第6話 長ぐつをはいた猫耳娘
「申し遅れました。私はウェリーズ王室メイドのリーチェと申します」
猫耳娘はそう名乗ると、スライディングした際のホコリをはたきながら立ち上がる。
年の頃は、メタルたちと同じくらい。
見た目は人間とそう変わらないが、茶色のボブヘアの上から猫耳が生えており、顔つきや仕草などから、そこはかとなく猫っぽさを感じさせる。
そして、特筆すべきはその服装!
黒のロングスカートにフリル付きの白いエプロン、頭にはフリル付きのカチューシャを乗せ、足元は赤い長靴を履いた、見目にもとても可愛らしい、これ以上ない猫耳メイド娘がそこにいた。
「お、王室だって?」
ギルドマスターのハンスは、リーチェの『王室メイド』の肩書に動揺をみせたが、メタルはそれをものともせずに。
「おいらはメタル・T・アシガーラ。エコノミークラス冒険者にして、アシガーラ王国の王子だ。よろしくな! で、こっちがステラ」
「ステラです。リーチェさん、よろしくお願いいたします」
「え? お、王子様!?」
むしろ、リーチェの方がメタルの名乗りに耳を疑う。
「いやあ、おいら猫耳娘ははじめて見たぞ! しかも、メイド服だ! すげえすげえ、本当に実在するもんだなあ」
「わたしも、はじめて拝見しました!」
メタルとステラは、猫耳メイドの周りをぐーるぐる回り、興味しんしん観察する。
「えっ? あっ、えっ?」
「こらこら、お前ら。お嬢さんが困ってるじゃないか」
ギルドマスターのハンスがたしなめると、メタルとステラはピタッと止まった。
「あ。そういや、リーチェはおいら達に用があったんじゃないのか?」
「そ、そうでした! あなた方は先ほど『ホーンラビットを20匹ほど捕まえて来た』って、言われてましたよね! それを全部、私に売ってもらえませんか!」
リーチェはハッと思い出し、鼻息荒くメタルにすがりつく。
「おいらは別に良いけど……、ギルド的には良いのか?」
「依頼品じゃなければ、お前さん達のもんだし、好きにすれば良い」
それならばと、メタルはまず10匹分のホーンラビットを並べる。角と毛皮と肉と魔石がきれいに分離されたプロフェッショナルの仕事ぶりに、それを見たギルド職員たちもほうと息をつく。
「これはおいらが狩った分。そして、これはステラが仕留めた分!」
メタルは10匹分の、ほぼ消し炭になった真っ黒い角兎らしき物を並べた。
「角は残ってるから、討伐証明にはなると思うけど」
「てへぺろです」
が。
「にゃあっ!? 毛皮が無い! これじゃあ、ノルマに数える事ができにゃい……」
リーチェは、分かりやすくorzのポーズで落ち込む。
あまりの落胆ぶりに、メタルはリーチェに尋ねる。
「何で、そんなにホーンラビットがいるんだ? BBQパーティーでもするのか?」
「角兎を食べたりはしませんが……」
リーチェは涙に濡れた顔を上げ。
「これには、聞くも涙、語るも涙の深い事情があるのです……」
ここウェリーズ王国には、二人の王子様がいらっしゃいます。
兄のクライン王子は、怠惰で意地悪。弟のカルバン王子は聡明で、礼儀正しく優しくて、スタイルも良く、顔もカッコ良くてイケメンで、それはもう素敵にゃ王子様です♡
しかし、昨日の夜の事、王国の国宝『ダイヤモンドブーツ』が何者かに盗まれてしまったのです。
国宝の守護はカルバン王子様のお役目。にゃので、クライン王子は弟王子を厳しく責め立てます。
さらには「ダイヤモンドブーツを盗んだのはお前ではないのか?」と糾弾し、カルバン王子を牢屋に閉じ込めてしまいました。
そして、カルバン様が必死に無実を訴えましたところ、「ならば、今日の日没までにホーンラビットの毛皮を100匹分持って来い。でなければ死刑だ!」にゃどと、あのバカ王子はムチャクチャにゃ事を言い出したのです。
「……というわけで、私はカルバン王子を救うべく、ホーンラビットの毛皮を求めて、冒険者ギルドに駆け込んだ……といった次第です」
「「おおー」」
話を聞き終えたメタルとステラは、パチパチパチと拍手をする。
「そこは拍手するとこか?」
