第二十三話 オタク歓迎パーティーと、酔いどれツイスターゲーム
暗く冷たかった古代遺跡のダンジョンを抜けると、目の前には凍てつくような北の広大な大地が広がっていた。
冷たい風が吹き抜ける中、僕たちのパーティーには新しい仲間が加わっている。
「ふふふっ、本当に造形が素晴らしいわ。」
先ほどまで僕たちに殺意を向けていたはずの第三の四天王クロエは、僕が渡した限定版フィギュアを我が子のように愛おしそうに抱きしめ、頬ずりしていた。
オタクとしての欲求を完全に満たされた彼女に、かつての冷酷なダークエルフの面影は微塵もない。
「あれが、魔王城よ。」
リリスが遠くを指差し、少しだけ身を震わせながら声を上げた。
視線の先、荒涼とした大地のずっと奥に、紫色の雷雲を伴った禍々しい城が聳え立っている。
「本当に行くの。」
「今度は師匠が出てくるわよ。」
リリスの言葉に、隣にいたカルミアも深く頷いて腕を組んだ。
「師匠はもう、なんというか、とにかく強いのよ。」
「私たちみたいに甘くないからね。」
双子のサキュバスが揃って怯える存在に、僕は少しだけ警戒を強めた。
「魔王様はやる気ないけど、師匠はなんだかやる気満々なのよ。」
フィギュアを大切そうに仕舞い込んだクロエが、会話に加わってくる。
「なんかのアーティファクトを探しているみたいでね……。」
どうやら最後の四天王は、これまでの幹部たちとは一線を画す戦闘力と目的を持っているらしい。
全員の師匠というのだから、相当な強敵であることは間違いないだろう。
「まあ、出発前に休憩して英気を養おう。」
「今回はクロエの歓迎パーティにしようか。」
僕が緊張を解すように明るく提案すると、クロエが目を丸くして驚いた。
「えっ、いいの。」
「私、さっきまであなたたちと戦ってたのに……。」
クロエが戸惑いながらも嬉しそうに呟くと、由美が彼女の肩にぽんと手を置いた。
「同好の士になったんだから、もう仲間よ。」
「今夜は寝かせないからね。」
由美の力強い歓迎の言葉に、クロエの瞳からホロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「あ、ありがとう……。」
「私、こんなに優しくされたの初めてよ。」
クロエの涙を見て、沙織や結衣たちも優しく微笑みかけている。
僕たちはキャンピングカーを展開し、少し走らせた先にある景色の良い川のほとりで野営をすることに決めた。
日が落ちて周囲が暗くなると、キャンピングカーの周りは煌びやかなパーティー会場へと変貌した。
僕は【EP】を消費し、【万物配送】のウィンドウを次々と展開していく。
まずは外で豪華なバーベキュー大会の準備だ。
最新の無煙ロースターに、厚切りの霜降り肉や新鮮な海鮮、彩り豊かな野菜を並べて焼き上げていく。
香ばしい匂いが立ち込め、ショコラが一番にヨダレを垂らして飛びついてきた。
「お肉最高ニャ!」
「ご主人様のご飯はいつ食べてもほっぺたが落ちるニャ!」
みんなで網を囲み、美味しいバーベキューを満喫して腹ごしらえを済ませる。
食事が終わると、今度はキャンピングカーの広々としたリビングスペースへと移動した。
ここからは由美がサポート役に回り、クロエを主役としたオタク歓迎会の本番だ。
大型のホームシアターシステムを起動し、由美のおすすめアニメの鑑賞大会が始まる。
「これ、すごく作画がいいわね!」
「この展開、熱すぎるわ!」
クロエは画面に釘付けになり、目を輝かせながらアニメの世界に没入していた。
テーブルの上には、僕が取り寄せたジャンクフードの山が築かれている。
熱々のピザ、山盛りのフライドポテト、乾きもののおつまみ、そして食後のデザートとしてSNS映えするようなフルーツたっぷりのパンケーキまで用意した。
もちろん、飲み物はキンキンに冷えたコカ・コーラだ。
カロリーを気にせず現代のジャンクフードを貪る時間は、魔王軍の幹部にとっても至福のひとときらしい。
