第7話 無事、依頼完了!
「よし、着いたぞ! って、どうしたリーチェ?」
「人間コワイ、人間コワイ……」
30分ほどかけて首都から西の山林の、ホーンラビットの狩場に戻って来たメタル達。
しかし、リーチェは自分の身体を抱きしめながらガタガタガタガタ震えている。
「何で、屋根の上を走ったり跳んだりするんですか!?」
「いや、そっちの方が近いし、急いでるんだったろ?」
「それは、そうにゃのですが……。ううう、吐きそう、気持ち悪い……」
「いやあ、しかしまさか、警察に通報されるとはなあ」
メタルがリーチェを小脇に抱えて走り、リーチェが悲鳴を上げていたものだから、人さらいだー! と通報され、衛兵に追いかけられて、大捕物になってしまったのだが。
「あと、何で人を2人抱えたまま逃げ切ってしまえるんですか!!」
「それはまあ、アシガーラではケガ人を抱えてモンスターから逃げるのは日常茶飯時だし?」
「どれだけ過酷にゃんですか、アシガーラ王国……」
一方、おんぶされていたステラは。
「すぴかー、すぴかー」
「ほらステラ、もう着いたぞ」
「……ふわ? メタルさん、おはようございます」
「何で、あにゃたはこの状況で寝てられるんですか!?」
ステラはふわあと伸びをしながら。
「すいません、メタルさんの背中は広くて大きくて、まるで雲の上に乗ってるみたいに寝心地が良くって……」
「そんな事言われたら、なんか照れるなあ」
わははわはは、えへへへへと笑いあうメタルとステラ。
何だこいつら、バカップルか? と、冷めた目で2人を見るリーチェ。
「さて、時間も無い事だし、さっそく始めるとするか。ステラ、さっきの場所はここで間違いねえよな?」
「はい! わたしが炎魔法で、黒焦げにした跡があるので間違いないと思います」
「あと何十分かで、本当にホーンラビットを90匹も捕まえられるのですか?」
もう頼れるものがないとはいえ、焦りもあってか、リーチェはメタル達を疑いの眼差しで見る。
「角兎は繁殖力が強くて、1匹見たら10匹はいると言われてっから、200匹以上の群れがいるはず。あとは、コロニーを見つけることが出来ればこっちのもんだ」
「理屈はわかりますが、そんにゃ簡単にいくはずが……」
「まあ、見てろって」
メタルはしゃがみ込むと、地面に手を当て、全身の感覚を研ぎ澄ませる。
「……こっちだ。ホーンラビットが固まっているところがある」
メタルはスタスタと林の中に押し入って行き、ステラとリーチェはそれに続く。
果たして、土の地面にいくつもの穴が空いた、ホーンラビットの巣の塊があった。
「まさか、こんにゃにすぐに見つかるにゃんて……。今のは〈スキル〉ですか?」
「いや? 五感を総動員して、ホーンラビットの気配を掴んだだけだ。簡単だろ?」
「だろ? と言われても」
「あとは、巣穴から追い出して一網打尽にする感じだけど……。ステラ、檻のように周りを囲って、なるべく角兎を逃がさないようにする魔法ってないか?」
「ホーンラビットを逃さないように、かつ毛皮を傷つけないようにですね。うーん、うーん……。あ、思いつきました!」
ステラは包帯を巻いた両手を前に伸ばし、呪文を唱える。
「準備ができました。お願いします!」
「よしきた、どすこーい!」
ドゴオォ!
メタルが四股を踏むと、巨体から放たれる衝撃で、大地や木々が大きく揺れる。巣穴からホーンラビット達が、すわ地震か!? とばかりにワラワラ溢れ、慌てて林の中に逃げ込もうとするが。
「〈ライトボール〉!」
ピカピカピカッ!
ステラが構えていた魔法を発動すると、巣穴群の一帯を取り囲むように大量の光の玉が包囲し、まばゆい光を明滅させる。
角兎たちは目眩ましを受け、その先に進む事が出来ずに立ち往生する。そこへ!
「おらおらおらおらぁっ!」
メタルは剣を抜いて、ホーンラビットの群れに突っ込み。
スヒュヒュヒュ、スヒュン、スヒュン!
