竜の鱗を貫く武器など存在しないかもしれない。
だが、乙女の深い悩みを撃ち抜く最強の現代兵器なら、僕のインベントリにいくらでも揃っている。
「みんな、無理に攻めないで距離を取って。」
「僕に勝算がある。」
僕は仲間たちに指示を出しながら、膨大な【EP】を消費して現代の美容機器の数々を検索し始めた。
どれほど強大な敵であろうと、コンプレックスを抱える女性である限り、僕の美容チートから逃れることはできない。
最後の四天王との決戦は、誰も予想しなかった究極のアンチエイジングバトルへと変貌を遂げようとしていた。




