第3話 長ぐつの国、ウェリーズ王国
「いやー、やっとこさ大きな街に着いたなあ」
ステラをハーレム要員に加えたメタルは、スターダスト王国を素通りし、次に経由する国である『ウェリーズ王国』の首都『ウェリーズ』に到着した。
「ふああああっ、りっぱなお街です!」
街並みは白い石壁と赤い屋根の建物で統一され、赤土の路面は石1つ落ちていないことから、この国がきっちりとした為政者に、かっちりと統治されていることがうかがえる。
ごった返す人の群れ、居並ぶ店先は活気で溢れている。
「さすがに、アシガーラよりも栄えてるなあ」
「人がいっぱいです! なんだかうまうまそうな匂いがします!」
ステラは、メタルの背中におぶさりながら、わくわくを抑えきれないといった声ではしゃぎまくる。
それもそのはず、ステラは生まれてこの方、城の外から一歩も出た事が無かったのである。そんな彼女を誰が咎めることができようか。
「ふわあっ!? 犬はオシッコする時、片足を上げるのですね!」
「わははわはは、ずいぶん楽しそうだなあ」
彼女は見るもの全てが新鮮そのもので、何を見聞きしても、ふああふああと感心する。
「この、ウェリーズ王国は長ぐつの名産地で、革製品とか装備品とかの生産が盛んだとお聞きします」
「おー、なかなか詳しいな。ステラは地理が得意なのか?」
「わたしはお城でする事がなかったんで、ずっとお勉強ばっかりしてましたから」
えへんっと、メタルの背中の上でふんぞるステラ。
「でも、帝都ファウンテンに行くなら、ウェリーズ王国も素通りした方が早いのに、なぜ首都のウェリーズに立ち寄られたのです?」
「そりゃ首都まで来たら、きっとステラに似合う靴が見つかるだろうと思ってな」
「えっ、わたしのために?」
「まあ、そればっかりでもねえんだけど。あと、服も見繕わねえとな」
「かさねがさね、申し訳ないです」
「遠慮すんなって。そういう時は、ありがとうって言うんだぜ」
「あ、ありがとう、ございます……」
ステラのたどたどしいお礼を背中で聞いて、満足そうに笑うメタル。
しかし。
「何あれ?」
「デカい男が、ミイラをおぶって歩いてるぞ」
「気味が悪いな」
「ママー、あれ何?」
「シッ、見ちゃいけません」
街路をすれ違う人々から、ジロジロと奇異な目を向けられる。
「あの、メタルさん、わたし降りた方が……」
自分のせいで、メタルまで変な目で見られていると思い、しょも……と元気を失うステラ。しかし、メタルは一向にかまう様子も見せず。
「わははわはは、デカいおいらが女の子おぶってたら、どう見たって不審者か人さらいだよなあ」
「い、いえ、怪しがられてるのはわたしの方で」
「おっ、服屋っぽいところに着いたぞ」
いかにも大商店と言わんばかりの、豪奢な構えの店が目の前に現れる。
店の看板にはルイビトォンと書かれている。
しかし、メタルは臆することなく、堂々と店内に入ろうとする。
「たのもーう!」
「はい、いらっしゃ……ませ?」
揉み手をしながら現れた店主は、ミイラを背負った巨漢を見て、動きが止まる。
「おいらはアシガーラ王国のメタルだ! この娘に合った服が欲しいんだけど」
「分かりました。あなたの様な方々は、ウチの店の格式に合わないのでお引き取りください」
ピシャンッと扉が閉じられる。
「あ、ちょっと待ってくれ!」
メタルが扉に手をかけようとすると、ガシャっと「CLOSED」の札がかかり、鍵を閉められた。
あまりの早技に、呆然とする2人。
「……しょうがねえ。他の店に行ってみるか」
次の店では。
「冷やかしなら帰ってくれ」
その次の店では。
「間に合ってます」
その次の次の店では。
「お前らに売る服などない!」
とまあ、けんもほろろ。結局、靴も服も買えずじまい。
「……やっぱり、わたしのようなミジンコよりも矮小な存在が、着る服なんて無いのでしょうか」
「急にネガティブ! 少し郊外の店に行ってみようぜ。なんか違う展開があるかもしれねえ」
しょもも……と落ち込むステラをなぐさめなぐさめ、メタルは郊外の少し寂れたお店にたどり着く。
店の名前は『シモムラ』。
「たのもーう!」
「いらっしゃ、うわっ! ケガ人ですか!? お医者さん呼びましょうか?」
と、人の良さそうな店長は、ステラを見るなり心配の声を上げる。
「あ、いえ、これは違いまして」
「そ、それでは、車いすを持ってきましょうか? 少々お待ちを!」
店長は、慌てて店の奥に消えていった。
「ここは良い店みたいだな」
「本当ですね」
戻って来た店長に、ステラの包帯はケガとかではない事を説明し、彼女に動きやすい靴と服を見繕ってもらうようお願いする。
店長が選んで来たのは、薄桃色の旅人のローブと、キャラメル色の革のブーツ。
「メタルさん、どうですか? 変じゃないですか?」
女性らしいデザインの服を着て、ようやくステラはミイラから、顔に包帯を巻いた女の子に見えるようになった。
「おー、よく似合ってるぞ」
ファッションセンスが皆無なメタルも、何となく良い感じなのは分かる。
店主にお代を払い、礼を言って店を出た。
「〜♪」
ようやく自分の足で歩けるようになり、上機嫌でスキップしながら、メタルの後をついてくるステラ。
「足が痛くありません! コレならどこへでも行けそうです」
「そりゃあ、良かった。苦労して店を探した甲斐があったなあ」
「はい!」
街に戻って来た、メタルとステラ。
「牛サガリの串肉2つで、1000マドカだよ! 毎度ありー!」
メタルは屋台で串肉を2本買い、1本をステラに渡す。
「うま!! ななな、何といううまさでしょう。牛のお肉なんて3年ぶりにいただきました……」
「そんなにか!?」
メタルはステラにもう1本の串を渡し、ステラは感涙しながら、両手に持った串肉を堪能する。
「ここで、ステラに残念なお知らせだ」
「ふわっ? な、なんですか?」
「路銀が尽きた。もう金が無くなっちまった」
どどーん!