目にも留まらぬ剣撃で、角兎を仕留めていく。
特筆すべきは、1回の斬撃でホーンラビットの毛皮、肉、内臓、魔石、骨を解体し、はたから見ればメタルの周囲で角兎が次々と爆散しているかのように見えた。
「おらおらおらおらっと! ステラ、もういいぞ!」
「はい、分かりました!」
ステラが両手を下ろすと、周囲を覆っていた光が収まる。
あとには、100体以上のホーンラビットが、部位ごとに綺麗に山積みされていた。
一部始終を見ていたリーチェは唖然として。
「にゃ……、にゃんですか!? あの、見たこともない解体スキルは?」
「これか? スキルじゃねえよ。ただ剣で斬っただけだ」
メタルは剣を担いでニヤッと笑う。
「ええっ!? じゃあ、あの光の壁はにゃんだったのですか? さっき〈ライトボール〉って?」
「えっと、あれは光魔法の〈ライトボール〉の小っちゃいものを、光量を最大にして、そのぶん持続時間を最小にして、それを大量にばら撒いたって感じです」
普通なら夜に明かりを灯したり、洞窟探索の時に使う光の玉を作り出す技であるはずの〈ライトボール〉を、自在に応用するステラの魔法技術。
「そんな事が、可能なんて……」
「大量大量、わははわはは」
「大量ですねー」
あっという間にホーンラビット100体を狩り終わり、メタルとステラは楽しそうに素材の回収をする。
(もしかして私は、とんでもない人達と出会ってしまったのでは……?)
そんな2人を眺めながら、リーチェはしみじみと思う。
「よし、回収も終わったし、そろそろ行くとするか!」
メタルは、またおもむろにリーチェを小脇に抱える。
「にゃあ!?」
ステラは、またメタルの背中に飛び乗り、おんぶスタイルでスタンバイ。
「よし! 帰るぞ、ステラ!」
「はい、メタルさん!」
「にゃあああああっ!? また、このパターンですかぁぁぁ!?」
メタルはウェリーズ王城を目指し、再び全開Bダッシュで走り出す。
30分ほど野を越え、壁を越え、屋根を越えて走り続け。
「よし、王城についたぞ!」
ウェリーズ王国の王城に無事たどり着いた、メタル達。
太陽はまだ地平線の上。日没まであと30分ぐらいは余裕があり、『走れメロス』のようなギリギリ到着といった感じではない。
「はあ、はあ、今度こそ死ぬかと思った……」
「大丈夫か? まだ時間はあるから、少し休んでくか?」
「大丈夫ですか? 回復魔法でもかけましょうか?」
「い、いえ……、カルバン王子を助けられるのなら、にゃんのこれしき、ふろしきです」
「しかし、ウェリーズの城は、ウチのと違ってだいぶ小綺麗にしてるなあ」
ウェリーズ王城は、カットした石を整然と積み上げた石壁に、三角錐形の赤い屋根。
物見の塔を四方に備えた、オーソドックスな形式の城である。
岩を並べてガシガシ固めた、頑丈さだけが売りのアシガーラ城との違いを感じ、メタルは世界の広さを垣間見る。
「よし、これでバッチリ100匹かな? 念のために2、3匹分おまけしとくか」
メタルはリーチェが休憩している間に、依頼品のホーンラビットの毛皮を、マジックバッグから大きな白いズタ袋に移し替える。
「女の子が持つには、けっこう重いと思うが、持てるか?」
リーチェはヒョイと、ズタ袋を担ぎ上げる。
「心配ご無用です。これでも獣人ですので、これくらいへっちゃらですよ」
「そんじゃあ、明日の10時に、またギルドで落ち合うってことでどうだ?」
「あ、そ、そうですね……」
次の約束に、リーチェはしどろもどろになりながら答える。彼女にはまた、彼女の思惑があった。
(次に会う機会にゃど、ある訳無いじゃにゃいですか。このままバッくれてやりますよ。もし彼がゴネるようなら、ハーレムを強要されたといって警察に駆け込めば、セクハラ容疑の現行犯逮捕で万事解決。ふふふふふ、カルバン王子様のためにゃら、私は悪女にだってにゃってやりますよ……)
「それではメタルさん、ステラさん。大変お世話ににゃりました。私はここで」
「うん、また明日な」
「また明日、お会いしましょう」
メタルとステラは、リーチェに別れを告げて、その場から去っていく。
リーチェは、その背中を眺め。
「頼もしいし、悪い人達じゃにゃさそうだけど、人間は信じられにゃい、信じてはいけにゃい。信じられるのは、カルバン王子様だけ、カルバン王子様だけ……」
そう独りごち、2人に背を向けて王城の階段を登っていった。




