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たかみが育ての親のところへ来たのは、5歳の時だった。
両親が流行り病で亡くなり、母親の姉が引き取る形であった。
早々に寺子屋に通わされたたかみは8歳の頃から家の手伝いをした。
家には継父に雇われた男連中が大勢いた為、人手はいくらあっても喜ばれた。
掃除や炊事、洗濯、裁縫、何でもやった。
妹を大層可愛がっており、その面影をたかみに重ねていた継母は「娘として家に来たのだから、そんな事はしなくてもいい」と言ってくれたが、たかみは寧ろ率先して家の手伝いをした。
それらをしていない時間は、継父に呼ばれる事が多かったからだ。
継父は寺子屋に通っていた頃から、時々たかみを呼び出しては色々なことを教えてくれた。
時には義兄達も同席した。
それは、身体訓練であったり、記憶力の訓練、目利きや人間観察、潜伏や脱出、変装や声色であったりと、子供ながらにおかしいと思うものばかりであった。
継母が、その事に気付いてからの行動は早かった。
たかみに奉公先で必要な物や遠出の準備、充分な当面の路銀と、道中の危険を減らす為の男装一式等と、考え得る全てを用意してくれた。
ただし、継父から逃げるためだ。紹介先から足がつかないよう、奉公先は落ち着いたら自分で探す事になった。
「苦労をかけるけど、それでもここに居てあの人の仕事を手伝うより、余程マシな筈だから」
継父が犯罪集団の親分だと聞いて、自分を逃がして継母は大丈夫なのかと、たかみは心配になったが、それを察した継母は「私のことなら大丈夫。あの人は心底私に惚れてるからね。酷いことにはならないよ」と笑った。
事実、そうなのだろう。
たかみがこの家に奉公人ではなく娘として受け入れられたのも、継父が継母の願いを聞いた事によるものに違いない。
そんなこんなで10歳で生まれ故郷を離れたたかみ。
しばらくは奉公せず節約しつつ、出来るだけ遠くまで離れること、1人で生きるための知識や術を身につけることを優先した。
12歳で金が尽きて寺社に行き、半年も世話になったかと言う頃、飢饉が起きた。
出来る限りの手伝いはしたが、自分以上に寺社の世話が必要な人達で溢れ、寺を出る事にした。
次の町では早々に奉公先を紹介してもらった。
しかし1年程奉公した頃、奉公先が火事にあってしまう。
復旧を手伝ったあと、その町を離れた。
次の町で面倒な奴に目を付けられた。
嫌がらせを受けるたびに奉公先を変え、最終的には逃げるように町を出た。
今の町に流れ着いたのは14歳になった頃か。
追われる身であるから、最初は男装して日雇いで日銭を稼いでいたが、しばらくして店主の店に落ち着いた。
様々な理由により転々としているたかみだが、行く先々で重宝された。
家の事を手伝っていたのは勿論、継父に仕込まれた諸々。元の能力の高さと相まって、育ての家での全てがたかみを優秀な人材に作り上げていた。
器用で、要領も物覚えも良く、身のこなしも軽い。マナーも教養もひと通り以上に身についている。
一般的な奉公先で重宝されるのは勿論のこと、たまたま見かけた悪い奴にその能力を買われて、執拗に追いかけ回されるような勧誘を受けてしまう程までに。
たかみが目を覚ますと、後ろ手に胴体ごと縛られて転がされていた。
屋内のようだ。見覚えがある気がするが、それを考える前に自分を呼ぶ声が聞こえた。
「よう、たかみ。久しぶりだな。素直に俺達の仲間になる気になったか?」
丸刈りの男と、タレ眉の男だ。
「お前達がまっとうに生きるってんなら、あたしの仲間にしてやるよ」
そう言って口元だけ笑いながらたかみが身体を起こすと、自分の隣で横たわっている団子屋を見つけた。
自分と同じ様に、後ろ手に胴体ごと縛りあげられている。
「えっ⋯⋯、団子屋!?」
思わず丸刈り男とタレ眉男を見る。
「何で⋯、お前達、仲間じゃないのか?」
たかみの動向を知らせるだけでは仲間に戻してもらえなかったのだろうか。
それとも最初から仲間に戻すつもりなどなく、ここで切り捨てるつもりだったのだろうか。
だが、返ってきたのは思いもよらない言葉だった。
「何言ってんだ?お前の仲間だろ」
(どうなってんだ⋯?)
団子屋はこいつらの仲間ではなかった。
勿論、たかみの仲間でもない。
では、団子屋は何者なのか?
「なあ、お前⋯、こんな神社に昼夜入り浸って何を企んでる?」
考え込んでいると丸刈り男が睨みを利かせてきた。
屋内をぐるりと見渡している。
ああ、ここは神社の拝殿の中だったのか。
通りで見覚えがあったはずだ。
「大方、財宝でも狙ってんだろ?」
たかみが黙っていると更に言葉を継いできた。
決めつけた物言いに腹が立つ。
それでなくとも、たかみは盗みなどしないと育ての母に誓った身だ。
「⋯⋯⋯⋯、は?」
「隠してもムダだ。この兄ちゃんに聞いたんだ」
そう言って団子屋を指差すタレ眉男の言う事にはこうだ。
最近、神社に入り浸っているたかみを見つけた。
更に神社の近くでこの数日たかみと一緒に居る団子屋に目を付けた。
団子屋の素性を調べ、今日ようやく接触し、いつもの様にたかみに関するある事ない事を吹き込んでいた。
『━━━━たかみだよ、あいつは賊だ、カタギのフリしちゃいるがな』
『今だってほら、神社に目をつけたみたいだな。財宝でも眠ってるんだろ?』
『まさか、あの神社にはそんなものありませんよ』
『じゃあ、たかみはあの神社で何を?』
『さあ、僕は⋯⋯』
ここでたかみに気付いて団子屋から離れることにしたが、隙を見てたかみを無理矢理連れて行こうと思い至ったらしい。
「⋯⋯なんだ、そういう事か」
たかみは何故か分からないが、ちょっと気が抜けた。
そう言う状況ではないと言うのに。
ほくそ笑むたかみを丸刈り男とタレ眉男が訝しむ。
「⋯なんだ?」
「何でもねえよ。つか、「そんなものない」って言われてんじゃねえか」
たかみが嘲笑うとタレ眉男が鼻を鳴らす。
「ふん、ダマされるか!無関係の奴が何で「ない」と言い切れる?」
(⋯⋯確かに。じゃあ団子屋が探っていたのはあたしじゃなくて、この神社?)
タレ眉男の言うことも一理あるなとたかみが思い巡らせていると、何とも耳障りな、聞き覚えのある声が聞こえてきた。




