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やおよろずもおはすれば〜家なし娘、獅子と狛犬にこき使われる〜  作者: モチダ


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7/10

7

「起きろ、小娘━━!!」


本日の()()()の目覚ましは狛犬のヒップアタックだ。

だが⋯


「!?」


何もない布団に狛犬の体がぼふん、と埋まる。

そこにあるはずの()()()の身体がない。

いつも昼まで寝ている()()()が今日はいないのだ。


()()()殿なら、先刻出かけたのじゃ」


不思議そうに布団をめくる狛犬に獅子が声をかける。


「そ、そうか⋯」


呆気にとられたような、気が抜けたように狛犬が布団を畳み始める。


「寂しがらずとも、一雄殿が参る頃には戻ってくると申しておったのじゃ」


「だ⋯誰も寂しくなど⋯」


「はいはい、なのじゃ」






()()()は団子屋の店に来ていた。


「一宿一飯の恩もあることだし、ちったあ団子屋の事も調べてやらねえとな」


とは言え、あの2匹の神使は、具体的に団子屋の何を報告してもらいたいのか。

店に来て得られる情報が、果たしてあの2匹が求めているものと同じなのか。


考えても詮無いことだ、と()()()がとりあえず店に入ると、思いがけず知った顔を見つけた。


「⋯⋯⋯おっ?」


「⋯なんだ、薄汚いのが居ると思ったら、()()()か」


岩みたいな顔をした目つきの悪い男、だ。

団子屋と何やら話をしていたようである。


店主(オヤジ)の口の汚さには負けるよ。何だよ、口の悪さで団子を腐らせにでも来たのか?」


お互い様だ、と男がニタっと笑う。


「娘のことで礼に来たんだが、⋯何とも若いのに落ち着きのあるいーい男じゃないか!気に入ったぞ」


男が団子屋の肩をばしばし叩きながら豪快に笑うと、団子屋も「いやいや、そんな」とニコニコしている。


「⋯⋯⋯⋯⋯。店の娘に手を出さない感心なオヤジだと思ってたら、男色(そっち)の趣味かよ」


()()()が怪訝な顔で後ずさるのを、男が半目で反論する。


「ほざけ小娘。わしは妻ラブじゃい」


口では何とでも言えるよな、と()()()が遠巻きにするのを気にするでもなく、男は店内を手で示した。


「とは言え、お前にも世話になったからな。わしの奢りだ。団子を頂いて帰りなさい」


()()()が現金にも、男の手を取りぶんぶんと激しめの握手で感謝を表していると、いつの間にか背後に団子屋が立っていた。


「ごゆっくり、どうぞ」


本当に幽霊みたいな(あん)ちゃんだな、と思いながら()()()は団子屋に案内された席に着く。


「ども」


そして団子屋の背中と店内をぐるりと見渡す。


(オヤジ受けは◎⋯と。店の方は⋯⋯イマイチ繁盛してねえな。美味い団子だったけどな)


近くにいた店員が、他の机を拭き終わったタイミングで声を聞ける。


「おねーさん、お茶!」

「はぁーい」


気の抜けた返事をした若い女の店員が、ごぽごぽとお茶を注いだ。

悪気はなさそうだが仕事が雑だな、と思いながら()()()は店員の女に話しかける。


「ねえねえ、おねーさん。ここの店主って若くていい男だね」


先刻店主(オヤジ)が言っていたことを店員に言ってみる。


「えぇー、そうですかぁ?私はタイプじゃないなぁ。いつも笑ってるけど、何考えてるか読めないしぃ。それにあのアザ!気味悪くてぇ」


店が暇で退屈してたのか、店員の女はせきを切ったように話し始める。


「きっとぉ、店が閑古鳥なのもそのせいよぉ」


(ふむ、店員受けは×、と⋯)


閑古鳥の原因が、自分の接客態度のせいだとは思ってないみたいだ。


「それにぃ、ここだけの話ですけどぉ。この店の店員ってぇ、入れ替わり激しいんですぅ。しかもここを辞めた後ぉ、連絡取れなくなってる娘が多いんですってぇ」


(⋯よくしゃべる(ねえ)ちゃんだ)


お茶を啜りながら()()()は店員の女をそれとなく観察する。

「ここだけの話」を好む人種を()()()は好まない。

情報収集としては助かるが、信憑性は半々、と言った所か。⋯甘い判定か?


「私も最近誰かにつけられてるみたいでぇ、⋯店主(あいつ)じゃないかってぇ」


店員の女はそこまで言うと、声をひそめて続ける。


「あいつの事⋯あんまり信用しない方が良いですよぉ?」






だ んっ


その日の晩。神社の拝殿に茶碗を叩きつける音が響き渡る。


「何じゃ、その小娘!団子屋の繁盛に店主の面が関係あるかの!?」


獅子が怒り狂っている。

薄々気付いていたが、獅子は団子屋贔屓の様だ。多分。


「店員の入れ替わり云々の話は、関係あるだろうな」


狛犬は冷静だ。

団子屋の事が気に入らない様に思える。多分。

それはさておいて。


「うーん、売り上げに関係してるかは分かんねえけど、周りの店に聞いてみたら、実際にここふた月だけでも3人、店員が替わってるらしい」


ただ、この仕事があるだけで有難いご時世に仕事を辞めるくらいだ。

連絡を絶って姿をくらます程の事情があってもおかしくはない、と思ってしまうのは、()()()自身がそうであるからかも知れない。

あるいは⋯


(団子屋に肩入れしすぎてるかも知れないな。もっと客観的に考えていかないと⋯)


供物にもらった団子で食い凌げていること。

鈴子の件で助けられたこと。

それはそれ、これはこれ。である。


それにしても、獅子の荒れっぷりがひどい。

酒に酔っている風には見えないが、日頃の鬱憤をこの機に晴らそうと言う魂胆か?

今度ストレス解消に散歩に連れて行ってやるべきか?この2匹はこの神社から出られるのか?などと()()()が考えていると、獅子が酒瓶を片手に持ち上げて叫ぶ。


「ええい!次じゃ!別の人間の話が聞きたいのじゃ!!一雄殿と鈴子殿のろまんすが聞きたいのじゃ!!!」


「お、そうだな。今度、長屋の連中にこっそり聞いとくよ!何せこの神社で縁が結ばれた2人だからな!!」


そこまで言って、()()()はふと疑問に思う。


「⋯⋯そう言や、この神社って何の神様だったんだ?縁結びか?商売繁盛か??」


ついでに流れで聞いてみる。


「て言うか、神がいなくなったってどう言う事なんだ?消えちまったのか??」


「小娘には関係ない」


ぷいっと狛犬がそっぽを向く。


「ほんと、感じ悪っっ」


大して期待はしてなかったものの、現実になるとそれはそれで腹が立つ。

()()()が狛犬を指差して喚いた。


「ええいっ、そんな話はおいといて。呑め呑め!!ヤケ酒じゃ!」


獅子に酒の入った茶碗を突っ込まれて、狛犬がむごむご呻いている。




そんな、かしましい神社の様子を、影からひっそりと伺う人物がいた。

背が高く顔の半分を長い髪で隠した、団子屋の店主だった⋯⋯⋯




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