第9話 この写真は見せられない
一通りクレーンゲームを楽しんだ俺と氷川は、上の階にあるアーケードゲームコーナーへと来ていた。
「凄い数……色んなゲームあるんだね」
「学生が楽しむなら、さっきのクレーンゲームよりもこっちの方がオススメだな」
高校生で財布に余裕がある人なんて、ごく少数だろう。
そんな中で比較的お金がかかりやすいクレーンゲームよりも、百円で確実に楽しめるアーケードゲームのほうがお得感がある。
「何か気になるゲームはあるか?」
「う~ん、選び放題で迷っちゃうな……」
クレーンゲームコーナーと同様に、氷川は興味津々な様子でキョロキョロしている。
「あっ、あれ面白そう」
そう言って差された指の先には、ガンシューティングゲームが。
あれは、俺もやったことがあるな。二人でもプレイ出来るやつだけど────
「あのゲーム、ゾンビとか出てくるし、結構血とか飛ぶけど大丈夫か?」
「全然大丈夫、ホラー系いけるから」
自信満々そうに、氷川はニヤッと笑みを浮かべている。
「ならやってみるか」
そうして交互に百円を入れると、ゾンビのうめき声がゲーム機から漏れてきた。
「これって、キミと競うの? それとも協力?」
「このゲームは協力だな。襲ってくるゾンビを協力して倒すんだ」
「倒した数を競うんじゃないんだね。なら、キミに守ってもらわないと」
「守れるほど余裕があるか分からないけどな、頑張るよ」
俺は苦笑しながら、紐で繋がれてる銃を手に取る。
クレーンゲームに比べるとプレイ経験は多いし、さっきよりは良いとこを見せられるはずだ。
「難易度はどうする? 初めてだしまずは簡単なとこから……」
「いや、一番難しいところにしよ」
勧めようとした俺の言葉を、氷川は食い気味に返してきた。
ずいぶん平然としてるけど、一番難しいのは俺でも難しかった記憶があるし。初心者には、流石に無理があるような……。
「このゲームはかなり難しい部類だから、無難にいったほうが氷川も楽しめると思うけど……」
「私、物覚え早いから大丈夫。キミに簡単なとこ付き合わせるのも悪いからさ」
これ、イケメンムーブに入ってるな……。氷川の目に、静かに燃え上がる炎が見える気がする。
まぁ物覚えが早いってのは納得だし、そこまで言うのなら────
「じゃあ難しいとこにするぞ? 後悔しても知らないからな……」
「いけるって。わっ、いきなり来た」
大きなゲーム画面に表示されたカウントダウンが終わると、まずは三体のゾンビがこちらに襲いかかってきた。
ちなみに簡単な難易度だと、最初に出てくるゾンビが一体だったり、こっちに歩いてくる速度が遅かったりする。
「氷川は右側を狙ってくれ。あとの二体は俺が片付ける」
「分かった」
両手で銃を構えて狙いを定めると、ゾンビに向かって撃ち込んでいく。
難易度が上がると、ゾンビの耐久力も上がるから何発も撃ち込まなければならないのだ。
横目で氷川の様子を見ると、本職さながらの構えで次々と銃弾を撃ち込んでいっている。
「こっから一気に数増えるからな」
「おっけ、慣れてきたから任せて」
少ない数で襲ってくるのは最初だけ。ある程度時間が経つと、休み無しで一斉に大量のゾンビが襲いかかってくる。
自分のほうを倒しながら、余裕があれば氷川のほうにも援護して────途中、何回かダメージを受けながらも何とかゾンビの波を跳ね返していく。
「ダメージやば……。そこっ。……よし」
横からボソボソと呟く声が聞こえると、かなり熱中しているのも伝わってくる。
「ふぅ、これで全部倒せたのかな?」
「いや、まだだ……」
あれだけ湧いてきたソンビが一体もいなくなったら、そりゃ終わったと勘違いするだろう。
