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今日もたかみは団子屋の店に来ていた。
すると、また見知った顔を見つける。
「⋯⋯あれ?」
「⋯⋯あら」
鈴子だ。店主と一緒に来たらしい。
「なんだ?また来てんのかよ、あの店主」
やっぱりその気があるんじゃ⋯と、たかみが訝しんでいると、鈴子がころころと笑って答える。
「その節はお騒がせをしたお詫びに、私が是非とも来たいと申したのですわ」
「━━━あら、そんなの。父の店なんて、ひと月でも3人の入れ替わりじゃあ済みませんわ。素性の分からない娘達をすぐ雇うからだ、と母がよくこぼしておりますもの」
たかみは鈴子と並んで座り、お茶を頂いていた。
それは店の規模が違うからでは、と思ったたかみだが、自分も素性がばれて店を辞めた1人として大人しく口を噤んだ。
「あの団子屋も、失礼ですけれど、お人好しそうですし」
くすくすと鈴子が笑う。
嫌な感じがしないのは、鈴子が持つ穏やかな雰囲気故か。
「ああ、そうですわ。だからあの時も⋯」
そう言って、鈴子が団子屋を見て思い出し笑いをする。
「あの時?」
たかみが不思議そうに尋ねると、鈴子が楽しそうに教えてくれた。
「先日の、地震の起きた時ですわ。驚いて立ちすくんでしまった私に、慌てて社の方からあの団子屋が駆け寄っていらして。「大丈夫ですか?驚かせてすみません」と何度も何度も、そうおっしゃるんです」
「⋯⋯社⋯?団子屋は社の方から来たのか⋯?」
たしか団子屋は「あの時、社には近付いてないのか?」と言うたかみの問いかけに「ええ」と答えたはずだ。
その割に、あの2匹にえらく嫌われてるなと、不思議に思ったのだった。
「そうです。間違いありませんわ。⋯あの心配ぶりったら、まるでご自分が地震を起こされたかの様で。何というお人好しなお方かしら、と印象的でしたの」
くすくすと鈴子が笑っている。
団子屋はお人好しが過ぎるとは思っていたが、そこまでとは。
まさか地震が自分のせいだなどと思いはしないだろうから、地震に驚いた団子屋が鈴子に聞こえる程度の声を出すなり、社の方から飛び出すなりして、それに驚いた鈴子が転倒したと勘違いしたのだろう。
そんなものは、団子屋も地震に驚いての言動だから仕方がないと思うのだが。
武士道か家名を負う責任か、何が団子屋をそうさせているか知らないが、自然の力が起こす現象まで請け負っていてはその身が持たないぞ、と思いながら、たかみは先程の鈴子の言葉を思い出す。
あの日、団子屋は社に近付いた
そしてそれを、たかみに隠した
「鈴!お暇するぞ」
鈴子を呼ぶ店主の声にたかみは意識が戻される。
店主は帰り際にたかみをちら、と見るとすれ違いざまに囁く。
「(あいつらがまた、この辺りに来ているらしい)」
たかみが男の顔を見ると、男はこほんと咳払いを1つして続ける。
「団子屋のご主人にご迷惑のない様、気を付ける事だな」
「⋯ありがとな!」
たかみは男に礼を言うと、よいしょと腰を上げる。
(あいつらが団子屋に近付く前に追い返さねえと)
何とはなしに、昨日の店員の姉ちゃんはいねえな、と店内を見て、たかみはがしがし頭をかきながら店の出入り口に向かう。
それにしても、団子屋は何であんな嘘を吐いたのか?
誰にも知られたくない内緒の祈願があったとか?
それなら供物を預けるのもおかしい気がする。
鈴子の様に、誰かをストーキングしていたのだろうか?