アニメ鑑賞が一段落すると、次は最新の据え置き型ゲーム機を使ったレースゲーム対決が始まった。
「ふふん、私の反射神経を甘く見ないでよね。」
「ゲーマーとしてのプライドにかけて負けられないわ。」
クロエと由美がコントローラーを握り、白熱したバトルを繰り広げている。
「この勝負、優勝者が最下位の人になんでも一つ命令できる罰ゲーム付きにしましょう。」
由美が面白そうにルールを追加すると、結衣や霞も本気になってレースに参加し始めた。
車内は歓声と悲鳴に包まれ、まるで現代の女子会のような賑やかさだ。
そんな中、キッチンの冷蔵庫を物色していた沙織と結衣が、カラフルな缶飲料を大量に抱えて戻ってきた。
「海斗くん、この甘くて美味しそうな飲み物、いただいてもよろしくて。」
沙織が手にしていたのは、フルーツ味の「ほろよい」だった。
僕が自分用に少しだけ取り寄せて冷やしておいた低アルコール飲料だ。
「あ、それは……。」
僕が止める間もなく、喉が渇いていた結衣やセラフィナたちがプシュッと缶を開けて飲み始めてしまった。
「わあ、ジュースみたいで美味しいわね。」
「シュワシュワしてて飲みやすいのじゃ。」
異世界のお酒に比べて全くアルコール感がないため、みんなはジュースだと勘違いしてゴクゴクと喉を鳴らしている。
サキュバス姉妹やクロエもそれに混ざり、次々と缶を空けていった。
数十分後、車内の空気は完全に出来上がってしまった。
アルコール耐性のない女性陣の顔はほんのりと赤く染まり、瞳はトロンと潤んでいる。
「うふふふっ、海斗くぅん……。」
「ご主人様ぁ、なんか体がポカポカするニャ……。」
完全に酔いが回った彼女たちは、タガが外れたように僕にすり寄ってきた。
由美がどこからかツイスターゲームのマットを取り出し、床に広げてニヤリと笑った。
「さあ、次はこれよ。」
「海斗も強制参加だからね。」
由美の鶴の一声で、僕もマットの上に引きずり出されてしまった。
ルーレットが回され、指定された色に手足を置いていく。
最初は順調だったが、人数が多い上に全員が酔っ払っているため、すぐに体勢が崩れていく。
「ああん、バランスが取れないわぁ。」
カルミアがわざとらしく僕の背中に倒れ込み、豊かな胸を押し付けてくる。
「ずるいニャ、アタシだってご主人様とくっつくニャ!」
ショコラが対抗して僕の正面に潜り込み、柔らかい太ももを僕の足に絡ませてきた。
「ちょっと、わたくしの海斗くんに何をしてますの!」
それに気づいた沙織が、反対側から僕に覆いかぶさるようにして密着してくる。
「海斗くんの温もりはわたくしのものですわよ……っ。」
純白のネグリジェ越しに伝わる熱い体温と、甘いお酒の匂いが僕の理性を激しく揺さぶる。
「えへへ、私も混ざるー。」
結衣や霞、さらにはクロエまでが折り重なるように倒れ込んできて、ツイスターゲームは完全に形を失ってしまった。
床の上でもつれ合い、くんずほぐれつの状態になったヒロインたちの柔らかな肌が四方八方から僕を包み込む。
「みんな、ちょっと落ち着いて……っ。」
僕の制止も虚しく、セクシーなハプニングの連続に車内は嬌声で溢れかえった。
それでも、彼女たちの顔に浮かんでいるのは、心の底からの楽しそうな笑顔だった。
過酷な異世界の旅において、これほどまでに平和で幸せな空間を作ることができたのは、間違いなく僕のスキルのおかげだ。
誰もが身分や種族を忘れ、ただの女の子として笑い合っている。
間違いなく、この旅で一番の笑顔がそこにあった。
僕はこの幸福な大乱交パーティーの中心で、明日からの過酷な戦いに向けて英気を養うのだった。
翌朝、僕たちはついに魔王城へと向けて出発する。
だが、その道中で僕たちは思わぬ人物と再会することになる。
ボロボロになりながらも、海路を使って別ルートで北の大地に辿り着いていた勇者、豪だ。
精悍な顔つきに変わった彼と、待ち受ける最強の四天王との決戦。
僕たちの物語は、いよいよ最後のクライマックスへと突入しようとしていた。