メタルは巾着袋を逆さに振って、ホコリしか出ないのをステラに見せる。
「そ、そんな……」
ステラは、よよよ……と地面に突っ伏し。
「どうするんですか!? もしかして、わたしたちの冒険はここでエタっちゃうんですか!?」
「そこを『終わる』じゃなくて『エタる』と言うところは、ステラは通だなあ」
「いやあ、えへへ……じゃなくて! もしかして、わたしの服を買っちゃったからお金が無くなってしまったんですか? すぐ返して来ます!」
と、Bダッシュをかけようとするステラをメタルは呼び止め。
「まあ、落ち着け。遅かれ早かれ、帝国に着く前に路銀が尽きちまうのは分かってたからなあ」
「そうなのですか? ではメタルさん、これからどうされるおつもりで?」
「金が無いなら稼げば良い。『なろう』でも毎度おなじみ、みんな大好きなあそこに行ってみようぜ」
「あ、もしかして?」
*
メタルたちは、首都ウェリーズの商業エリアにある、一際大きな木造の建物を訪れる。
ここは『冒険者ギルド』。ファンタジーでは毎度おなじみ、説明要らずのアレである。
あえて説明をすると、冒険者ギルドとは民間の小さな仕事から、王侯貴族からの大きな荒事まで、各種依頼を一手に引き受け、『冒険者』と呼ばれるお仕事なんでもやりますマン達に斡旋する組織である。
「たのもーう!」
カランカランとベルの音を鳴らしながら、メタルは両開きの扉を押し開く。
ギルドの中はうじゃうじゃと、荒くれ者達が依頼を受けるためにひしめき合っている。
メタルたちは、まずは冒険者登録をするべく、新人用窓口の列に並んだ。
しばらくして。
「次の方どうぞ」
「おいらたちの番だな」
メタルとステラは窓口のカウンターに進み出る。受付嬢はステラを見るなり、ぎょっとした顔をするが、すぐに淡々と業務を始める。
「どちらから登録されますか?」
「おいらからお願いします」
「お名前をどうぞ」
「おいらは、メタル・T・アシガーラ! アシガーラ王国の王子だ!」
どどーん!
ザワザワッと、メタルの名乗りを聞いて、周囲がざわめき立つ。
「メタル・T・アシガーラ……と、それではジョブを決定しますので、そこの簡易測定機に手をかざしてください」
「こいつには、あんま良い思い出がねえけどなあ」
「はい? 何か言いました?」
「ああ、こっちの話だ」
メタルは、ステータス簡易測定機と呼ばれる、水晶体に手をかざす。
すると、受付嬢の手元のモニターに表示されたのは。
――――――――――――――
名前:メタル・T・アシガーラ
HP:S
MP:G
筋力:S
耐久:S
敏捷:B
魔力:G
魔耐:G
使用スキル:無し
――――――――――――――
「えっ!? えっ!? えっ!? スキル無し!?」
受付嬢がモニターを3度見し、思わず上げた声がギルド全体に響き渡る。
「ちょっ、ちょっとお待ちください!」
受付嬢がいったん事務所の中に消え、そして筋肉質の渋い男性を連れてくる。
「あー、はじめまして。オレはここのギルドマスターをやってるハンスという者だ。ちょっと、ステータスを見せてもらうぞ」
冒険者ギルド、ウェリーズ支部の総責任者であるハンスは、モニターの表示を眺め。
「ずいぶん偏った能力値だな。それに、スキル無しとは……。一国の王子ということだが、ここでは一冒険者として扱わせてもらうとして、君は『ジョブ』というものを知っているか?」
「はい、わたし知ってます! 冒険者の方の技能分類の事ですね!」
異様な姿をしたステラが元気良く返事すると、ギルマスのハンスはビクッとしたが。
「そのとおり。冒険者ギルドで、依頼の割り振りやパーティー編成の参考にするための、冒険者に対するタグ付けのようなものだ」
この世界で言うところの『スキル』とは、過酷な世界を生き抜くために、全ての生物に与えられるという神からの祝福とされている。
そして『ジョブ』とは、冒険者ギルドが冒険者が持つ『スキル』や『ステータス』を参考に、戦士系、格闘系、斥候系、魔導士系、僧侶系、弓士系などに分類し、その中でさらに細分化をしたものである。
たとえば、格闘系なら主に徒手空拳で戦う者は『格闘家』、攻撃魔法を絡めながら格闘戦を行う者を『魔闘家』、格闘系ながら回復魔法が使える者を『モンク』とし、その冒険者に見合った依頼を、滞りなく配分できるようにするための仕組みである。
「……なのだが、君は本当にスキルを持っていないのか?」
「はい! おいらはMPが0なので、スキルも無いです。だけどその分、根性はあります!」
どどーん!