「分かった! とりあえず10匹分あるから、あと90匹取ってくれば良いんだな?」
「え? 引き受けていただけるのですか?」
メタルの言葉にかすかな希望を感じ、リーチェは顔を輝かせる。
「楽勝楽勝! 行くぞ、ステラ!」
「はい、メタルさん!」
「ちょっと、待った!」
駆け出そうとするメタルとステラを、ハンスは呼び止める。
「お前ら、依頼も受けずにやるつもりか?」
「あっ、そうか。どうしたら良いんだ?」
「まず、リーチェさんはギルドに採取依頼を出して下さい」
ギルド窓口のお姉さんが説明を始める。
「モンスター退治の依頼は10万マドカからお受けします。今回は素材を直接依頼人に渡しますので、ホーンラビットの毛皮100匹分の市場価格を足し、緊急依頼の場合は料金2割増しになりますので、依頼料はしめて50万マドカになります」
「にゃあ!? そんにゃにするんですか? 全然足りにゃい……」
金額を聞いて、リーチェの顔が青ざめる。
「ん? リーチェはいくら持ってるんだ?」
「20万くらいしか、持ち合わせが……」
「じゃあ、それでいいや。行くぞ、ステラ!」
「はい、メタルさん!」
「それはダメだ!」
ハンスは、鋭く2人を制止する。
「そんな事してたらキリがなくなるぞ。他の冒険者たちにも迷惑がかかるし、冒険者ならキチンと正規の報酬を貰え。金が無理なら、他で対価を求めるようにしろ」
新人に冒険者のルールを叩き込むべく、ハンスは本気で忠告をする。
話に耳を傾けていた周りの冒険者たちも、うんうんとうなずく。
「他に、と言ってもなあ」
と、しばし考えを巡らしていたメタルは、急にピーンと来た。
「そうだ! じゃあリーチェ、おいらのハーレムに入ってくれよ」
どどーん!
ガタガタガタっと、それを聞いたギャラリー達はずっこける。ギルドマスターのハンスも慌てながら。
「何でそうなる!? お前、振り幅がデカすぎんだろ!」
「ダメか? 良い考えだと思ったんだけど。ちなみに、ステラはおいらのハーレム要員だぞ」
「メタルさんのハーレム要員第1号、ステラでございます」
ステラはロープの裾をつまみ、カーテシーをとって見せる。
「うん。それは人としてどうかと思うぞ」
「いいですよ」
ギクッと、周りの冒険者たちが驚きのリアクションを取る。
「この身1つで王子を救えるのにゃら、一向にかまいません」
「「「えええええっ!?」」」
可愛らしい猫耳メイドが、普通なら到底受け入れ難い条件を飲む。ありえない……とハンスをはじめ、ギャラリー達は愕然とした顔をする。
「ただし、カルバン王子の無実が証明された時の成功報酬、ということでお願いします」
「了解了解! やったー、ハーレム要員が増えたぞー」
「やりましたね!」
わーいわーい、ハーレム要員2号さんだー。と喜ぶメタルとステラ。
しかし、リーチェには別の思惑があった。
(ハーレムとか言われた時はどうしようかと思いましたが、この人間の王子は見るからにバカそうですし、適当に騙して逃げ切ってやりましょう。ふふふふふ、カルバン王子様のためにゃら、私は悪女にだってにゃりますよ……)
しかし、ハンスが言うには。
「とはいえ、もう日没まで時間がないぞ。今は15時を回ってるから、せいぜい行って帰って来るぐらいしか出来ないが」
「大丈夫! 全力で走れば、1時間くらいは狩りの時間は取れるはずだぞ」
メタルは、おもむろにリーチェを小脇に抱える。
「にゃあ!?」
ステラはメタルの背中に飛びつき、おんぶスタイルでスタンバイする。
「よし! 行くぞ、ステラ! と、リーチェ!」
「はい、メタルさん!」
「にゃあああああっ!?」
メタルはステラとリーチェを抱え、山の狩場に向けて、全力ダッシュで出発した。
【なろう辞典】
『ハーレム』:1人の男性を複数の女性が取り巻いている状態を指す。『なろう』では、主人公パーティーの構成は、男は主人公1人であとは美女だらけというのが大定番。女性メンバーも正統派美少女、獣人美少女、妖艶な美女などバラエティに富むことが多く、ご都合主義のイメージも強い。




