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「⋯妙?」
たかみが聞き返すと、団子屋は頷いて人差し指を立てた。
「最初に話を聞いたご婦人は、「身の丈四尺三寸程の娘」が年頃のお嬢さんだと知っている様な口ぶりでした。⋯⋯四尺三寸なら、かなり小柄ですよね?」
「⋯確かに」
たかみも童のようだと思った程だ。
次に団子屋は中指も立ててきた。
「加えて、こちらの「見なかったか」の問いかけに「居ない」と答えました」
「そういやそうだな」
揚げ足取りの様にも思えるが、妙なのは確かだ。
団子屋は更に薬指も立てる。
「そしてあとの人達には、まともに話を聞いてもらえない。⋯⋯情報が回っていると考えられませんか?」
「それって⋯」
「行方知れずの方⋯とは限りませんが、少なくとも「青色の着物を着た、身の丈四尺三寸ほどの、身なりのいい娘」がここに居る。そしてこの長屋の方達はそれを隠したがっている。⋯と言う可能性は高いと思います」
「なるほど。⋯⋯⋯だけど、これだけガードが固いとなると⋯」
「それじゃあ、こういうのはどうでしょう」
そう言うと団子屋は、思わず見とれるほど綺麗に笑った。
「━━━ねえ、ぼく達」
たかみが声をかけると、3人の子どもが振り返る。
たかみと団子屋は長屋から帰ったふりをして物陰に隠れていた。
そして大人が忙しいこの時間帯に、子どもだけで大人から離れるのを待っていた。
人の良さそうな恰幅の良い女が、子どもを長屋に押し込んだのはたかみを警戒したからではなく、子どもが余計な事を言わないように予防線を張ったのだろう。
「ちょっと人を探してるんだけど」
たかみは身体を曲げて、子どもに目線を合わせながらニコニコと話しかける。
「⋯⋯⋯⋯⋯、知らねえよ」
「帰れ」
「ブース」
「ぼさぼさ」
「よれよれ」
「でか女」
3人の子どもは黙ってたかみをジロジロと見ていたが、一度口を開くとたかみへの悪口が止まらない。
「⋯⋯⋯⋯⋯、クソガキ⋯っ」
たかみがニコニコ笑いながら拳骨を振り上げると、後ろから冷たい声が聞こえた。
「無駄だ」
たかみが振り返ると団子屋が冷笑していた。
団子屋は子どもたちをちら、と見ると嘲笑う。
「ガキなんか相手にするな。俺達がこれだけ探しても見つからないんだぞ。こんな頭の悪そうなガキ共が何を知ってるって言うんだ」
「な⋯っ」
突然現れた知らない男に出し抜けに馬鹿にされた子ども達は憤慨した。
「バカにすんな、知ってらあ!」
「ばか!しっ」
そばかすの少年がまくし立てるのを、眉毛の上で前髪をぱっつんにした少年が口を塞いで止める。
その2人をまずいと思ったのか、太鼓みたいな少年が「帰ろうよ」と引っ張っている。
「帰れ帰れ。どうせお前達が知ってるっつー事なんざ大したことじゃねえ。俺達には何の役にも立たない」
団子屋がしっしっと追い払うように手を振る。
その言葉と態度にそばかす少年がますます腹を立てて、ぱっつん少年の手を振り払うと団子屋に詰め寄った。
「なんだとっ、そんなの⋯」
「いいや、聞かなくても分かるね」
団子屋に無下にされたそばかす少年は得意げな顔で団子屋を見る。
「おれは知ってるんだからな!お前らが探してるのは、昨日から一兄の所に転がり込んでる女だろ!!」
団子屋の唇が弧を描く横で、たかみが何とも言えない顔で笑っていた。
たかみが団子屋と共に「一兄」とやらの家に赴くと、そこには布団で横になる年増の女と、それを看病する若い男女がいた。