しかし、あの時、社には誰も居なかった。
一雄青年も来なかった。
だから2匹の視線が痛かったのでよく覚えてる。
賽銭泥棒
不法投棄
何かの犯罪の証拠隠滅
どれも真っ昼間にやる事ではない。
はたして、団子屋は度が過ぎるお人好しなのか。お人好しの振りをした冷酷な犯罪者か。お人好しの所があるツメの甘い小悪党か。
たかみはふと、昨日、団子屋が長屋の子どもたちに向けた冷笑を思い出していた。
店を出て裏道に入った所で、聞き覚えのある話し声が聞こえてきた。
(あいつら⋯⋯っ)
たかみが声の聞こえた方を向くと、かつて店主の店で働くたかみを追いかけて嫌がらせをしてきた奴ら、体格の良い丸刈りの男の背中と、ひょろっとしたタレ眉の男の横顔が目に入る。
そこへ団子屋の声が聞こえてきた。
「そんなものはありませんよ」
(しまった、もう団子屋に接触してやがる⋯)
たかみは物陰に隠れて様子を伺う。
幸い、相手は2人だ。
団子屋の腕っぷしは知らないが、いざとなったらたかみ1人でも、団子屋を逃がす事くらいは出来るだろう。
念の為にとたかみは武器になりそうな物を探すが、次に聞こえてきた言葉に思わず固まる。
「⋯⋯じゃあ、たかみはあの神社で何を?」
丸刈りの男が団子屋に尋ねたようだ。
(⋯⋯何の話だ⋯、神社⋯?)
「さあ、それは僕には分かりませんね」
団子屋の冷静な声が聞こえる。
怯えたり強がったりの 様子はなさそうだ。
むしろ、落ち着いている。
かと言って知り合いと言う風でもないが、道を教える善良な市民と言う風でもない。
うまく言えないが、落ち着いてはいるが、店主の言うところの「若いのに落ち着きのあるいい男」、とは意味が違う落ち着きの気がする。
何というか、そう、この状況で落ち着きすぎているのだ。
相手の力量をはかっている、交渉で不利にならないよう推し量ってでもいるかの様な。
お人好しが過ぎる、ふわふわと笑う団子屋と印象が違いすぎる。
たかみは先程の自分の考えを思い返す。
『鈴子の様に、誰かをストーキングしていたのだろうか?』
『しかし、あの時社には誰も居なかった。』
居たのは、あたし⋯⋯⋯!?
団子屋はあの時、あたしを見張っていたんだとしたら
「あれ?⋯たかみ殿?」
団子屋が声を掛けてくる。
丸刈りの男とタレ眉の男の姿は見えない。
帰ったのか、まだその辺にいるのか。
どちらにしろ油断は出来ない。
油断しちゃいけないと思うのに、混乱した頭が注意力を削ぐ。
「⋯⋯⋯あの神社」
たかみが口を開くと、団子屋がぴくりと反応した、気がした。
「あの時、社に近付いてないって、嘘だったんだな?」
周囲に警戒しつつ、団子屋に質問を投げかける。
「何の為に?」
「⋯僕は、裏切り者なんです」
団子屋が寂しそうに笑った。
その顔はいつもの団子屋のように思えた。
「それなのに未練もあって、⋯⋯身勝手、ですよね」
(裏切り⋯未練⋯⋯あいつらに?)
団子屋もあいつらの仲間だったのか?
それで、あいつらに言われて、あたしに近付いたのか?
「⋯⋯戻りたいのか?」
戻りたくて、その条件として、あたしの動向をあいつらに知らせていたのか?
「━━━━━━━⋯」
団子屋が泣きそうな顔で笑う。
酷いことをされたのはこちらのはずなのに、何で団子屋がそんな顔をするんだ。
たかみがそう思った、その瞬間
ガツッ
たかみが倒れる瞬間、視界の隅に丸刈りの男と角材を持ったタレ眉の男が映った。
警戒していたつもりが、やっぱり注意力が散漫になっていた。
「⋯⋯畜生が」
そう毒づいてたかみは意識を手放した。




