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「ちょっとぉ、どう言う事ぉ?どうしてこの女も連れて来たのよぉ?」
団子屋の店の店員の女だ。
仕事が雑でお喋りで、「ここだけの話」が好きな女。
ろくでもなさそうだと思ったが、こいつらの仲間だったのか。
「私がトンズラした後、全部団子屋に押し付けるつもりでぇ、折角、色々吹き込んでおいたのよぉ?」
なるほど、アレはこの女なりに頭を使った作戦だったらしい。
たかみがここに連れて来られてなかったとしても、残念ながらこの女の企み通りにはいかなかっただろう。
「相手が悪かったな、あきらめな」
たかみが思ったそのままを丸刈り男が口にする。
丸刈り男にうるせえと一蹴されて、女はますます苛立ちを隠せない。
「もぉー全部台無しぃ、最悪ぅ!」
女が団子屋の頭を足蹴にする。
その衝撃で団子屋が目を覚ました。
「ん⋯、ここは⋯⋯」
団子屋が気怠げに周りを見回す。
風が出てきたのか、カタカタと建物が軋む音がする。
「気が付いたか?どこも痛くないか?」
たかみが聞くが、団子屋は屋内を見て固まっている。
カタカタと建物を揺らす風が強くなってきた。
「もしかして、ここは神社の中ですか⋯!?」
団子屋が動揺している。
まるでそれに呼応するかのように、カタカタと建物の揺れが強くなっていく、気がする。
「そうだけど、何で団子屋が知って⋯⋯」
ぐ らっ
地震だ。
この前より格段に揺れが大きい。
「きゃあっ⋯、何よぅ、これぇ⋯っ」
立ってなどいられない揺れの強さに女が崩れ落ちる。
どうやらその向こうでは、丸刈り男とタレ眉男もへたり込んでいる様だ。
カタカタ、ガタンッ
揺れは落ち着くどころか、段々と酷くなっていく。
ガタガタガタガタ
団子屋が青褪めた顔で、しかし、しっかりとたかみを見つめる。
「早く⋯⋯今すぐここを離れて下さい⋯!」
ガタン、ガタガタガタ
確かにこのボロ神社では屋外に出るべきだろうが、何故たかみ1人で離れるような口ぶりなのだ。
例え団子屋が何者であろうと、みすみす見捨てて行くような薄情者だと思われているなら心外だ。
たかみがそう口を開くより先に、団子屋が告げる。
「いや、もう遅い」
ず ん っ
「⋯⋯⋯⋯っ!!!」
ガンッ ガタガタ ガタガタガタガタガタンッ
団子屋がたかみに覆いかぶさってきた。
団子屋越しに衝撃が伝わる。
何かが倒れてきているらしい。
ガタガタ ガタ ガタガンッ
「っ⋯!大丈夫か、団子屋!?」
団子屋の返事はない。が、耳障りな声が聞こえる。
「いやあぁ、ちょっとぉ置いてかないでぇ」
あいつら、動けた様だ。
逃げるのは構わないが、助ける気が一切ないのが腹立たしい。
ガタガタガタン ガンッガタガタ
何か倒れるどころではない。
崩れ始めている。
「待て!せめてこの縄解いていけ!⋯おいコラ!!」
そこまで言うと、後ろに回された腕に何かが触っているのを感じた。
見ると、獅子と狛犬がたかみのロープを齧っている。
「⋯おまえら!何やってんだ!早く逃げろ」
ガタガタ ガタガタガンッ ガタンガンッ
いくら奇妙な2匹でも、潰されたり挟まれたりしては死んでしまうのではないか。
壊れるのか、消えるのか、何がどうなるかは知らないが。
とにかく、そんなのは困る。
困るのに、2匹は齧るのをやめない。離れない。
何とか動く指でちょいちょいと押しやるが、一向に齧るのをやめない。
いつもの不遜な態度はどうした。
ガタン ガンッガタガタ
「おい!聞いてんのか!!さっさと逃げろって⋯」
ぶちいっ
ロープを齧り終えた獅子が、ようやく口を開く。
「かなえ殿を連れて早く⋯っ!」
ガタガタガタガンッ ガタガタッ ガタンッ