けど、まだ終わりじゃない。この状態になったってことは────突如、ゲームから大きなサイレンのような音が響き出す。
画面内では、上から巨大な化け物が落ちてきて地響きのように揺れていた。
「このボスを倒さなきゃクリアじゃない。攻撃力高いから気を付けろよ」
「ボスいたんだ……体力ヤバいかも」
確かに、画面の下に表示されてる体力ゲージを見ると、氷川のほうは残りわずかだった。ちなみに俺の残りは半分程度。
「なるべく氷川のフォローするから。なんとか耐えてくれ」
そうして、氷川に攻撃が向かないように庇いながらボス戦を進めていく。
このボスは大量の小さなゾンビを呼び寄せてきて、一緒になって襲ってくるから厄介だ。
ジリジリと押し込まれてきて、体力ゲージも削られる。
そんな苦しい状況が続いていると────
「あっ、ヤバ……。あ~ごめん、やられちゃった」
俺のフォローが間に合わず、氷川の体力が尽きてしまった。
残されたのは、俺一人。再び真剣に銃を構えると、集中力を高めてどんどんゾンビを撃ち抜いていく。
「上手いっ、あとちょっとじゃない?」
氷川の言葉に返す余裕が無いほど、俺もゲームの世界に入り込む。
無言で────ゲームとは思えない、ガチな表情になってしまってるだろう。
それでも俺は周りの雑魚敵を倒すと、今度はボスに向けて銃弾を撃ち込んで。一人だから、防御はせずに。どんどん減り続ける体力ゲージとボスを交互に見て。
ひたすらに撃ち続けていると────あるとき、ボスから白い光が発せられた。
「やったんじゃない!? すごいっ、前田くん!」
「あぁ……なんか疲れたな……」
そんな風にホッとしていると氷川が手のひらを出してきたので、俺も手を出してハイタッチをする。
少しは、良いところを見せられただろうか。
「ふぅ。結構遊んだし、そろそろ帰るか?」
「あっ、最後に一ヶ所だけ……いいかな?」
「もちろんいいけど、何かやりたいのあったか?」
「やりたいっていうか。キミと一緒に、プリクラ撮りたいなって」
「はぁ!?」
予想外の言葉に、俺は周囲のゲーム音に負けない声を出してしまう。
プリクラって……あの、陽キャがワイワイ騒いで写真を撮るやつだよな……。
「友達から聞いたことがあって、少し気になってたんだ。お願い出来ないかな?」
「……しょうがないな」
そんな風に言われたら、断れるわけがない。
俺はため息混じりに言葉を吐きながらも、一緒にプリクラコーナーへと向かった。
大きいゲームセンターなだけあって、プリクラの機械もかなりの数がある。
やはり女子グループが多いけれど、男女で来てるカップルらしき人たちの姿も。周りには、俺たちもカップルと勘違いされてるんだろうか……。
さっきまでとは違う空気感で、変に固くなってしてしまう。
その緊張感から、俺はその場で立ち止まっていると────
「あれにしよ、前田くん」
氷川に手を引かれて、空いている台へ連れていかれた。
これじゃ、どっちが初ゲームセンターなのか分からないな……。
そこからは、ただただあっという間だった。
撮影が始まると、氷川も黙り込んでポーズを取る。
俺も無難にピースしたり、両手でピースしたり────自分のバリュエーションの無さに絶望して。
ようやく緊張が解けたのは、印刷されたプリクラを見たとき。
宇宙人みたいに大きく加工された目に、二人で吹き出して笑い合い。置いてあったハサミで、撮ったプリクラを分け合う。
そうして結構しっかり楽しんだ俺たちは、来たときとは反対方向の電車に揺られながら帰路へとついた。
星野や二階堂と来るときとは違った楽しさがあったな。未だに、知り合いと鉢合わせないかドキドキするけれど。
なお、撮ったプリクラは、家に着いた瞬間に自分の部屋の一番厳重な引き出しにしまったのだった。