それを見てたかみが呟く。
「⋯⋯⋯あれ?あの兄ちゃん⋯」
神社に帰ったたかみは、拝殿で獅子と狛犬と向かい合っている。
「━━━━つまりは、こういう事らしい」
とある神社に通う1人の青年、沢一雄は、ある日天啓(?)を受けたと言う。
なんでも、突然謎の怒号が聞こえ、拝殿がガタガタと揺れたというのだ。
何とも信じられない恐ろしい現象に、思わず一雄青年が神社から逃げ帰ると、病気の母親の容体が悪化しており、一雄青年は連日連夜看病に勤しんだ。
一方、一雄青年に秘かな恋心を抱く娘、鈴子は、青年が日課である参拝に現れないのを心配し、あらかじめ調べておいた青年の家に行き、押しかけ女房よろしく看病を手伝う。
親孝行者の一雄青年に芽生えそうな恋の予感に、おせっかいな長屋の連中は、鈴子に請われるがまま口をつぐんでいた、と━━━
「とまあ、鈴子っつーのが店主の娘なんだけど」
そう言いながらたかみは広げた風呂敷の上に着替えを重ねていく。
「鈴子の看病の甲斐あってか、一雄青年の母親の容態も良くなって、明日には2人でお礼に参るらしいぜ」
喜び踊る獅子を横目に、狛犬が怪訝な顔で酒をちびちび飲む。
長屋の連中がだましたお詫びにと、酒と沢庵をくれたのだ。
しかも、団子屋は飲めないから、と自分の分をたかみにくれた。
試しに2匹に見せたところ、喜び勇んで飲み始めた。
なんとコイツラ、飲み食いは出来るらしい。
やっぱり奇妙な生き物はどこまでも奇妙であった。
たかみが狛犬の鼻に団子を突っ込む前に判明して良かった良かった。
「何故、そんな話を我らに?」
「団子屋の事を報告しろって言ったのはそっちだろ?」
正確には獅子が頼んできた事であるが、たかみには知ったこっちゃない。
「ちっ、ししの奴、余計な事を」
「⋯なあ、団子屋って、そんなに悪い奴か?今回の事では助けられたし、結構頼りになる男だと思うけど?」
あの変貌には驚かされたし、胡散臭いぐらいお人好しだけど。
今日に限って、たかみに害はなかったので良しとする。
たかみは決して勧善懲悪だどうだと言える立場ではない。余裕もない。
はっきり言って、自分の身に振りかかる災難を振り払うので手一杯なのだ。
そう言うのは金も権力も気概も余裕もある人間がやるべきだ、とたかみは思っている。
そんな訳で、今日の団子屋は良い奴だった。
しかし、獅子と狛犬が嫌う程嫌な思いを過去にしたというのであれば、内容によっては手を貸してやらないこともない。
一宿一飯の恩、と言うやつだ。
「小娘には関係ない」
ぷいっと狛犬がそっぽを向く。
「感じ悪っっ!!!」
ドン引きするたかみをよそに、獅子がご機嫌で酒の入った茶碗をあおる。
「さあさあ、そんな話はおいといて!パーッと呑め呑めっ、宴会じゃ!」
獅子に茶碗ごと酒を突っ込まれて「むが」と狛犬が呻く。
それを名残惜しそうに微笑みながら見つめると、たかみは腰を上げる。
「⋯じゃあ、あたしは帰るよ」
獅子も狛犬も酒の入った茶碗を離さず、目線だけをたかみに向ける。
そして、さしたる興味もなさそうに狛犬が口を開いた。
「帰るってどこにだ?どこで拾い食いして野宿するのだ?」
「お前、執念深いな」
知ってたけど、とたかみが苦笑する。
「まったくこまは素直じゃない。こう言えば良いのじゃ」
狛犬は酒瓶と茶碗を見せながらたかみに笑う。
「お主も付き合え、とな」
隣では狛犬も茶碗に口をつけながら笑っている、ように見えた。
思わずたかみは吹き出してしまう。
「⋯⋯⋯おう!」
豪快な笑い声が一晩中続いた。




