第十三話 魔王軍幹部のファッション改造と、賑やかな車内
エルフの森の入り口には、大勢のエルフたちが見送りに集まっていた。
「海斗殿、この森はいつでも貴殿の物流拠点としてお使いくだされ。」
長老が深々と頭を下げ、他のエルフたちも心からの感謝の言葉を口にする。
僕は運転席から手を振り返し、グランドキャンピングカーのアクセルをゆっくりと踏み込んだ。
力強いエンジン音が響き、頑丈な車輪が土を蹴ってゆっくりと前進を始める。
紫色の瘴気が完全に消え去った森の木漏れ日を抜け、僕たちは新たな目的地への旅へと出発したのだ。
車が安定した平原の道に入ると、僕は自動運転のアシスト機能をオンにしてリビングスペースを振り返った。
そこには、かつての過酷な異世界サバイバルの常識を覆すような光景が広がっている。
「はぁ、いつ入ってもこのお風呂は最高ですわ。」
シャワールームから出てきた沙織が、火照った顔をふかふかのバスタオルで拭きながら微笑んでいる。
「……海斗、このアニメの続きもダウンロードしておいて。」
由美さんはリビングの高級な革張りソファに陣取り、大型モニターでアニメを貪るように見つめながらポテトチップスをかじっていた。
「海斗くん、今日のお昼はハンバーグとエビフライにしてみたわよ。」
結衣はシステムキッチンに立ち、可愛らしいエプロン姿で楽しそうにフライパンを振るい、家庭料理の腕を振るっている。
「むにゃ……このベッド、雲みたいで起きられないわ……。」
奥のキングサイズベッドでは、忍者の霞が完全にダメ人間と化して最高級の羽毛布団にくるまっていた。
セラフィナも優雅に紅茶を飲みながら、窓の外の景色を楽しんでいる。
過酷な異世界旅行とは無縁の、あまりにも平和で贅沢な空間だ。
そして、その光景を部屋の隅でポカンと口を開けて見つめている少女がいた。
「な、なんなのよこの動くお城は。」
魔王軍四天王のリリスが、信じられないものを見る目で車内をキョロキョロと見回している。
彼女の着ている紫色のボンデージ衣装は、昨夜の高圧洗浄機とシャンプーのせいでヨレヨレになり、すっかり色褪せていた。
「あなたたち、魔王を討伐しに行く勇者のパーティーなのよね。」
「どうしてこんなに優雅に暮らしているのよ。」
リリスの困惑した声に、女性陣が一斉に彼女へと視線を向けた。
「そんなボロボロの格好じゃ、せっかくの可愛いお顔が台無しですわ。」
沙織がリリスに近づき、彼女の痛んだ衣装をマジマジと見つめる。
「海斗くん、彼女にも何か似合う服を用意してあげてくれないかしら。」
結衣や由美さんも面白そうに頷き、逃げようとするリリスを囲み始めた。
僕はこれまでの行いで貯まった【EP】を消費し、【万物配送】のウィンドウを空中に展開した。
もちろん、僕が日本で買いだめしていたわけではなく、この神スキルによって生み出される現代の衣服や化粧品だ。
淡い光と共に、可愛らしいフリルのついたワンピースや、最新のコスメセットが次々と出現する。
「えっ、ちょ、ちょっと何をするのよ。」
「きゃああっ、脱がさないでぇっ。」
リリスの悲鳴が車内に響き渡るが、女性陣の手際はあまりにも鮮やかだった。
数分後、乱暴にボンデージを剥ぎ取られたリリスは、見違えるような清楚な美少女へと変身していた。
淡いピンク色のワンピースが彼女の白い肌に映え、丁寧に整えられた髪からはフローラルな良い香りが漂っている。
「ほら、鏡を見てみなさいな。」
沙織に手鏡を渡され、リリスは恐る恐る自分の顔を覗き込んだ。
「こ、これが……私……。」
彼女の瞳が潤み、頬がポッと赤く染まる。
「すごく似合ってるよ、リリス。」
僕が素直に褒めると、彼女は顔を真っ赤にして俯いた。
「あ、あんたが用意してくれた服だから、特別に着てあげるだけなんだからね。」
「でも……その……ありがとう。」
ツンデレの教科書のような反応を見せるリリスに、僕は思わず笑みをこぼした。
彼女の僕への好感度は、すでに限界を突破しているに違いない。
すっかり懐いたリリスは、僕の隣の助手席に座って案内役を買って出た。
「魔王城に行くなら、まずは『獣人の国』を経由するのが一番よ。」
「そこには魔王様を討伐するための、重要な秘密が隠されているらしいの。」
リリスの言葉に、僕はハンドルを握り直した。
「獣人の国か。」
「でも、そこへ行くまでの道には魔王軍の罠がたくさん仕掛けられているわ。」
リリスが心配そうに言うが、僕には不安など微塵もなかった。
僕は再び【万物配送】を発動し、ダッシュボードの上に小型の機械を出現させた。
「なんだこれ。」
「全天候型の索敵ドローンだよ。」
僕はタブレット端末とドローンを同期させ、キャンピングカーの天窓から空へと放った。
「上空から地形をスキャンして、安全なルートを自動でマッピングしてくれるんだ。」
タブレットの画面に、周囲の地形と敵の配置がリアルタイムで表示されていく。
「うそっ、こんな遠くの罠まで丸見えじゃない。」
「あんたの魔法、本当に非常識ね。」
リリスは呆れながらも、尊敬の入り混じった熱い視線を僕に向けてくる。
圧倒的な文明の力で魔王軍の罠を次々と回避し、僕たちのキャンピングカーは快適なドライブを続けた。
やがて、画面の端に巨大な城壁のようなものが映り込み始める。
新たな目的地である獣人の国は、もう目の前まで迫っていた。
しかし、その国境付近には、ただならぬ殺気を放つ獣の群れが集結しているのが見えた。
僕たちの平和な旅路に、再び波乱の予感が影を落とそうとしていた。




