第8話 ビギナーズラックってあるんだな
学校からの帰り道────電車に乗った俺と氷川は、二駅隣にある大きなゲームセンターに来ていた。
「すごい音……」
「確かに、慣れてないとうるさいよな。大丈夫か?」
「うん、ちょっとビックリしただけ」
何回も来ている俺ですら、顔をしかめるくらいの音だ。
ゲームセンターに初めて来る氷川からしたら、そりゃ驚くのも無理はない。
「何かやりたいのはあるか?」
「う~ん。どんなのがあるか分からないし、とりあえず見て回りたいかも」
「分かった。気になるのがあったら言ってくれよ」
来る途中で、どんなゲームがあるのか説明しておけば良かったな。なんて思いながらも、俺たちはまずクレーンゲームコーナーを見ることにした。
「すごい数あるね。この中に入ってるやつを取るってこと?」
左右にずらりと並ぶクレーンゲームの機械。
中に入ってる景品を見て、氷川は目を輝かせている。
「そうだな。けどまぁ、沼にハマるとどんどん金が吸い込まれるぞ……」
「ふふっ、じゃあ気をつけないと」
初めて来て楽しんでる人には、夢を壊すような発言だったかもしれない。
でも、初めてだからこそ悲しい思いはしてほしくないと俺は思う。
「前田くんはこれ得意?」
「そこまでだな。運良く取れるってことはあるけど」
「そっか。あっ、これ可愛い~!」
「欲しいの見つかった……か……?」
氷川が見つめる先にあったのは、ブサイクな猫のぬいぐるみ。
これが可愛いのか……。
ちょっと俺には分からないな、と内心そんなことを思ってしまった。
「一回やってみたらどうだ?」
「うん、やってみる」
そう言って氷川が百円玉を入れると、クレーンゲームから軽快な音楽が流れ出す。
「このボタン押せばいいんだよね?」
「そうだ。ボタンを押すとアームが動いて、離せば止まるから。横幅と奥行きが合うように狙う感じだな」
初めてクレーンゲームをやる人の場に立ち会うこともなかなか無いから、なんだか新鮮な気持ちだ。
「う~ん、ここら辺かな。あっ、いきすぎたかも……」
氷川の狙いから少しズレたのが反応で分かった。慣れてくるとこんな反応もしなくなるから、なんとも微笑ましい。
「案外いいとこ狙えてると思うぞ?」
もっとも、ぬいぐるみは一回で取れそうな位置ではないから、何回かプレイすることを見越してだけど。
奥行きが合えば、いい感じにぬいぐるみも転がってきて取りやすくなると思う。
「もう一回やってみるよ」
再び百円玉を入れてプレイを始める氷川。
一回やって慣れたのか、ボタンの操作に躊躇いがなくなったような気がする。
「よっと……。どうかな」
アームが降りていき、ぬいぐるみを掴もうとする────だけど、狙いは外れてぬいぐるみの足を掠めただけだった。
やっぱり初めてじゃ難しかっただろうか……。
最初に俺がやって見せるべきだったな、と若干の後悔を感じていたら────
「持ち上がった! 凄いとこに引っ掛かってるよ」
その声を聞いてもう一度視線を向けると、足の近くに付いてたタグの輪っかがアームに引っ掛かって持ち上がっていた。
そのまま落ちることなく、出口まで運ばれてきたぬいぐるみ。
「やった! 見てよ、前田くんっ」
「……マジか」
これがビギナーズラックってやつだろうか。
なかなか見ないまぐれに、俺はただただ唖然としてしまう。
「ねぇ、もっとやりたいから他のも見に行こ!」
「あ、あぁ……そうだな。でも、ハマりすぎないようにな?」
「分かってるって」
氷川は楽しそうに笑いながら、早足で進んでいく。
お財布事情は知らないけど、のめり込んで大変なことにならないだろうか……。ちょっとだけ心配にもなる。
「次、これやってみようかな」
次に足が止まったところのクレーンゲームには、知らないキャラクターのぬいぐるみが山のように積んであった。
しかし、これまた────
「猫、好きなのか?」
「どちらかと言うと猫派ではある」
さっきとは違う猫のキャラクターっぽいけど、猫には変わりない気がするし……。
まあ、氷川がやりたいものをやらせてあげればいいか。
「私もよく知らないんだけど、クラスの子が流行ってるって話してたんだよね」
「へぇ、これが流行ってるのか……」
最近の流行は、俺には理解出来なさそうだな。
「あのくっつき合ってるのを狙ってみようかな」
「二個取りか、いきなり難しいことに挑戦するな」
「仲良さそうに見えるから一緒に取りたいなって」
百円玉を機械に入れて、さっきと同じようにボタンを押す氷川。
だけど、今度はさっきのようには上手くいかなかったみたいで────
「むう……。もう一回」
迷わず百円玉を入れて、再びチャレンジ。
さっきのぬいぐるみよりは手前にあるけれど、一気に取ろうとしてるからか上手いこと狙えてないらしい。
「……もう一回」
「ちょっと待った、氷川。俺にも一回やらせてくれないか?」
「前田くんが? いいけど……」
このままだとあっという間に金が溶けてしまいそうだったから、ひとまず止めに入る。
さて、やらせてくれとは言ったけど……どうやって取るかなぁ。
「何か狙い方みたいなのはあるの?」
「実は俺も詳しくは知らないんだよな。けど、やったことはあるから任せてくれ」
氷川に聞かれた流れで、大口を叩いてしまった。こうなったらなるようになれだ。
俺はボタンを押してアームを操作する。しっかり狙いを定めてから、アームが降りていくのを見守ると────
「あ~惜しいね、でもあとちょっと」
上手いこと手前に転がってきてくれたけど、ゲットは出来なかった。
でも、ぬいぐるみの身体半分が宙に浮いて出口に落ちかかっているから、あと一回で取れるはずだ。
「ここまで来たら取りやすくなったと思うから、氷川がやってみたら?」
「えっ、ここからどうやって取るの!?」
「えっと────」
お互い真剣な表情でクレーンゲームを見つめながら、出来る限り分かりやすいように伝える。
上手く説明出来てたかは分からないけれど、いつも以上に俺自身も熱中していることだけは分かった。
「分かった、やってみるね」
そうして、氷川が真剣に操作する様子を俺は隣で見守る。
アームが言った通りのところで止まり降りていくと────上手くぬいぐるみの身体を押して、一気に二つとも出口へと落ちてきた。
「取れた! いや~どうなることかと思ったよ」
「良かったな、氷川」
小さなぬいぐるみ二つを持って、満足そうに笑う氷川。それにつられて俺も思わず笑ってしまう。
「はい、これ。前田くんにあげる」
ぬいぐるみを抱えていた氷川は突然、二つのうちの片方をこちらに差し出してきた。
「俺にか?」
「うん、キミとの思い出が欲しくて二つ取ったから。もらってくれる?」
そんな恥ずかしいことを、真っ直ぐ見つめながら言ってくるもんだから、俺は不覚にもドキッとしてしまった。
こんな風に言われて、断れる人は果たしているのだろうか。
「ありがとう。大事にするよ」
氷川から受け取ったぬいぐるみに視線を向けてから、落とさないようにスクールバッグの奥にしまった。
「ねぇ、前田くん。楽しいね、ゲームセンターって」
「まだクレーンゲームしかやってないけどな」
「じゃあ、別のコーナーにも行こっ! まだまだ付き合ってもらうからね」




