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「いらっしゃいませ⋯⋯おや」
店主から話を聞いた一刻後、たかみは供物に受け取った団子の包みから店を割り出し、昨日ぶつかった男を探しに来ていた。
「団子屋の店主だったとは、たまげたな、⋯です。その節は大量の供物をどうも」
その若さで、と言う言葉をたかみは飲み込んだ。
金持の道楽か、余程の手腕の持ち主か知らないが、必要以上に関わらない方が良いだろう。
用件だけ済ませてさっさと退散しよう、とたかみは心に決める。
「━━━━なる程。あなたが悲鳴を聞いた女性、つまり僕が見かけた女性が、行方知れずの方かも知れないと⋯」
団子屋は店を店員に任せると、神社の裏口までたかみと一緒に来てくれた。
「ああ、ここですよ。僕の見た女性はあちらに向かって行きました」
団子屋は前日と同じ様に神社の裏口を背に立つと、右手側に伸びている一本道に向かって指を差す。
たかみとしては、脇道があった為に一応確認したかっただけなので、店内で口頭で済む用件だったのだ。
それをこの団子屋は、わざわざ付いてくると言って聞かなかった。
お人好しが過ぎるのではないかと思ったが、こちらは教えてもらう側なので強くも言えない。
「助かった、⋯です。早速行って⋯み、ます」
「僕も行きます」
それなりに予測出来ていた展開だが、現実になるとちょっと面倒、いや、困惑する。
たかみは店主の娘を探すために、町人に話を聞く必要があった。
円滑にその作業を終わらせるには、多少は無宿人っぽさを消す努力をしなくては、そう考えたたかみは店主と別れたあと、急いで頭も身体も神社の隅で見つけた小さな池でゴシゴシと洗い、前の晩に洗っておいた肌着と着物に着替えた。
ちなみに池は手入れもされてなかったから忘れられた池、⋯神社所有の池なのだろう。多分。
そんな訳で、昨日会った時より汚れも匂いもマシのはずだが、たかみが気にしているのはそこではない。
丁寧な言葉遣いが、正直、心底疲れる。
「僕、その女性の背格好なんかも覚えてますし。一緒に探しますよ」
有難い申し出だ。
確かに、たかみは店主の娘の顔を知らない。
背格好や、行方知れずとなった日の服装やらを聞いてはいるが、実際に顔を見ているといないでは格段に情報量が違う。
娘を見つけるまでの間、その間だけの辛抱だ。
たかみが眉を寄せ、この後しばらく苦行に耐える決意をした所で団子屋が口を開いた。
「それから、どうか気を遣わないで。あなたの喋りやすいように話してください」
心を読まれたのかと驚いたが、それ以上に喜んだ。
現金なようだが、早速お言葉に甘えよう。
「有難え!!是非ともそうさせてもらうぜ!⋯団子屋はどうして昨日あそこに?⋯⋯って、供え物持ってたって事は参拝か」
当たり前のこと聞いちまったな、と思わず苦行から逃れて浮かれた自分を笑う。
「そのつもりだったんですが、⋯急用を思い出したのであなたに預けて引き返したんです」
「えっ、じゃあ社には近付いてないのか?」
たかみが思わず聞き返すと、団子屋は不思議そうな顔をする。
「ええ、⋯⋯それが何か?」
「いや⋯」
(その割にあの2匹にえらく嫌われてる⋯⋯とは言えねえし)
そう思いながらちら、と団子屋を見ると、ふわりと微笑まれる。
(困ったな⋯、悪い奴に見えねえんだよな⋯⋯)
そうこうしている内に目的地に着いたようだ。
「⋯結構にぎやかな長屋だな!!これだけ人目がありゃあ、目撃情報がわんさか聞けるかもな!」
こりゃ簡単に見つかるかも、とたかみは意気揚々と乗り込む。
「あ。ちょっと、おねーさん」
そう言ってたかみは人の良さそうな恰幅の良い女に声をかける。
「この辺で青色の着物を着た、身の丈四尺三寸ほどの、身なりのいい娘を見なかったか?」
たかみは自分の顎あたりの高さに掌を上げる。
実はたかみは女にしては少々背が高めなのだが、それにしても店主の娘は小さい。童の様だ。
「誰だい、そりゃ?」
女は子どもに飴を渡すと長屋に押し込みながらたかみの方を向く。
得体のしれないたかみに警戒しているのかも知れない。
たかみは人懐っこく、だけど媚び過ぎない笑顔でもう一度尋ねる。
「知り合いの娘なんだ。昨日ここらに来なかったかい?」
「ここにはそんなお嬢さん居ないよ!居たら長屋中大騒ぎだ!!」
あはは、と女は豪快に笑った。
たかみが改めて周りを見ると、年頃の男達がたかみを見てどこかそわそわしている。
そして後ろに立つ背の高い男、つまり団子屋との関係を訝しんでいるようだった。
なるほど。分かってはいたが、身なりの良い団子屋と、庶民らしく急誂えした小汚いたかみの組み合わせは、思ってた以上に違和感しか与えないらしい。
そしてたかみのような女でも年頃の娘として意識されるのだから、身なりの良いお嬢さんなら大騒ぎどころではないだろう。
この数ヶ月、人と関わらない様に生活していた所為でその辺の感覚がおかしくなっていた様だ。
それでなくとも、たかみは自分の生活で精一杯で色恋だの結婚だの、考えたこともなかった。
ああ、いつの間にか自分もそんな年齢になっていたんだなと驚くばかりである。
「それもそうか」
そう言うと、たかみは女に礼を言って離れる。
それでは店主の娘はこの辺りをすぐに通り過ぎた為に印象に残らなかったのか、そもそもここを通らなかったのか。
ここを通らなかったとすると、引き返したか、他に脇道があったのか。
たかみが思い巡らせていると、今まで黙ってたかみの様子を見守っていた団子屋が口を開く。
「⋯⋯折角なのでもう少し聞いて回りませんか?」
長屋の他の住人達を指差してたかみに微笑む。
お人好しが過ぎるのか、責任感が強いのか、面白がっているのか分からないが、協力してもらっている身だ。団子屋の要望も聞いておこう。
また団子を供物にもらえるかも知れない。
「知らない知らない」
「悪い、急いでんだ」
先刻の女性はたかみの見る目が良かったのか話を聞いてもらえたが、他の住人達はろくに話も聞いてもらえない。
それもそのはず、もう八ツ時。夕飯の支度を始めようと言う頃だ。
「うーん⋯、この辺に来てないとすると、一本道を引き返したのかもなあ。念の為、脇道がないか確認しながら戻るか」
手掛かりがなくなっちまったな、とひとりごちるたかみを団子屋が神妙な面持ちで見る。
「少し⋯妙じゃないですか?」