崩れゆく建物の中、獅子はたかみを見つめて縋るように叫ぶ。
「早く外へ!!頼みますのじゃ!!」
「⋯⋯⋯はあ、はあ、はあ」
縛られたままの団子屋に肩を貸し、半分担ぎながらたかみが鳥居から離れた所で、ようやく揺れがおさまった。
「何が起こったんだ?⋯地震、⋯だよな!?」
「⋯僕です」
団子屋が、苦しげに息を吐く。どこか痛めたようだ。
それでもたかみに話したいことがあるらしい。
たかみの目をしっかりと見つめると、苦しげに歪めた口からポツリポツリと言葉をこぼす。
「かつて僕はこの神社を⋯この土地の全てを、裏切りました」
苦しげなのは、たかみを庇って受けた傷が痛むからか。
それとも過去を思い出して後悔の念からなのか。
「以来、立ち入ることの赦されぬ身⋯。地の震えはこの土地の怒りです」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
いや、団子屋が何やら苦しみに耐えながら説明してくれたのだが。
分かったような、分からないような。
分かりたくないとも言う。
とにかく、もう、嫌な予感しかしない。
とりあえず、話をまとめないと先に進まないようだ。
進みたくも無いのだが。
団子屋の縄を解きながらたかみはのろのろと頭を働かせる。
きっと、団子屋の話は、神使の話と繋がっている。
どうやら団子屋はこの神社を裏切った。らしい。
(だから、あの2匹はあんな厭ってみたり、気にかけてみたり⋯)
それでは、あの奇妙な2匹は何と言っていたか。
思い出したくもないけど、思い出さなければならないのだろう。多分
『我らに人間の声は聞こえぬ。人間にも⋯』
(⋯⋯⋯うーん?)
『━━━のいなくなった日から社は廃れ⋯⋯』
(⋯⋯⋯んー、んん!?)
『かなえ様を連れて⋯』
(あ━━━━━⋯⋯⋯)
もう、誤魔化しようのない事実ではないか。
勘弁してくれ。
たかみは片手で顔を覆うと、反対の手で、団子屋を指差す。
「⋯⋯⋯⋯⋯、え?もしかして。神社からいなくなったと言う⋯」
「はい、元・神様、ってやつです」
団子屋が照れくさそうに、ふわふわと笑った。
━━━こうして、老朽化により崩れた社に運悪く盗みに入っていた盗人は、建物の外で伸びていた所を御用となった。
何故ボロ神社に目をつけたか謎のままとなったが、おそらく天罰が下ったのだろうとの噂が飛び交った。
「神のいない神社でも、天罰ってのはあるのかねえ」
ぼんやりと空を見上げてたかみがこぼすと、狛犬が唸った。
「下らない事を言ってないで手を動かすのだ」
「無駄口でも聞いてなきゃやってられない位、途方に暮れてんだよ」
どうやって直すんだコレ、とたかみがボロボロに壊れた元拝殿をうんざりした顔で見上げる。
「すみませんねえ、僕が入れたらお手伝いするんですが⋯」
団子屋が瑞垣に頭を突っ込んで、顔を覗かせている。
(なるほど、こうやって社や神使の様子をうかがってたのか⋯)
「先程の話⋯、代理がいるからアリじゃないですか?」
団子屋が差し入れの酒と団子をそっと押し込みながら、何やら訳の分からないことを言い始めた。
それを横目で見ながらたかみは一応聞き返してやる。
「何が?」
「この社の神。天罰の話ですよ」
たかみは眉を顰めながら顔だけ団子屋の方を向いた。
「神の代理?⋯⋯⋯誰が?」
「もちろん、たかみ殿ですよ。あれ⋯、もしかして知らなかったのかな」
黙り込むたかみに、言っちゃまずかったかな、と頬を掻く団子屋が意を決した様に続ける。
「神使と、酒を酌み交わしませんでした?」
たかみの後ろで「そう言えば!」と言う声が聞こえた。
振り向くと2匹の奇妙な生き物が目を逸らす。
「おいいいぃぃぃぃ!!!!!」
ほんに
八百万も御座すれば、色んな神が居るもんだ