「まあ、あるに越したことはないが、しかしスキル無しの冒険者とは、前例が無い……」
ギルマスのハンスは、しばし考え。
「では、しばらく様子を見るため、ひとまず君を『無職』とする!」
「王子なのに『無職』とはこれいかに!?」
どどーん!
「おいおい! 聞いたか、無職だってよー!」
メタル達の会話を聞いて、チンピラのような崩れた雰囲気を漂わせる、3人組の冒険者がオラつきながら近寄ってくる。
「しかもお前、アシガーラ王国の王子と言ってたか? アシガーラといやあ、国土も人口も少ない世界最弱の国! その王子といやあ、有名な『無能王子』じゃねえか!」
チンピラ達の口上に、周りの冒険者達も大いに笑い声を上げる。あまりの言いようにハンスは眉をひそめ。
「おい、お前ら。言い過ぎだ」
「いいや、ここはあえて言わせてもらうぜ」
ギルマスの制止を振り切り、チンピラ冒険者はメタルに詰め寄る。
「オレ達はなぁ、ここに毎日毎日、命を賭けて仕事をしに来てんだ。何の苦労も知らねえ、ブクブク肥え太った王子様なんぞが、遊びで来るような場所じゃねえ。しかも、スキル無しだと? 冒険者ナメてんじゃねえぞ!」
メタルは、なにかを堪えるように、身体が小刻みに震えている。
「ああっ、ブルってんのか? だったら、痛え目に合う前に、とっとと消え……」
「キタキタ、キターッ!!」
やにわに瞳を輝かせ、メタルは拳を突き上げる。
「「「!?」」」
「ステラ! これはもう、アレだよな!」
「はい! なろうテンプレの、『ギルドで先輩冒険者にカラまれる』です!」
と、勝手に2人で大はしゃぎするメタルたち。
さらに、メタルはチンピラ冒険者の肩をがっしり掴み。
「ありがとう!」
「!?」
「まさか、おいらになろうお約束の展開が訪れるなんて、夢みてえだ! 本当にありがとう!」
「!??」
「さあ、もっとおいらをバカにしてくれ。いっぱい悪し様にけなしてくれ! さあ、早く!」
めちゃくちゃ食い気味に、ノーガード戦法を取ろうとするメタルに、チンピラ達は気味が悪くなり。
「……おい、もう行こうぜ」
これ以上関わりたくないとばかりに、チンピラ冒険者たちは去って行く。
「えっ、なんで行っちゃうんだ? もっとおいらをケチョンケチョンにしてくれよ! その分、ざまぁするからさ!」
「いや、オレ達が悪かった。本当にもう、かんべんしてくれ」
「どどーん!? なんで、カラんでくれないんだ!? もっと罵ってくれよーっ!!」
メタルは、チンピラ達にすがりつこうとするが、彼らはそそくさとギルドから出ていってしまう。
うおおおーん、とメタルはギルドの床に突っ伏し、誰もいない扉に向かって慟哭する。
ギルド内は、シーンと静まりかえった。
「……なあ、ステラ。いったいおいらの何が悪かったんだろうな?」
ステラは、うーんと一考し。
「ちょっとがっつき過ぎてしまいましたね。もう少し相手が引くに引けないところまで、泳がせた方が良かったかもしれません」
「なんか、魚釣りしてるみてえだな。『ざまぁ』って難しいもんだなあ……」
【なろう辞典】
『エタる』:作品が未完のまま、完結しないこと。語源はエターナル(永遠のとか、永久に終わらないなどの意味)から。『なろう』で最も縁起の悪い言葉。
『ギルドで先輩冒険者にカラまれる』:『なろう』で冒険者ギルドに初めて行った時に高確率で発生するイベント。先輩風を吹かせた冒険者が、主人公やヒロインに因縁をつけてくる。だいたい、能力に目覚めた主人公にボコられて、スカッと『ざまぁ』展開にされるのがテンプレ。




