第二十二話 コレクションルームの攻防と、貢ぎ物によるチョロイン陥落
開かれた重厚な扉の先へ進むと、そこは薄暗い通路を抜けた先の巨大なホールだった。
僕と由美が警戒しながら足を踏み入れると、反対側の通路から見慣れた姿が飛び出してきた。
「海斗くん、ご無事でしたのね。」
純白のローブを揺らして、沙織が涙目で駆け寄ってくる。
その後ろには結衣、霞、セラフィナ、そしてカルミアとリリスの双子サキュバスも無傷で続いていた。
どうやらクロエの罠で分断されたものの、彼女たちも自力でこの合流ポイントまで辿り着いたらしい。
「みんな無事でよかったよ。」
「この先が、あのオタクなダークエルフの本当の拠点のようだね。」
僕がホールの奥にある、ひときわ装飾の施された両開きの扉を指差すと、由美が眼鏡を光らせて頷いた。
僕たちは油断なく武器を構え、その巨大な扉をゆっくりと押し開けた。
「……なんじゃ、この気味の悪い部屋は。」
部屋の中を見た瞬間、セラフィナが心底嫌そうな顔をして声を漏らした。
無理もない。
そこは魔王軍四天王の拠点というより、完全に重度のコレクターの趣味の部屋だったからだ。
壁一面には色鮮やかな魔法のポスターが所狭しと貼られ、ガラス張りの棚には精巧なフィギュアや不思議な造形物がズラリと並んでいる。
部屋の隅にはいくつものモニターが積まれ、怪しげな光を放っていた。
「これがダークエルフの美的センスというやつか。」
「気品も優雅さの欠片もなく、ただただ見苦しいガラクタの山ではないか。」
エルフの姫であるセラフィナが、これ見よがしに鼻で笑いながらマウントを取る。
その言葉が、この部屋の主の逆鱗に触れたらしい。
「誰の至高のコレクションをガラクタと呼んだのよ、この時代遅れの森エルフ。」
部屋の奥から、タイトな黒いボディスーツに身を包んだクロエが姿を現した。
彼女の顔は怒りで真っ赤に染まり、手には強力な魔力を帯びた漆黒の杖が握られている。
「私の集めた芸術品を理解できないなんて、本当に野蛮な連中ね。」
「あなたたち全員、私のコレクションの塵にしてあげるわ。」
クロエから放たれる殺気と魔力の波は、これまでの敵とは比べ物にならないほど強力だった。
セラフィナも負けじと杖を構え、エルフ同士の熾烈な魔法バトルが勃発しようとしていた。
だが、僕は慌てることなく、冷静に【EP】を消費して【万物配送】のウィンドウを空中に展開した。
「セラフィナ、少し待って。」
「クロエ、君のコレクションは確かに素晴らしいけど、これを見ても同じことが言えるかな。」
僕は光の粒子と共に、現代日本から取り寄せた至高のアイテムを彼女の目の前に提示した。
それは、世界で百体しか生産されていないという超絶クオリティの限定版美少女フィギュアだ。
さらに、最新の据え置き型ゲームハードと、発売されたばかりの神ゲーと呼ばれるRPGソフトの限定パッケージも並べてみせる。
「な……なななっ。」
クロエの杖から魔力の光がスッと消え去り、彼女は食い入るように僕の手元のアイテムを凝視した。
「そのフィギュアの造形美、信じられないほどの細やかさね。」
「それにその四角い箱と円盤からは、未知のエンターテインメントの波動を感じるわ。」
クロエは完全に戦意を喪失し、フラフラと引き寄せられるように僕の前まで歩み寄ってきた。
その様子を見た由美が、ニヤリと笑って一歩前に出る。
「クロエ、あなた分かってるじゃない。」
「これは私の故郷である日本という国の、最高峰のサブカルチャーの結晶よ。」
「この箱をモニターに繋げば、あなたの知らない無限の物語を体験できるわ。」
由美の放ったオタク特有の早口なプレゼンテーションに、クロエの瞳が星のように輝き始めた。
「そ、そんな素晴らしい世界が存在するのね。」
「私、魔界の文献を読み漁って独自にグッズを作っていたけれど、本物はこんなに凄いのね。」
敵対していたはずの二人が、瞬く間にオタク同士の共通言語で意気投合し始めている。
クロエはフィギュアの箱を愛おしそうに撫でながら、ポツリと本音を漏らした。
「私、本当は戦いなんか嫌だったのよ。」
「お師匠様に命令されて、仕方なくダンジョンの防衛を任されていただけでね。」
「本当はずっとこの部屋にこもって、好きなものだけに囲まれてオタクしていたかったの。」
クロエの目から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ねえ、海斗って言ったわね。」
「あなたと一緒にいれば、こんな素晴らしいグッズに囲まれて、ずっとオタクしていられるの。」
僕が力強く頷くと、クロエの表情が一気に明るく華やいだ。
「だったら、私の全てをあなたに捧げるわ。」
「魔王軍なんて辞めて、今日からあなたの専属コレクター兼ゲーマーになるんだから。」
こうして第三の四天王である影縛のクロエは、現代のオタクグッズの前にあっさりと陥落したのだ。
リリスたちに続く魔王軍幹部のチョロイン化に、沙織や結衣たちは呆れたような、それでいてどこかホッとしたような笑みを浮かべていた。
僕の【万物配送】の力は、種族や立場の壁を越えて、人々の欲望を的確に撃ち抜いていく。
新たな仲間を加えた僕たちは、安全地帯となったこの遺跡で、最高に楽しい夜の宴を開く準備を始めるのだった。




