第十一話 マヨネーズの奇跡とエルフ姫の決意、そして覗き見する毒姫
エルフの森の浄化と魔王軍幹部の撃退を祝して、僕たちは世界樹の根元で歓迎の宴に招かれた。
長老をはじめとするエルフたちが、美しい木彫りの器に盛られたご馳走を運んでくる。
「さあ人間たちよ、我らの森の恵みを存分に味わうがよい。」
長老が自慢げに勧めてくれた料理を見て、結衣たち前衛陣の顔が引きつった。
テーブルに並べられているのは、味付けの全くされていない生の葉っぱと、ひどく苦そうな木の実ばかりだったのだ。
「えっと……お肉とか、温かいスープはないのかしら。」
結衣が引きつった笑顔で尋ねると、エルフたちは不思議そうな顔をする。
「我らエルフは自然のままの命をいただくのが至高と考えておる。」
「火を通したり味を誤魔化したりするのは、野蛮な行為じゃ。」
高貴な種族ならではの食文化なのだろうが、肉体労働をしてきた結衣や霞にとっては絶望的なメニューだ。
沙織や由美さんも、さすがに生の葉っぱだけでは箸が進まないようだった。
僕は静かに立ち上がり、【万物配送】のウィンドウを展開した。
エルフの食文化を否定するつもりはないが、少しだけ現代の魔法をトッピングさせてもらおう。
僕は【EP】を消費して、数種類の現代調味料を取り寄せた。
「長老、この野菜に少しだけ僕の故郷の『魔法のソース』をかけてみてもいいですか。」
僕が取り出したのは、ごまドレッシングと、黄金色に輝くマヨネーズだ。
「む、なんじゃそのドロドロとした怪しい液体は。」
長老が眉をひそめる前で、僕は新鮮な生野菜にたっぷりとマヨネーズを絞り出した。
「騙されたと思って、一口食べてみてください。」
僕に促され、長老は恐る恐るマヨネーズのかかった葉っぱを口に運んだ。
咀嚼した瞬間、長老の長い耳がピンと垂直に立ち上がった。
「な、なんじゃこれは……っ。」
「卵と油の濃厚なコク、そして絶妙な酸味が、野菜の青臭さを完全に包み込んでおる……!」
長老は震える手で次々とマヨネーズ野菜を口に放り込み始めた。
「美味い、美味すぎるぞ!」
「自然の恵みが、この魔法のソースによって何百倍にも高められておるわ!」
その様子を見た他のエルフたちも、我先にとドレッシングやマヨネーズに手を伸ばす。
あちこちで驚愕と歓喜の声が上がり、高貴なエルフたちが現代の調味料の虜になっていく姿はとてもコミカルだった。
もちろん、結衣たちのためには裏でこっそりと焼肉弁当を取り寄せて満足してもらった。
美味しい食事で完全に胃袋を掴まれた長老は、その後の打ち合わせでも僕に対して非常に協力的だった。
「海斗殿、この森を貴殿の物流拠点として使うことを全面的に許可しよう。」
「その代わり、この魔法のソースと空気清浄機は末長く提供してくだされよ。」
長老との固い握手を交わし、僕はエルフの森という重要な中継拠点を手に入れた。
世界最大の物流国家建国に向けて、また一つ大きなピースが埋まったのだ。
宴もたけなわとなった頃、セラフィナがモジモジと顔を赤らめながら僕の隣に座ってきた。
「あのな、海斗よ。」
「わらわも、そちたちの旅に同行させてもらえぬか。」
彼女の突然の申し出に、僕は驚いて首を振った。
「僕たちの旅は魔王討伐が目的だから、すごく危険だよ。」
「森の守護者である君が、ここを離れるわけにはいかないんじゃないかな。」
僕が諭すように言うと、セラフィナはギュッと僕の服の袖を掴んだ。
「森の瘴気はそちの機械で払われたし、結界の維持は長老たちで十分じゃ。」
「それに……わらわはもう、そちのくれる美容液なしでは生きられぬ体になってしまったのじゃ!」
セラフィナは潤んだ瞳で僕を真っ直ぐに見つめ、顔を真っ赤にして叫んだ。
「危険でも構わぬ、それでも一緒に行きたいのじゃ!」
彼女の真っ直ぐな思いに、僕は思わず言葉を失ってしまう。
すると、後ろで聞いていた沙織が、小さくため息をつきながら前に進み出た。
「くっ、美少女エルフなんてっ。」
「強力なライバル出現ですわね。」
沙織はそう言いながらも、どこか嬉しそうに微笑んでいる。
「でも、彼女の魔法があれば旅が楽になるのも事実よ。」
「私からも歓迎するわ、セラフィナさん。」
由美さんも眼鏡を押し上げながら同意し、結衣や霞も歓迎の意を示してくれた。
「みんながそう言うなら、歓迎するよ。」
「これからよろしくね、セラフィナ。」
僕が微笑みかけると、セラフィナはパァッと顔を輝かせて僕に抱きついてきた。
こうして僕たちのパーティーに、エルフの姫という強力で美しい仲間が加わったのだ。
宴の後、僕はエルフたちへの追加の贈り物として【万物配送】を発動した。
森のあちこちに、現代の組み立て式簡易浴場をいくつか設置したのだ。
給湯器から湧き出る温かいお湯と、花の香りがするシャンプーのプレゼントに、エルフたちは大喜びで風呂へと駆け込んでいく。
僕も少し離れた場所に自分たち用の風呂を設置し、一息つこうとしていた。
しかし、その平穏な夜の森の木陰で、不審な影がガサガサと動いているのを見逃さなかった。
「あーあ、なんなのよあのお湯と、ものすごくいい匂いの食べ物は……。」
茂みの奥からヨダレを拭いながらこちらを覗き込んでいるのは、先ほど高圧洗浄機で撃退したはずの魔王軍四天王、リリスだった。
彼女のボンデージ衣装はまだ洗剤の泡で少し濡れており、寒さと空腹でガタガタと震えている。
「あんなキラキラした肌になれるお薬まであるなんて……。」
「くやしいけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ試してみたいかも……。」
魔王軍の誇りよりも、食欲と美容への執着が勝ってしまった四天王の美少女。
彼女がフラフラと僕の設置したお風呂と食べ物の匂いに引き寄せられてくるのを、僕は暗闇の中でニヤリと笑いながら待ち構えていた。
僕の物流チートは、魔王軍の幹部すらも陥落させてしまうのだろうか。




